遠隔産地に立ちはだかる「物流業界の2024年問題」とは【窪田新之助のスマート農業コラム】

筆者は埼玉県の県庁所在地・さいたま市に住んでいる。今の時期に近所の量販店でよく買うのは新タマネギとブロッコリー、ソラマメ。ここのところ毎回産地を確認しているが、いずれも福岡県や佐賀県、鹿児島県である。

こうした遠隔地の産地が、これからも大消費地に青果物を届けられるかどうかの難題に直面している。立ちはだかるのは「物流業界における2024年問題」だ。



「2024年問題」が農業界にどのような影響を及ぼすか

働き方改革の一環で2019年に労働基準法が改正された。これに伴い物流業界では2024年4月1日以降、時間外労働時間の上限が年間960時間に規制される。つまり、月平均80時間が上限となる。

当然ながらドライバーも対象だ。物流業者が違反すれば、「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が課せられる。

農業界でこれに困っているのが、遠隔の産地である。現状の物流体制では3年後、質と量の両面で今まで通りの青果物を大消費地に送り届けられなくなってしまうからだ。

例えば、福岡県にとって戦略的な品目の一つにイチゴのブランドで「西の横綱」と称される「あまおう」がある。産地は質を維持するため、集荷してから3日目までに関東地方の卸売市場で売買を済ませてきた。

それができたのは、物流業界に残業規制がなかったことが大きい。簡単にいえば、それだけの無理をドライバーに強いてきたというわけだ。


物流業者が解決すべき課題

ところが、2024年4月1日以降はそれが許されなくなる。つまり集荷から3日目での売買が叶わなくなってしまうのだ。4日目での売買となれば鮮度が落ちてしまい、福岡県の産地にとっては関東地方の競合産地に勝てる見込みが薄らぐ。

もとよりドライバー不足には歯止めがかからない。九州トラック協会によると、費用対効果が悪い青果物の運送を断る物流業者が出ているという。「2024年問題」はこうした物流環境の悪化に拍車をかけかねない。

この課題は一筋縄ではいかず、多方面からの対応が求められる。

例えばコールドチェーンの構築だ。現状、少なくない産地が予冷せずに輸送している。予冷庫を備えた物流拠点を整備すれば、今まで以上に鮮度の保持が可能だ。実際にそうした動きは出てきている。

パレットの活用も必要だ。現状は段ボールをバラ積みしている産地が多い。段ボールだと積載率は上がるものの、パレットに比べて荷積みと荷卸しに約6倍の時間を要すると聞く。

このほかサプライチェーンを見渡せば、産地以外の関係者が取り組むべき課題は数多い。リミットが3年後に迫る中、関係者を挙げて一つずつできることを積み重ねていくことが大事である。

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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