【農家コラム】農家の嫁、55歳からの就農。YouTubeで情報収集も鵜呑みは良くない? 農作業を学ぶときの反省と心得

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。

55歳で本格的に農業を始めた農家の嫁のさとうまちこです。

今回は、実際の農作業について普段私がどんなふうに情報収集しているか、またその際の反省点や、やっておけばよかったと感じることを綴ってみました。

将来の目標を叶えるための一歩を踏み出す、兼業農家の嫁の奮闘記です。

作りたい野菜と作れる野菜


単作栽培の大規模農家ではなく、小規模ならではの少量多種の栽培を目指したいと考えてはいますが、星の数ほどある野菜の種類。どんな野菜を植えるか、悩ましい問題です。

珍しい野菜は目を惹きますが、主婦としても調理員としてもポピュラーな食材が一番使いやすいと感じます。味や他の食材との相性、調理方法も簡単に想像できるからです。

そこで行き着いたのが、やはり馴染みのある野菜たちの栽培だったのです。

今は、主な野菜は一年中出回っています。でもどんな食材にも「旬」の時期があります。

旬の野菜を美味しく安定的に収穫・販売できるようにこれまで我が家で作ってきた野菜を中心に栽培することにしました。義母がずっと作り続けてきた野菜ならば、いつでもアドバイスもしてもらえます。

自家製野菜で一品

畑の区割り


我が家の畑は、大きく1カ所にあるのではなく、家の周りに点在しているような形です。川のそばにあったり、山の中にあったりで、土壌の性質もそれぞれ違います。植え付ける野菜の種類はもちろんですが、作業工程を考え、無駄なく動けるように植える場所も考えなくてはなりません。

連作を避け、相性を考えて、そのひとつひとつの野菜の特徴を覚えて栽培していかなくてはならないのです。

ここでも、「毎日の記録」が役に立ちます。

文字に起こすことで記憶に残りやすいですし、実際文字として残るのでいつでも見返せます。

早朝の畑

背中を見て学ぶことの難しさ


新規就農ではないので、地盤はすでに出来上がっていました。足りないのは自分自身の知識と経験

幸い、義母は自宅での介護なのでわからないことがあれば聞ける環境にありますし、義祖父が残してくれた日記もあります。

ネットや書籍で学ぶことも多いですが、やはりその土地に合った栽培方法があると思うのです。古い知識ではあるのかもしれませんが、長年この地で農業を続けてきた先人からの教えは大きいと感じます。

野菜の栽培については、義母をはじめ周りの農家さんにその都度教えていただきながらなんとかやっていますが、いかんせん人に教えるのが下手というか苦手というか……。人生の先輩方にはそういった方々が多いような気がします(笑)。

「見て覚えろ」的な……そこまで冷たく突き放される訳ではありませんが、最終的には「好きなようにやっていいんだよ」と締めくくられてしまいます。

近くのプロ農家よりユーチューバー?


自然相手で気象に左右され、病害虫、害獣対策などその対処法が多岐にわたる農業を1年や2年で習得できるはずもないのですが、それでも誰かに教えてもらったり、自分で学ぶ姿勢がないと先へは進めません。地元の農家さんは、やはり実際に目で見て直接聞いたりできるので一番身近な先生ですね。

その他でよく参考にしているのが「YouTube」の動画です。

多くの農家・農業チャンネルがありますので、自分が目指す農業の形により近いものを選んで、さらに自分で掘り下げて学び、実践していくことが理想とする農家に近づく一歩だと思います。

ただ、それらの情報がすべて正しいのかどうかというのは、残念ながらわかりません。

例えば、「もみ殻」の使い方です。

「もみ殻を入れて耕すと土がフカフカになる」と何かの本で読んだ記憶があったので、一生懸命もみ殻を撒いて耕していました(笑)。

そんなある日、以前お世話になっていた農機具屋さんが訪ねてきました。独立して農業資材を販売する会社を立ち上げたのだそう。さまざまな農薬や肥料のカタログと試供品を手渡され説明されましたが、まだ農業に対して無知だったわたしは何を聞いてもチンプンカンプン。

そんな話をしながら、畑の隅に置かれたもみ殻を見てひとこと。

「もみ殻入れても何の役にも立たないよ」

そうなの⁉︎

名刺の肩書きには「農業経営アドバイザー」とあります。プロが言うのだから間違いない。実際に調べてみると、もみ殻には栄養素はほとんど含まれていないことがわかりました。

