育苗いらずのドローン播種が当たり前に? 茨城県高萩市で“条を刻みながら播種”可能な農業用ドローンを実演

担い手不足の地域農業に新技術で光明


茨城県高萩市で5月7日、株式会社オプティム・ファームによる農業用ドローンでの直播実演会が開催され、自治体関係者や農業者、報道陣などが見守る中、条を作りながら種籾を打ち込む独自機構が搭載された直播ドローンが登場した。

4つの射出口を備え、条を形成しながら播種するオプティムのドローン。2つのタンクで合計10kgまで種を搭載できる


オプティム・ファームの親会社である株式会社オプティムが開発したドローンは、従来の移植栽培ではなく、直播(じかまき)による水稲栽培を効率的かつ精密に行うために開発されたもの。自動飛行で正確に条を刻みながら湛水圃場に播種を行う。ドローン直播で大きな課題とされてきた鳥害や風の影響を抑える工夫として、単に散播するだけでなく1〜2cmの深さに打ち込む機構も搭載。これにより、これまでの育苗・移植による田植えと比較して、圃場条件にはよるが8〜9割程度の収量は確保できるという。

播種ドローンについて説明するオプティムの星野氏。種籾の発出はコントローラーのボタンを使い、手動で確実に行っている

ドローンの飛行自体もコントローラーで操作する必要はなく、スマートフォン操作で簡単に制御できる設計となっており、高萩市内の高校生らも見学に訪れるなど、次世代を担う若者へのスマート農業普及にもつながりそうだ。

今回の15aの圃場では、バッテリー交換と種の補充を行い、約15分で8kgを播種した
実演した「ドローン湛水条播技術」は、高齢化と担い手不足に悩む地域農業にとって、導入ハードルが低く効率的なソリューションとして注目されている。

この日は地元高萩市の農業委員や自治体のスマート農業関係者らが多数参加した

会場には、茨城県の大井川和彦知事も視察に訪れ、「若者が自立して営農できる環境を整えることが、儲かる農業への第一歩」と期待を語った。

茨城県の大井川和彦知事は「農業を維持するだけでなく成長産業にしていくために、非常に有望な技術」ともコメント

オプティム・ファームが農業の未来を提案する


オプティム・ファームは、2023年にAI・ロボティクスを用いた農業DXに注力するため、オプティム自ら営農を行う法人として設立。2025年5月現在、栃木県宇都宮市と栃木市、茨城県の古河市、そして高萩市を起点として3年目を迎えた。

農業生産者の悩みにもっと寄り添うために──オプティム・ファームが目指す農業DXの次の一手
https://smartagri-jp.com/smartagri/6893

スマート農業技術の研究開発を進めるオプティムの特徴を生かし、自治体の課題に技術で寄り添い、現場から農業の未来を創るモデルケースとして営農を行っている。

特に稲作に関しては、播種ドローンを活用することにより、作業人数の削減や時間短縮に加え、苗作りや水管理の手間を省略できる点が実演で強調された。また、播種機が入れないような中山間地や土壌が緩い圃場でも播種ができると期待されている。

さらに、播種だけでなく、生育状況のセンシングや病害虫の検出と防除にも活用。播種はあくまで同社が持っているスマート農業技術の中のひとつであり、AIなどを活用することで若手でも担い手になれる営農支援を総合的に行っていくという。

会場周辺では引き続き土地改良事業が行われており、高萩市の大部勝規市長は「若い方たちが自給自足できるような農業を進めていきたい」と語った。

高萩市の大部市長は「少人数でもAIやロボットを使った農業が当たり前になる世界が来るはず」とコメント

農業DX企業と自治体の協力はスマート農業の普及に不可欠


IT企業自らが開発した先端技術を用いて複数拠点で営農を行い、さらに自治体と連携する事例は、全国を見回してもほかにない。オプティム・ファームと高萩市のスマート農業を活用した取り組みは、今後全国の自治体から注目を集めそうだ。




農業DX事業|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/business/agriculture

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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