イチゴの輸出額を4倍に増やすスマート農業とは 〜 農研機構・九州(前編)
政府は、2019年に21億円だったイチゴの輸出額を2025年までに86億円にする目標を掲げる。
6年で4倍にするという離れ業をどうやってのけるのか。鍵を握るのは、狙う客層の転換とスマート農業だ。
「従来の富裕層ではなく、ミドルアッパー層(中流階級の上位層)を狙っていきます」
農研機構・九州沖縄農業研究センターで暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループのグループ長補佐である曽根一純さんはこう語る。同機構や九州大学でつくる研究チームはスマート農業を活用して、輸出拡大に向けたイチゴの生産と出荷の仕組みづくりに乗り出している。
日本産イチゴの輸出先は香港が圧倒的。そのほかは台湾と東アジアである。これらの国や地域で日本産イチゴを購入するのは富裕層が中心。現地での1パック当たりのおおよその価格は、1パック2500円だから当然だろう。
ただ、輸出を増やすには、曽根さんが言うようにミドルアッパー層を狙うことが必要になる。研究チームがこの層に受け入れられる価格について、現地のバイヤーに聞き取りしたところ、1200~1500円という回答だった。
これは競合する韓国産イチゴの1.5倍程度。この価格帯までなら、日本産のイチゴは売れるというわけだ。今回の研究はこの価格帯に抑えることが前提となる。
当然ながら、そのためにはサプライチェーンの全体を見渡した変革が求められる。各領域で鍵を握るのはスマート農業だ。
本稿でまず注目したいのは、収量と品質を上げるため、光合成を活発にするために必要な二酸化炭素を、施設の全体ではなく局所に適時に施用する技術だ。研究チームが試験したところ、「施設全体に施用するのに対して、収量と品質は同等以上に増やせることを確かめた」と語る。
この技術の概要を伝えたい。一般に炭酸ガス(二酸化炭素)の発生装置は施設内の片側に置いて、そこから反対側に向けて二酸化炭素を送り出す。これが「全体施用」だ。
同センター園芸領域研究の主任研究員である日高功太さんによると、二酸化炭素が届く距離は「ファンを使わなければ、せいぜい20m先まで」。
研究チームはこうした問題を解消する方法として、株間に配置するチューブを通して、株の付近に二酸化炭素を局所的に施用する方法を試した。ところどころに二酸化炭素の濃度を計測するセンサーを設置して、800ppmに達したらボイラーが停止する。基準値を800ppmにする理由について、日高さんは「これ以上にしても、光合成が直線的に活発になるわけではない。費用対効果の面では800ppmが最もいい」と説明する。
チューブに送り出す二酸化炭素の濃度を高めるため、炭酸ガスの発生装置にも工夫を加えている。
ボイラーの吹き出し口の前に加工したドラム缶を置いており、排出した二酸化炭素がドラム缶を経由して再びボイラーに戻り、それを繰り返しながら、二酸化炭素の濃度が高まっていく。そうして、高濃度になった二酸化炭素をチューブに送り出す仕組みだ。低濃度のままで送り出すよりも、灯油の節減効果が高いという。
関連する技術として開発したのが、天窓が空いたら、二酸化炭素の発生装置の稼働を自動で止める制御器だ。逆に天窓が閉じたら、自動で稼働させることもできる。施設の環境を統合的に制御する機器が入っていれば必要ないものの、それを導入している農家はごくわずかだという。
「通常、農家は炭酸ガスの施用やハウスのサイドの開閉などを制御する装置を個別に入れていることが多い。もし統合環境制御機器を入れると、下手したら100万円近くかかってしまう。それを避けながらも、後付けでも統合的な制御が簡便にできる仕組みとして今回の方法を考えました」(日高さん)
一連の技術を活用することで、収量と品質は全体施用の同等以上となった。加えて、イチゴ1作における燃料の使用量は30%減らすことができた。
曽根さんは「日本の農政が『みどりの食料システム戦略』で環境負荷の低減を重視する中、今回の技術はそれに対応したものとしても注目してもらいたい」と話している。
チューブやドラム缶などにかかる制作部材費は10a当たり35~40万円。以上を踏まえた粗収益は局所施用が10a当たり352万円で、全体施用が302万円。局所施用の方が収益性が高いことを確認できた。
二酸化炭素を供給するのは環境制御の一つに過ぎない。次回は施設の局所ではなく、全体の環境データを定期的に収集する方法に加えて、そのデータを踏まえてオンライン上で営農指導や商談をする計画について紹介する。
九州沖縄農業研究センター | 農研機構
https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/index.html
6年で4倍にするという離れ業をどうやってのけるのか。鍵を握るのは、狙う客層の転換とスマート農業だ。
