農林水産技術会議が「2020年農業技術10大ニュース」を発表

農林水産技術会議は、民間企業や大学、公立試験研究機関、国立研究開発法人等が2020年に実施した農林水産に関係する研究成果の中から、社会的関心の高い研究成果をまとめた「2020年農業技術10大ニュース」を発表した。

「2020年農業技術10大ニュース」は、農業関係専門紙ら29社が加盟する農業技術クラブの会員による投票で決定したもので、農研機構が実施した病害診断の根拠を説明できるAI開発やJA全農が実施したスマートフォンを活用した土壌分析など10課題の研究成果が紹介されている。



農業のスマート化や豪雨災害への対策等に向けた研究成果を紹介


「2020年農業技術10大ニュース」で紹介されている研究成果は以下の通り。

TOPIC1
判断の根拠を説明できるAIを開発
-生産者も納得の病害診断に活用-

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、従来のAI技術では困難とされてきたAIモデルが学習した特徴や学習に基づく判断根拠を可視化する技術の開発に成功した。
この技術は、AIによる病害診断において診断の根拠となる画像の特徴を可視化してくれるため、人間がAIの判断の根拠を理解できるというもの。
農研機構では、「農業分野での活用はもちろん、判断の根拠を説明するAIが必要な他分野への活用も期待できる」としている。

TOPIC2
手軽で簡単!スマホを使って土壌分析
-個人差のない測定法を開発-

JA全農は土壌分析用の試験紙と簡易測色ツール、スマートフォンを組み合わせた新しい簡易土壌分析法の開発に成功。
同技術を活用すれば目視によって判定されてきた試験紙の発色程度を、スマートフォン等のデバイスを通じて確認・判断することができるという。
JA全農では、「分析結果に基づいた肥料成分の過不足を考慮した施肥管理が可能になる」としている。

TOPIC3
赤色LEDでアザミウマ防除
施設栽培の化学農薬削減に貢献-

地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所、農研機構、静岡県農林技術研究所、株式会社光波ら4者で構成する研究グループは、赤色発光ダイオード(LED)でアザミウマ類を防除する技術を確立した。
施設栽培のナス、キュウリ、メロンのミナミキイロアザミウマに対しての効果を確認した。
4者は、「化学農薬の使用削減につながる新手法として期待できる」としている。

TOPIC4
身近な事例で実感!農作業事故事例検索システムを公開
-実効性のある安全対策の実施を強力にサポート-

農研機構は農業現場で発生する農作業の事故事例と原因および対策を、WEB上で閲覧できる「農作業事故事例検索システム」を開発・公開した。
これにより個別の事故報告の原因や改善策の詳細な分析が可能になり、農作業現場に潜在する危険な箇所や対策などの情報を生産者が容易に得られるようになった。
農研機構は、「これまでの注意喚起に留まらない実効性のある安全対策の検討と実施が可能になる」としている。

TOPIC5
安全に手軽に!田んぼダムで豪雨対策!!
-減収させない湛水の目安と安価な水位管理器具の開発-

農研機構は、豪雨対策として水田が持つ雨水の貯留機能を活用するため、水稲の減収を抑えられる湛水深とその継続期間の目安を明らかにした上で、リーズナブルな価格で手軽に設置できる水位管理器具を開発した。
この開発により農研機構では、「豪雨対策について農家を中心に地域一体で取り組むことで、下流の農地や周辺住宅などへの被害軽減効果が期待できる」としている。

TOPIC6
消石灰の消毒効果を見える化
-今がまき時!待ち受け消毒の徹底をアシスト-

室蘭工業大学は、株式会社コア、ティ・イー・シー株式会社、宮崎県、北海道白糠町と共同で、消石灰の消毒効果を判別する可視化剤の開発に成功した。
開発されたのはスプレーするだけで消石灰の劣化状態を確認できる可視化材で、開発チームは定期的に消石灰の状態を把握することが、鳥インフルエンザや豚熱等の家畜伝染病予防、災害時等の感染症予防に繋がるとしている。

TOPIC7
イネの茎伸長において相反する機能を持つ2つの遺伝子を発見
-イネ科作物の草丈制御に活用-

名古屋大学を中心とした共同研究チームは、イネの茎伸長において相反する効果を持つ2つの遺伝子を発見した。
研究では、伸長促進効果をもつACE1遺伝子と伸長抑制効果をもつDEC1遺伝子による茎伸長の制御メカニズムが、イネ科植物において共通していることが判明。
研究チームは、「イネやコムギ、オオムギ等のイネ科作物の草丈を、人為的に制御する技術への応用が期待できる」としている。

TOPIC8
農業用水路がヒートポンプの熱源に!
-流れの中にシート状熱交換器をおくと熱交換効率がアップ-

農研機構は、流水中の農業用水路にシート状熱交換器を入れると静水中設置の約2.5倍、土中設置の約15倍の効率で採熱できることを解明した。
農研機構は「農業用水路をヒートポンプの熱源として有効利用できるほか、農業用ハウスの冷暖房で消費するエネルギーやランニングコストの削減も期待できる」としている。

TOPIC9
AIによる温州みかん糖度予測手法を開発
-適切な栽培管理への活用に期待-

農研機構は、膨大なデータを学習したAIと蓄積された前年までの糖度データおよび気象データを活用して温州みかんの当年の糖度を予測する手法の開発に成功した。
糖度予測は地区単位で7月ごろから高精度な予測が可能とのこと。農研機構では、「適切な栽培管理が可能になることで温州みかんの品質の向上に役立つ」としている。

TOPIC10
水稲に被害を及ぼすフェーンの発生を3日前に予報
-白未熟粒の発生低減へ-

農研機構は、領域気象モデルを用いた気象予報を基に水稲のフェーン被害が予測される場所を1kmの解像度で解析、表示するシステムの開発に成功した。
現在は、九州地方を対象に農研機構の栽培管理支援システムから情報発信しているとのこと。今後は北陸地方への導入を予定している。

それぞれのトピックスについての詳細な資料は下記の通り。

2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 1
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 2
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 3)
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 4)
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 5)
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 6)
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 7)
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 8)
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 9)
2020年農業技術10大ニュース(TOPIC 10)


農林水産技術会議
https://www.affrc.maff.go.jp/index.htm
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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