なぜ、この冬はここまで野菜が高騰したのか?【農業コラム】

年末年始にかけて野菜の価格が異常な高値となったのは記憶に新しい。
ちょうど冬場の風物詩といえる鍋料理に必要な食材がそろって高騰していたこともあり、各家庭の混乱状況が各種メディアによって報じられた。
4月に入ってようやく全国的に落ち着きを見せ始めたものの、家計を襲った野菜高騰はなぜ起こったのか。農林水産省のレポートをもとに解説する。


家計を苦しめた遅い台風と長雨

2017年末から2018年の年明けまで野菜が高騰した最も大きな要因は、2017年秋に日本各地を襲った台風と、その後の長雨の影響だ。平年に比べて約2倍という高騰を招いた葉茎菜類の被害は特に甚大だった。なかでもキャベツは2017年10月中旬から下旬にかけての長雨の影響で、56%のシェアを誇る生産地の愛知県で生育が不良となり、また同月の台風で、25%シェアの千葉県で葉が損傷して十分な大きさに育たなかった。そのため、東京都中央卸売場においての価格は11月中旬頃より上がり始め、年明けには平年比200%超えの数値で推移することとなった。

はくさいは、96%のシェアで主要な生産地となっている茨城県を襲った長雨の影響で生育の低下を招き、11月の中旬頃から平年を上回る価格がつき始めている。ほうれんそうもキャベツと同じく台風で葉が損傷したばかりでなく、その後に続いた長雨のために種まきが遅れ、それに伴い生育も遅れた。44%のシェアの生産地である群馬県での台風や長雨が強く影響している。

台風の影響はネギも同様で、強風にさらされたネギが折れて出荷できなくなってしまった。なお、ネギの主要生産地は、24%の千葉県、18%の埼玉県、13%の群馬県となっているが、千葉県と埼玉県の11月の出荷量が平年を下回り、若干の高騰を招いた。

なすやトマトは平年並みの収量と価格を維持

根菜類では、だいこんの被害が大きい。だいこんも、47%のシェアがある千葉県で、台風に伴った塩害で葉が損傷した。沿岸部の生産地において、潮風がだいこんの葉に吹き付けられたのである。一方、45%のシェアである神奈川県では平年並みだったものの、相対的に出荷量が大幅に減ることとなり、東京都中央卸売場での平年比の価格が一時、300%を超えた。にんじんの生育は平年と変わらなかったため、出荷数量、価格ともに平年並みで推移している。

果菜類は、きゅうり、なす、トマトが平年並みを維持した一方、ピーマンについては10月中旬から下旬にかけての日照不足により樹木の生育状態が低下。11月の出荷数量は平年を下回り、価格はやや上がったが、12月には回復している。土物類のばれいしょ、さといも、たまねぎについては台風や長雨の影響はほとんど見られず、出荷量、価格ともに平年並みであった。

価格高騰を抑えるためにスマート農業の活用も

こうしたなかで変動の激しかったのは、葉茎菜類のレタスである。台風や長雨のなかった10月までは、平年並みどころか、出荷総量は平年を上回り、それに伴い価格は平年を大きく下回っていた。東京都中央卸売場の価格の平年比は40%を切る日もあったほどである。

ところが、11月に入ると、台風や長雨の影響が出始め、価格が急激に上昇。12月1日には平年比272%にまで高まった。これは10月の長雨はもちろんのこと、11月に入ってから続いた気温の低さが影響している。30%シェアの生産地である静岡県や19%の香川県で平年を下回る量の小ぶりなレタスが市場に流れることとなったため、高値水準で推移した。

3月に入っても東京都中央卸売場の平年比が高いままで推移していたのは、だいこん、はくさい、キャベツ、ねぎ、レタスといった品目だったが、徐々にそれぞれの生育が回復あるいは安定してきており、価格は落ち着きを取り戻し始めている。

この冬のケースのような野菜価格の高騰は、利益を上げるための値上げではなく、ほとんどの人にとってマイナスの出費でしかない。気候に左右されない、AIによる気候予測や、ビッグデータ分析から割り出した需要予測などをうまく活用していけば、将来的に価格の安定化が図れるようにもなるかもしれない。安定した野菜の供給と価格維持のためにも、スマート農業の発展に期待したいところだ。

<参考URL>
需給、ガイドライン、入荷及び価格の見通し等に関する情報:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/
東京新聞:野菜高騰 家計に寒い冬 レタスやハクサイ…平年の倍:経済(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201801/CK2018011202000150.html
「野菜価格高騰 いつまで続く」(くらし☆解説) | くらし☆解説 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/288689.html
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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