富裕層の次に狙うはミドルアッパー層
「従来の富裕層ではなく、ミドルアッパー層(中流階級の上位層)を狙っていきます」
農研機構・九州沖縄農業研究センターで暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループのグループ長補佐である曽根一純さんはこう語る。同機構や九州大学でつくる研究チームはスマート農業を活用して、輸出拡大に向けたイチゴの生産と出荷の仕組みづくりに乗り出している。
日本産イチゴの輸出先は香港が圧倒的。そのほかは台湾と東アジアである。これらの国や地域で日本産イチゴを購入するのは富裕層が中心。現地での1パック当たりのおおよその価格は、1パック2500円だから当然だろう。
1パック1200~1500円に抑えるのが前提
ただ、輸出を増やすには、曽根さんが言うようにミドルアッパー層を狙うことが必要になる。研究チームがこの層に受け入れられる価格について、現地のバイヤーに聞き取りしたところ、1200~1500円という回答だった。
これは競合する韓国産イチゴの1.5倍程度。この価格帯までなら、日本産のイチゴは売れるというわけだ。今回の研究はこの価格帯に抑えることが前提となる。
当然ながら、そのためにはサプライチェーンの全体を見渡した変革が求められる。各領域で鍵を握るのはスマート農業だ。
二酸化炭素を局所に適時に施用する技術
本稿でまず注目したいのは、収量と品質を上げるため、光合成を活発にするために必要な二酸化炭素を、施設の全体ではなく局所に適時に施用する技術だ。研究チームが試験したところ、「施設全体に施用するのに対して、収量と品質は同等以上に増やせることを確かめた」と語る。
この技術の概要を伝えたい。一般に炭酸ガス(二酸化炭素)の発生装置は施設内の片側に置いて、そこから反対側に向けて二酸化炭素を送り出す。これが「全体施用」だ。
同センター園芸領域研究の主任研究員である日高功太さんによると、二酸化炭素が届く距離は「ファンを使わなければ、せいぜい20m先まで」。
研究チームはこうした問題を解消する方法として、株間に配置するチューブを通して、株の付近に二酸化炭素を局所的に施用する方法を試した。ところどころに二酸化炭素の濃度を計測するセンサーを設置して、800ppmに達したらボイラーが停止する。基準値を800ppmにする理由について、日高さんは「これ以上にしても、光合成が直線的に活発になるわけではない。費用対効果の面では800ppmが最もいい」と説明する。
高濃度の炭酸ガスを送り出す仕組み
チューブに送り出す二酸化炭素の濃度を高めるため、炭酸ガスの発生装置にも工夫を加えている。
ボイラーの吹き出し口の前に加工したドラム缶を置いており、排出した二酸化炭素がドラム缶を経由して再びボイラーに戻り、それを繰り返しながら、二酸化炭素の濃度が高まっていく。そうして、高濃度になった二酸化炭素をチューブに送り出す仕組みだ。低濃度のままで送り出すよりも、灯油の節減効果が高いという。
関連する技術として開発したのが、天窓が空いたら、二酸化炭素の発生装置の稼働を自動で止める制御器だ。逆に天窓が閉じたら、自動で稼働させることもできる。施設の環境を統合的に制御する機器が入っていれば必要ないものの、それを導入している農家はごくわずかだという。
「通常、農家は炭酸ガスの施用やハウスのサイドの開閉などを制御する装置を個別に入れていることが多い。もし統合環境制御機器を入れると、下手したら100万円近くかかってしまう。それを避けながらも、後付けでも統合的な制御が簡便にできる仕組みとして今回の方法を考えました」(日高さん)
局所施用の方が10aの粗収益は50万円増
一連の技術を活用することで、収量と品質は全体施用の同等以上となった。加えて、イチゴ1作における燃料の使用量は30%減らすことができた。
曽根さんは「日本の農政が『みどりの食料システム戦略』で環境負荷の低減を重視する中、今回の技術はそれに対応したものとしても注目してもらいたい」と話している。
チューブやドラム缶などにかかる制作部材費は10a当たり35~40万円。以上を踏まえた粗収益は局所施用が10a当たり352万円で、全体施用が302万円。局所施用の方が収益性が高いことを確認できた。
二酸化炭素を供給するのは環境制御の一つに過ぎない。次回は施設の局所ではなく、全体の環境データを定期的に収集する方法に加えて、そのデータを踏まえてオンライン上で営農指導や商談をする計画について紹介する。
九州沖縄農業研究センター | 農研機構
https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/index.html
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