8割が炭水化物で残りの2割がケイ酸です。ケイ酸はガラスや陶磁器の原料にもなる物質で土中の微生物には分解されにくいようなのです。栄養もなく肥料としては効果を得られないものだと思ったわたしは、もみ殻を使うことをやめました。なんて愚かなことだったろうと今は反省しています。

ただ、もみ殻を入れたのは経験豊富な義両親に言われたから。そして、もみ殻を使うことをやめたのは、農業アドバイザーの肩書を持った人に言われたから。

もみ殻を入れることのメリット・デメリットを自分で調べることもなく、ただただ誰かの言葉だけを鵜呑みにしてしまっていたのです。

義祖父や義両親が何年も何十年ももみ殻を入れて畑を耕してきたことに、意味がないわけないという思い込みと、わたしよりもはるかに知識がある農業アドバイザーの人が言うことは最新の正しい情報なんだと感じてしまったのです。

そこで今更ですが、もみ殻を土づくりや肥料に使うことのメリット・デメリットを調べてみました。生のもみ殻、もみ殻くん炭、他の有機物を混ぜて肥料にする方法など、一つのソースだけでなくさまざまな記事や動画を参考に自分で調べていきました。

そうすることで、誰かの受け売りではなく自分の知識として記憶されると思ったからです。

詳しく調べていくと、先にも述べたようにもみ殻には栄養はほとんどありませんし、土壌生物にも分解されにくいです。でも、もみ殻に含まれるケイ酸を野菜が吸収すると茎や葉が丈夫になるというのです。

富山県のJAでは、もみ殻を使用した土壌改良資材が商品化されたというニュースを聞きました。

こちらは米や麦、大豆の栽培試験で生育や品質には問題ないとの結果が出ています。茎や葉が丈夫になることで倒伏しにくく、カメムシ被害にも効果が期待できるそうです。そして、価格もこれまでの土壌改良資材よりも安いという、うれしいおまけ付き。

もみ摺りで大量に出るもみ殻の処理にもなりますし、近年の農業用資材の高騰で頭を悩ませている農家さんにとってもコスト軽減に繋がりそうなので、全国的に広まってくれるといいなと思います。

とはいえ、個人でも何とかもみ殻を使う手段はないかと思い、ずっと畑にすき込んできたわけですが、農機具屋さんに指摘されてから改めて考えてみると、確かにもみ殻を入れて耕した後しばらくは土がフカフカと柔らかくはなるのですが、雨が降って乾いた後などは前以上にカチカチに固くなってしまうのです。

生のもみ殻をただ混ぜ込むだけではやっぱりダメなのかも……?

そう考えた時に、ぼかし肥料を作ってみようと思い立ちました。これもネット調べた作り方ですが、いろんなやり方があってぼかし肥料の材料となるものもさまざまです。

わたしは、とにかくもみ殻を使いたかったので、もみ殻をメインに米ぬか、鶏糞、油カスで作りました。発酵食品の納豆とヨーグルトをミキサーにかけたものも混ぜ混ぜ。毎日毎日かき混ぜます。ぬか床と一緒ですね。

翌日には発酵して熱を持ち始めます。白カビが生えてきて、さらに混ぜ込むと、発酵熱が少しずつ収まってきます。あとは乾燥させて出来上がり。

ぼかし肥料は元肥にも追肥にも使えるので便利ですが、これを全部の畑に使用する量を作るとなるとちょっと大変かもしれません(笑)。

でも、ぼかし肥料を作る行程は正直楽しかったです。どんなに忙しくてもどんなに疲れていても1日1回必ずかき混ぜます。サボれば腐敗してしまうからです。野菜を育てるための肥料を育てるのです。

今年の野菜たちには手作りのぼかし肥料を与えてみました。昨年よりは実のつき方が良くなったような気がします。

ぼかし肥料の材料となる米ぬかを自前で用意できるようにと家庭用の精米機も購入。野菜屑などを入れたコンポストに混ぜておけばこれも肥料になります。お米は精米した瞬間から酸化が始まるので、食べる分だけをその都度精米して炊くことができる精米機の購入は、いつでも美味しいお米が食べられて一石二鳥でした。

