アブダビ首長国、世界の食糧問題の解決を推進する「アグテックエコシステム事業」をスタート

アラビア半島のペルシア湾岸に位置するアブダビ首長国の投資庁(ADIO)は、世界の食糧安全保障分野における課題解決を推進するための政策として、革新的な農業技術を持つナノラックス社(Nanoracks)、ピュアハーベスト・スマートファームズ社(Pure Harvest Smart Farms)、フレッシュトゥホーム社(FreshToHome)とのパートナーシップ締結を発表した。

今回のパートナーシップ締結は、同国のアグテック(AgTech)エコシステム強化を担う国内外のアグテック企業を対象にした投資プログラムの一環で生まれたもの。今年のはじめには、乾燥・砂漠気候地帯における次世代農業ソリューション開発を目的に1億米ドルが投資されたという。


長期的な世界の食糧安全保障の課題解決を目指して


アブダビ投資庁は、沙漠を緑化し、長期的な世界の食糧安全保障の課題解決を推し進めている。
ADIO事務局長のタリク・ビン・ヘンディ博士は「今年初めに提携した企業からの革新的なアイデアは、すでにアブダビにある24,000の農場の成長を後押ししています。ナノラックス社、ピュアハーベスト社、フレッシュトゥホーム社との提携は、陸・海・宇宙にわたるエコシステムに新たな領域を加えるでしょう」とコメントした。

今回のパートナーシップ締結に関連する組織・企業は下記の通り。

アブダビ首長国 投資庁(ADIO)


アブダビ首長国への投資を促進する同国の政府機関。革新的な投資家やあらゆる規模のビジネスを対象に同国のイノベーション・エコシステム全体とのつながりを推進する。

ナノラックス社(Nanoracks)


国際宇宙ステーションを商業目的に使用する世界唯一の企業。米国を拠点に宇宙研究で得た知見を農業分野に広げる。2019年にアブダビ首長国に建設した「スターラボ宇宙農業センター(StarLab Space Farming Center)」では、宇宙空間のような極端な気候条件で生産された農作物の知識と技術の進歩に関する研究を行っているそうだ。

ナノラックス社のアウトポスト

ピュアハーベスト・スマートファームズ社(Pure Harvest Smart Farms)


気候制御された環境でも新鮮な果物や野菜が栽培できる最先端の栽培施設を提供する企業。アブダビ首長国へは、スマート農業技術とインフラ技術を提供する。同国の東端に位置するアル・アインという都市の農場では、同社が提供したハードウェアや人工知能、自律栽培ロボット、植物科学の研究内容、砂漠地帯に適応した農業機械等を活用して、最適な栽培条件を実現したそうだ。

同社の技術は、従来の農法に比べ水の使用量を1/7程度に抑えることができるほか、環境に左右されない通年栽培も可能とのこと。現在は、動物由来ではない高品質かつ健康的なオメガ3脂肪酸を栽培する藻類バイオリアクター生産施設の研究開発と展開を進めている。

ピュアハーベスト・スマートファームズ社の栽培施設

フレッシュトゥホーム社(FreshToHome)


化学薬品を使用しない新鮮な魚や肉、野菜を提供する電子商取引プラットフォームを展開する企業。AIを活用したオークション・プロセスを通じて産地から農作物を直接入手する。今回のパートナーシップでは、「革新的な養魚技術ほか海洋および淡水魚種の養殖、精密農業等の専門知識を提供する」としている。

フレッシュトゥホーム社社の加工施設内

ADIO事務局長・タリク・ビン・ヘンディ博士は「「私たちは農業のバリューチェーン全体にイノベーションを推進し、相乗効果を生むことで、地域を超えてすべての農家、イノベーター、企業に利益をもたらしています」と述べ、世界的な食糧問題の課題解決へ意欲をみせる。

なお、各社へのインセンティブは、イノベーションに関連した高スキルを持つ人材の給与、ハイテク設備投資、土地、電気・ガス・水道費、知的財産のサポートなど各社のアブダビでの事業展開に使用される予定だという。


アブダビ首長国
https://www.investinabudhabi.ae/
アブダビ首長国、アグテック投資対象を陸・海・宇宙分野に拡大しエコシステム強化
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000055440.html
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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