【農家コラム】農家の嫁、55歳からの就農。農作業の苦労とネット販売に挑戦した話

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。

55歳で本格的に農業を始めた農家の嫁のさとうまちこです。

今回は、農作業を通じてこれまで気づかなかった苦労や悩み、そして喜びや楽しみ方などを綴ってみました。

将来の目標を叶えるための一歩を踏み出す、兼業農家の嫁の奮闘記です。

「手伝い」ではわからなかった農作業の苦労


どんな仕事でも言えることかもしれませんが、人がやってることは簡単に見えるものです。

農業は自然を相手にしているので、暑い日も寒い日も、時には雨に濡れながら、強風に煽られながら、毎日毎日田畑に出ていく義祖父母や義父母たちを見てはいました。でも、「大変だな」とは感じていても、作業自体の難しさは理解していませんでした。

田んぼの水管理。畦や土手の草刈り。作物への追肥や草取り作業etc…

どれも単純作業に見えますが、それらは緻密な計算と長年の経験から得た知識の融合で成り立っているのだと、自分で作業してみて改めて思い知らされたのです。

そういえば、これまでは植え付けや収穫のような人手が必要な大規模な作業の時しか「手伝って」いませんでした。それなのに一丁前に「農家」気取りでいた気がします。

義母が倒れて、いざ自分たちですべてこなさなければならなくなった時に痛感したのが、これまで手伝ってきたメインイベント以外の作業の多さ!

「米」という漢字は「八十八」という言葉を組み合わせてできたと言われていることはご存じだと思います。お米ができるまでに八十八の手間がかかるという意味です。

現代は機械化が進み、ひとつひとつの作業の労力は少なくなりましたが、それでも手間がかかることに違いはありません。

「手伝い」だけでわかった気でいたひとつひとつのことが本当は何もわかっていなかったのです。

家事でも「名もなき家事」と言われるものの方が実は大変だと言われます。農作業もしかり。地味で目立つことではないけれど、やらなければ後々苦労するのは自分なのです。

青空とオクラ

義祖父や両親がつけていた日記の中身


わたしが農業を引き継ぐことを決心した時に、もうひとつ苦労したことがあります。それはこれまでなかった「習慣」を身につけることでした。

それは「記録すること」。

今思い返せば、義祖父も両親も毎日、日記を書いていました。プライベートなことだろうからとのぞき見ることはありませんでしたが、遺品整理の際に出てきたその日記は自分の思いを綴るものとは違い、日々の作業の記録だったのです。

何十年と同じことを繰り返してきているのに、1日も欠かさず、その日何をしたかということが書き記されていました。

汗水垂らして、土や草にまみれての作業だけが農家ではありません。「実践」して、それを「記録」し、「結果」として成果を残す。農業は自然相手ではあるけれどとても科学的なのです。

そして何より、勤勉な労働者でなければ農家は務まらないのだな〜と、義祖父の日記を眺めて感嘆の息を漏らしたことを何かにつけて思い出すのです。

産直から農家が抜けていく現実


我が家の主な農家収入は夫が担当しているお米です。そして義父母たちが担当していた野菜は、地元の農家さんたちで始めた産地直売所(産直)で販売する程度でした。

土日の午前中だけの産直というと、商売というよりは地元の農家さんたちのコミュニティという役割が大きい組織です。販売されている野菜も特に目新しいものではなく、その時期の旬の野菜たちがお手頃価格で並べられていました。

義母が病気になった時、畑には義母が育てた野菜が実っていました。

義母が作った野菜たちですから産直に持ち込んだ方が良かったのかもしれませんが、ネット販売というものに興味があったわたしはそれに挑戦してみようと思ったのです。

産直は10年ほど続いていて常連さんもいて、義母をはじめとして参加している農家さんの野菜作りのモチベーションにはなっていると思います。ただ、わたしの地域ではそのほとんどが70代、80代という高齢化の問題が、ここでも出てきます。

一人、二人と抜けていく現実を目にすると、この産直も続けていくのは難しいでしょう。周りを見てもわたしと同年代の人は農家をやっていません。そのため、今後は農作物の販売方法を変えていく必要があると強く感じたのです。

朝採り野菜

「メルカリ」でお米や野菜が売れた!


義母が倒れたその年はお米が豊作で、予約をいただいている分を差し引いてもかなりの在庫を抱えてしまうことになりました。

そんな時に息子が、「メルカリで出品してみれば?」と言うのです。調べてみると農産物も出品されていて、ショップという形で販売されている農家さんもいます。


「メルカリ」といえば、不要になったものを売り買いするネット上のリサイクルショップという認識でしたので、農産物を販売できるなんて目から鱗でした。

ダメ元でと、まずは一品だけ出品。すると、朝に掲載したお米がなんとお昼過ぎには売れたのです! これに気を良くしたわたしは続けて出品。半日もしないで完売です。

そこで今度は、野菜の詰め合わせも出品してみました。そして、これも完売。

でも、売れたことに満足していたわたしは大事なことを忘れていたのです。これを商売にするのなら、利益を上げなければならないことを。

この時は、お客様の目に留まるように、他の商品と比べて少しでもお得感を出そうと、価格設定をちょっと安くしていました。お米こそ、我が家で予約販売している価格を最低ラインにしてそれよりも下回らない価格設定にしましたが、野菜の価格設定は難しく送料や梱包資材を差し引くとほぼ利益はゼロに等しかったと思います。

また、お米は保管しておけますが、野菜は収穫から消費するまでの期間が限られていますので、捨てるよりはマシと思いあまり考えずに売れそうな値段設定にしてしまいました。

ネット販売に必要なのは「安心と信頼」


成り行きではありましたが、「メルカリ」でのネット販売は成功と言えるのではと思います。

ユーザーが多いというのも一因でしょうが、なぜ出品するとすぐに飛びつくように売れたのか?

送料を考えると若干割高なような気もしますが、買い物に行かずとも野菜が家の玄関先に届くのですから出掛ける手間が省けるということです。ですが、野菜だけで食卓に出す料理が完成するわけではありません。肉や魚も必要でしょう。

買い物の軽量化にはなるでしょうが、わたしのような野菜の詰め合わせの場合、使いたい野菜が入っているとも限りません。

それでも、わざわざネットで野菜を買うメリットはなんだろう? と考えた時、それは「安心と新鮮」ではないかと思い至りました。

知人にネット販売の話をした時に言われた言葉ですが、「農家直送」という言葉があるだけで都会の人に売れるというのです。

そして、「さとうさんは美味しくない米や野菜を食べたことがないでしょう?」と。

最初は何を言っているのかわかりませんでした。

採れたての野菜、精米したてのお米。

子どもの頃からそれらを当たり前のように口にしていたわたしには、スーパーで売っている精米済みのお米も、収穫から日数が経って鮮度が落ちている野菜も食べる機会はなかったのです。

メルカリでお米を買ってくれた方からのコメントにも「こんな美味しいお米をたべたのは初めてです」といったものもありました。

半分お世辞、社交辞令だろうと思っていたのですが、本当の感想だったのかもしれません。

実際、リピート買いしてくれるお客様が多かったです。

朝採りなど、新鮮さを売りにしている産直よりは鮮度が落ちるかもしれませんが、我が家はお米という重量級のものも販売しているので、宅配という形が合うのかなと思い、現在も「メルカリ」での販売を続けています。

将来的には自宅での軒先販売が目標ですが、それはまた戦略方法が変わってくるので、野菜作りと一緒に情報収集しながら学んでいる最中です。

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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