それでも余ってしまうもみ殻は、マルチ材として使ってみました。

全く雑草が生えてこないというわけではなかったですが、もみ殻をしているからなのか大雨が降った後でも土が流れることもなく、ぐちゃぐちゃにもなりませんでした。野菜の収穫が終わればそのまま畑にすき込むこともできるので農業資材のゴミも減らせて環境にも良いかなという思いもあります。

「あれは良いよ」

「これはダメだね」

「こんなやり方もある」

インターネットにはたくさんの情報が溢れています。

我が家のような小さな兼業農家では、かけられる予算も限られます。一見ゴミとして処分してしまうようなものも「循環」することで活かすことができるのだという気付きもあり、疑問に思ったことは自分の力で調べ、実践して初めて知識と経験に繋がるのだと思いました。

中高年からでもできること・やっておけばよかったこと


何かを始めるのに早いとか遅いとかない、年齢なんて関係ない。とは言いますが、未知の世界に飛び込むには体力・気力ともに元気なうちがいい。80代から見れば50代はまだまだ若いけれど、30代から考えれば50代は会社員であれば定年退職までのカウントダウンが始まる年齢です。

50代後半に差し掛かり、「アラ還」と呼ばれる年齢のわたし。体の丈夫さや健康には自信を持っていますが、大きな病気はなくてもいつもどこかかしこに小さな不調を抱えています。以前は30kgの米袋を簡単に持ち上げられていたのに、今は気合を入れてからでないと腰を痛めてしまいかねません。

そんな、体力・気力ともに衰え始める年頃ではありますが、マイナスなことばかりではありません。

若い頃にはわからなかった、小さな気付き。

子育ても終わり、背負うものが少し軽くなったことでの心の余裕。

少なからずこれまでの人生で得られた知識と経験から、ある程度物事を俯瞰して見られるようになったこと。

そして、60歳、65歳で定年退職した後も人生は続くのです。

それまで懸命に働いてきたのだから休みたいと思う気持ちはよくわかります。その一方で、定年後あるいは中高年になってから農園を借りて野菜作りを楽しんでいる人も多いと聞きます。

ほどほどの労働は健康維持にもつながると言われます。わたしの姉の旦那さんも定年後、何もせずに家の中で過ごすよりは全然良いと、手作り野菜で家計の足しにもなり一石二鳥と言わんばかりに家庭菜園に勤しんでいます。

家庭菜園の延長と考えれば、中高年からでも農業を始めることは決して遅くはないと思います。しかし、会社勤めを辞めていちから新規就農を目指すというのは、かなり厳しいと思います。

なぜなら、農家ほどハイリスクローリターンな職業はないからです。

我が家のように農業でいくらかの収入を得ていた場合、農業の基盤は整っているので、先代が引退した後に引き継ぐのであれば50代、60代からでもそれなりにできるでしょう。

ただし、引き継ぐタイミングで、それまでの農業との関わり方で状況は大きくかわります。手伝い程度でも年間を通して作業内容を理解していても、何の覚悟もないまま突然農業を継ぐことになってしまうと、何をすればよいのかわからずお手上げ状態です。何もしなければ収入が絶たれてしまいます。

趣味で始める家庭菜園だって、きっと念入りに勉強して準備をして始めているのだと思います。

農業を始めるのに早い遅いはないですが、その準備は早くにしておくべきだったと反省しています。野菜作りのノウハウを教えてもらえる環境にいたのに、いつでも聞ける、いつでも始められると安易に構えているうちにその機会を逃してしまっていたのです。

農家を継ぐか継がないかは別として、知識や経験は無駄にはならないので、もっと早くに教えてもらってればよかったと悔やまれます。

孫ととうもろこし

小さな実りを大きな喜びに


農業は、やってはいけないことはあるとしても、これが正解! ということもないと、就農してから思います。

肥料ひとつとっても、どんなものを選んでどのくらい撒けばいいのかも作る野菜や土壌によって違ってきますし、情報も技術も日々進歩しています。

極端なことを言えば、どんなベテランでも毎回チャレンジャーだということ。

これまでの知識と経験値では負けてしまいますが、それを補うやる気と人並み程度の体力があれば、50代、60代でも農業は始められます。

そして、何よりも大事なのは楽しむことだと思います。

畑に行くのが待ち遠しい、そんなワクワク感を味わえるセカンドライフを送るのは案外難しくないはずです。

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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