岡山大学、イネの病害虫に対するセンサーの仕組みを解明 いもち病に対する抵抗性向上に期待

国立大学法人岡山大学の資源植物科学研究所の河野洋治教授は、中国科学院CAS Center for Excellence in Molecular Plant Scienceなどの研究機関と協力し、NLR型免疫受容体遺伝子の進化の歴史を解析した。その結果、イネの重大な病気であるいもち病に対して抵抗力を高める仕組みを明らかにした。


作物を病気から守る新たな方法の開発に期待


植物は身を守るために、病害虫を見つけるセンサーの役割を担うNLR型免疫受容体の遺伝子を多く持っており、これが植物の強力な防御システムの秘密だと考えられている。

河野教授らは、イネの病害虫に対する免疫受容体遺伝子の進化の歴史を調べた結果、進化の過程で1つのNLR型免疫受容体遺伝子が遺伝子重複により2つに増え、それぞれが異なる役割を担うようになったことを発見した。その1つは病原体を見つける「センサー」で、もう1つは実際に免疫反応を引き起こす「免疫誘導」の役割を持つという。

これら2つの遺伝子が協力して働くことで、より効果的に病気から植物を守っていることが明らかになった。



今後、この研究をさらに進めることで、1つの免疫受容体で多くの種類のいもち病菌を認識できる「人工免疫受容体」を作り出せる可能性があるとしている。

イネだけでなく、近年いもち病が広がりつつあるコムギへの応用も期待され、世界の主要な穀物であるイネとコムギの両方で、いもち病への抵抗力を高められる可能性があるという。

この研究成果は、2024年5月30日に科学雑誌『Nature Communications』に掲載され、2024年7月30日開催の岡山大学定例記者会見で公開された。

論文情報

論文名:An NLR paralog Pit2 generated from tandem duplication of Pit1 fine-tunes Pit1 localization and function
掲載紙:Nature Communications
著者:Yuying Li, Qiong Wang, Huimin Jia, Kazuya Ishikawa, Ken-Ichi Kosami, Takahiro Ueba, Atsumi Tsujimoto, Miki Yamanaka, Yasuyuki Yabumoto, Daisuke Miki, Eriko Sasaki, Yoichiro Fukao, Masayuki Fujiwara, Takako Kaneko-Kawano, Li Tan, Chojiro Kojima, Rod A Wing, Alfino Sebastian, Hideki Nishimura, Fumi Fukada, Qingfeng Niu, Motoki Shimizu, Kentaro Yoshida, Ryohei Terauchi, Ko Shimamoto, Yoji Kawano
DOI:10.1038/s41467-024-48943-5
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-024-48943-5


岡山大学
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岡山大学資源植物科学研究所
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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    福田浩一
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    石坂晃
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    堀口泰子
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