三菱ケミカル、全国初の濃縮バイオ液肥施設で約20倍の肥料成分濃縮に成功

三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社が、全国初の濃縮バイオ液肥施設で約20倍の肥料成分濃縮に成功した。濃縮バイオ液肥は、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」において、化学肥料の低減等の取り組みに貢献する技術である。

循環型農業の実現を目指す


三菱ケミカルアクア・ソリューションズは、さまざまな産業分野で培ってきた高い技術と経験を基に、排水の種類・組成に合わせた最適な処理システムを提案する企業。

同社のグループ企業が製造した中空糸膜を用いたMBR(膜分離活性汚泥装置)を主軸に、官需(下水、ゴミ浸出水)、産業排水(食品、化学、畜産)、難分解性COD処理などあらゆる分野に対応したソリューションの提供を通じて持続可能な社会の実現に貢献している。

今回の成果は、三菱ケミカルアクア・ソリューションズ、九州大学、静岡県立大学、福岡県築上町、福岡県みやま市の5者が、公益財団法人福岡県リサイクル総合研究事業化センターの支援を受けて実施した「濃縮バイオ液肥製造に関する事業化プロジェクト」によるもの。

し尿・浄化槽汚泥を原料とする液肥の濃縮を行い、農業利用できる濃縮バイオ液肥の製造を事業化し、循環型農業の普及・促進を目指していく。

化学肥料と遜色ない生育を確認


福岡県築上町では、し尿や浄化槽汚泥を液状の肥料(液肥)にし、すでに水稲や麦などの栽培に使用する循環型農業に取り組んでおり、排水処理費用の削減と資源循環を実現している。

今回の共同研究プロジェクトでは、築上町に建設した全国初の液肥濃縮施設を使用して、濃縮技術の向上に取り組んできたという。その結果、膜分離による懸濁物質の除去と電気透析を行うことで、肥料の主要成分である窒素およびカリウムを通常の液肥の約20倍に濃縮することに成功した。

これにより、農作物に与えたい濃度で肥料成分を調整できるようになり、化学肥料を使用した場合と遜色ない生育も確認。液肥の輸送コストや保管スペースを削減でき、さらに、水稲や麦などの大規模土地利用型農業だけでなく、これまで利用できなかった施設園芸や家庭菜園での利用が可能になったという。

築上町が建設した全国初の液肥濃縮施設(福岡県築上町)

(左)通常液肥(右)濃縮バイオ液肥
濃縮バイオ液肥は懸濁物質の除去で透明度が増し、さらに電気透析で肥料成分が濃縮されている

三菱ケミカルアクア・ソリューションズは、リ総研共同研究プロジェクトの研究代表者として、施設の設計や性能確認および事業化の検証を行い、濃縮工程に同社グループ製の中空糸膜エレメントを導入している。

今後は、他の自治体や事業体の液肥製造工程へのソリューション提供を進め、循環型農業を推進し、サステナブルな社会の実現に貢献したいとのこと。

三菱ケミカル製の中空糸膜エレメント


三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
https://www.mcas.co.jp/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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