農研機構、イネの収量や品質を予測する「ゲノム選抜AI」を開発

農研機構は、イネ育種事業で蓄積した大量のデータと品種・系統のゲノム情報を統合して構築した大規模なデータベースとAIを用いて、イネの収量や品質を予測する「ゲノム選抜AI」を開発した。

「ゲノム選抜AI」は、大規模なデータに基づく育種選抜を可能にするスマート育種システム研究の一環で開発されたもの。農研機構は、「良質な品質と高い収量性を兼ねたイネ品種の育成の加速化・効率化に役立てたい」としている。


育種プロセスの概要|出典:農研機構

穂長・穂数・精玄米重・玄米品質の4形質で高精度な予測を示す


現在、農研機構ではSociety5.0農業・食品版の実現、国際競争力の強化、気候変動等への対応を目的に、遺伝子型や栽培環境、生育特性など育種に関する大規模データを活用して育種を選抜する「スマート育種システム」の研究を進めている。

今回の研究は、家畜やトウモロコシ、林木等の育種分野で実用化が進むゲノム選抜法の応用を目指したもの。同研究では、出穂期、成熟期、稈長、穂長、穂数、全重、収量(精玄米重)、玄米千粒重、玄米品質、食味の10形質を対象に、ゲノム選抜AIの構築に必要な形質情報とゲノム情報のデータベースを作成。保有するAI研究用スーパーコンピューターを用いて、約750品種・系統のゲノム塩基配列を解析した。

ゲノム選抜AIの概要|出典:農研機構
農研機構は、解析で得たデータと次世代作物開発研究センターが保有する129品種・系統の形質データを用いて、統計モデルの一つであるゲノミックBLUP法から「ゲノム選抜AI」を構築。

収量と品質の予測値と実測値の比較する検証試験では、穂長、穂数、精玄米重、玄米品質の4形質において高精度な予測結果が得られたという。

形質別の予測精度|出典:農研機構
近年、イネの品種改良は、ゲノム情報の違いから形質を予測して個体を選抜するDNAマーカーの利用が進んでいる。しかし、選抜に関わる遺伝子の数が少数の形質に限られることから、収量性など多数の遺伝子が複雑に関わる形質には利用できない側面があった。

今回の「ゲノム選抜AI」を用いた選抜が実現することで、交配から品種育成に至るまでの期間を2年ほど短縮できるほか、従来では難しかったインド型品種と日本型品種の優れる点を併せ持つ品種育成の加速化が期待できるという。

将来的には、目標となる品種が持つべき形質を実現するゲノムを人工知能がデザインし、それに基づいて交配親を選定して育種を行う「データ駆動型作物デザイン」の実現を目指す。

農研機構は、今後もこの研究を継続して、最終的には900品種・系統以上のゲノム塩基配列を整備したい考えだ。


農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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