農研機構、栽培しやすく食味に優れたりんごの新品種「紅つるぎ」を育成

農研機構は、食味に優れ栽培しやすいコンパクトな樹姿のりんご新品種「紅つるぎ」(系統名:盛岡74号)を約30年をかけて育成したと発表した。生産基盤が縮小傾向にある日本のりんご生産を革新する品種として期待される。

「紅つるぎ」を利用した園地
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/163351.html

スマート農機への高い適性に期待


りんごの栽培は、管理作業に多くの人手を必要とすることから、農業従事者数は減少し、りんごの栽培面積も減少している。このような状況で需要を満たすためには、省力化に向けた果実生産システムの抜本的な改善が必要だという。

本来りんごは高木に育つため、これまではわい性台木を利用し、生育を抑制することで樹高を低くして作業効率を高めてきた。また、高収量で高品質果実を生産する高密植わい化栽培のための樹形の開発も行われている。

今回農研機構は、更なる省力栽培を進めるため、枝が横に広がらず、コンパクトな樹姿になる省力栽培に適した特性を持つ品種を開発した。

海外のりんご品種「McIntosh(マッキントッシュ)」の枝変わり品種である「Wijcik(ウィジック)」がもつカラムナー性は、コンパクトな樹姿となり、省力栽培や自動収穫機などのスマート農機の利用に適する特徴として期待されている。しかし、これまでに日本の主要品種並みの果実品質を持つカラムナー性のりんご品種は育成されていなかった。

カラムナー性の「紅つるぎ」と分枝型の樹の図
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/163351.html

今回の研究では、海外から導入したカラムナー性の系統を母本として、約30年の育成期間をかけて日本の優良品種と2世代の交配を行い、カラムナー性をもち、日本の消費者の好みに合致する、既存の主要品種並みに食味の優れる新品種「紅つるぎ」を育成した。

 「紅つるぎ」の育成経過

紅つるぎは、「ふじ」などの一般的な分枝型のりんご品種とは異なり、枝が横に広がらず、コンパクトな樹姿になる性質が特徴。育成地である岩手県盛岡市での果実の収穫期は、10月上旬の中生のりんご品種であり、糖度は14%と高く、糖酸のバランスがよく、食味も優れている。

「紅つるぎ」、カラムナー性の母本、りんご主要品種の糖度と糖酸比
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/163351.html

表1 「紅つるぎ」の育成地(岩手県盛岡市)における樹の特性(2020~2022)
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/163351.html

果皮の色については、濃赤色で着色はしやすい一方で、果梗部分が短く果実が枝に密着していて、着色管理のための玉回しができないことから、果梗部の着色は均一にはならないという。

図2 「紅つるぎ」の果実(左:樹上、右:収穫後)
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/163351.html

紅つるぎは、岩手県を始め全国の主要なりんご産地で栽培が可能だ。また、樹姿がコンパクトで枝の伸長が少なく、樹の構造も単純なため省力的な管理が行えるという。

直立した樹を横一列に配置することで、結実部位が平面的な園地にすることができ、摘果や収穫など多くの管理作業で人・機械の動線が単純化される。また、結実面を壁状に仕立てれば、将来的には自動収穫機などによる機械化など、スマート農業にも対応すると考えられている。

品種名の由来は、赤い果実が結実し、樹姿が縦に長いカラムナー性の品種であることから、色と形状を想起させる紅つるぎと名付けられた。なお、苗木は品種登録後に提供を開始する予定で、現在は生研支援センター「食料安全保障強化に資する新品種開発」プロジェクトなどで栽培体系を作成中とのこと。


農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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