【農家コラム】農家の嫁、55歳からの就農。安心・安全な食材への思いと有機栽培

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。55歳で本格的に農業を始めた農家の嫁のさとうまちこです。

食べることは生きること。

わたしたちが健康に日々暮らしていく上で、毎日の食事に気を配ることはとても大切です。でも、栄養バランスの良い食事を心がけていても、その食材にもし身体に害のあるものが含まれているとしたらどうでしょう?

本当の意味で「身体に良い食材」とは何なのか。

今回は、仕事でも家庭でも毎日食事を作っていて感じる「食材」への思いを、生産者の立場からも綴ってみました。

調理に携わる者としての食への思い


「健全なる精神は健全なる身体に宿る」とよく言われますよね。じゃあ、健全な身体ってどんなことなんでしょう。

調べると「心身が正常に働き健康であること」と出てきます。健康な身体であることが大切ということですね。

病気やケガに負けない丈夫で健康な体を作るには、もちろん適度な運動も必要ですが、最も基本になるのは食事だとわたしは思うのです。

コンバインで遊ぶ孫

食べたもので身体は作られる


誰もがわかっている当たり前のことですが、毎日の食事がすべて安心安全なものかと言われたら、ちょっと自信がありません。

農家だからといって自給自足の生活で米と野菜しか食べてないというわけではありませんし、スーパーでお惣菜を買ってくることもあれば、ファストフードなども大好きです。

でも、お惣菜やファストフードばかりではお財布にも身体にも負担がかかります。

何が身体に良くないのか、それはさまざまな「添加物」ですよね。野菜中心の食生活だとしても、添加物の入った調味料をたくさん使って濃い味付けにして食べていたら同じことです。

こんなことを考えた理由はわたし自身が病院や介護施設での調理経験があるため。現在は保育園で給食の先生をしていますが、本当にびっくりするくらい薄味です。

調理の仕事に就いているとよくあることですが、栄養士と調理師って意見が分かれることが多いのです。栄養士は当たり前ですが、栄養のバランスを一番に考えて献立を考えます。でも、調理師は栄養バランスも大事ですが、一番は美味しく食べてもらえることを考えるのです。

病院などでは食事も治療の一環なので食材も調味料も水分もきちんと計量して作ります。ですが、ここだけの話、企業の社員食堂で働いていた時は夏場はちょっとだけ味付けを濃くしていました。だってその方が絶対美味しいのだから(笑)。

ただ、それが身体にとって良いことなのかと問われればそれは「ノー」ですよね。

美味しさと身体に良い食事。

どんなに美味しい食事でも健康に害になるようなものは避けたい。でも栄養価が高いから、身体に良いからと美味しいと感じられない食事も、それはそれでストレスが溜まってしまい本末転倒です。

仕事でも家庭でも食事が健康な身体を作るための手助けをしているわけで、調理師として働くわたしにとても重要なミッションを与えられた気がして、ここ数年は薬膳や食育の資格取得のために、何十年ぶりにテキストと睨めっこして勉学に勤しんでいます(笑)。

食材が持つ「力」


「トマトが赤くなると医者が青くなる」という諺を聞いたことはあるでしょうか?

昔から、「トマトが赤く実る頃になるとその栄養価の高さから病気になる人が減って、医者にかかる人が少なくなる」という意味ですね。

トマト以外にもさまざまな食材で、似たような故事や諺がたくさんあります。

  • 味噌は医者いらず(味噌は昔は高級品で薬やおかずとして扱われていました)
  • 梅はその日の難逃れ(疲労回復や殺菌効果がある梅を朝昼晩と摂ると健康になる)
  • 秋茄子は嫁に食わすな(茄子には体を冷やす性質があるので妊娠の可能性のある大事なお嫁さんを気遣って。秋茄子は美味しいので嫁に食わせるのはもったいないという説もあります)

医者いらずとは言ってもそればかり食べていれば良いということにはなりません。

要は、旬と言われる時期にその食材の栄養価が一番高く美味しくなるので旬の食材を積極的に摂りましょう!ということなのです。

採りたての旬の野菜たちは本当に美味しいです。調味料なんて必要ありません。野菜そのものの味だけで食べられます。

お米もそうです。

新米の美味しさはお米だけでもおかずなしで何杯もいけるほどです。

調理の仕事と、農業という人が生きていくのに欠かせない食に携わる者として、その食材が持つ「力」を最大限に引き出せるように工夫を重ねていきたいと思うのです。

稲刈り

「儲からない」と言われる有機農法の現実


食と健康は切っても切り離せません。だからこそ、毎日口にするお米や野菜はできるだけ安心安全なものにしたいと思うのは自然なことだと思います。

では、安心安全な野菜ってなんでしょう?

わたしが毎日の食事作りをする主婦の目線で考えると、化学肥料や農薬をできるだけ使わずに栽培されたものを選ぶと思います。産地直売所やスーパーでは、生産者さんの名前とかお写真が掲示されていたりもしますよね。あれも安心感につながったりもします。

買う立場になって考えると、無農薬とまではいかなくても有機農法で作られた野菜は身体に害を及ぼす成分が少なく、安心して使える、と思えるのです。

一方、生産者の立場としても、安心安全な野菜を届けたいと考え、有機農法で野菜の栽培を行いたいと思ったわけですが……。思うほど簡単なことではなかったのです。

ゆず

消費者と生産者、微妙に異なる思い


多くの消費者が有機農法で作られた作物を求めているのに、有機栽培農家はなかなか増えません。その理由のひとつに、栽培技術の管理に手間がかかるということがあります。

有機農法は化学肥料や農薬をできるだけ使わずに農作物を栽培するので、効率の良い生産が見込めない可能性が高いです。

栽培管理も大変です。除草剤などが使えないので、耕作面積が広ければ広いほど、草取りなどの作業だけで気が遠くなりそうですね。

有機農法で栽培した野菜の販売にもいろいろな規制があります。

「我が家では化学肥料や農薬を使ってません!」と言っても、周りの農家さんが使用していたら認証されない場合があります。

そして「有機」と表示するためには、「有機JAS認証」というものを取得しなければなりません。我が家もまだ取得していませんが、これがとても厳しいらしいのです。

栽培の技術だけでなく栽培に関する日々の記録、肥料や農薬以外の資材や畑の周りの環境、伝票管理まで厳格な基準があると言われています。

日本と欧米で異なる、有機野菜の価値基準


夕暮れと柿
そんな大変な思いをして有機農法で作った野菜ですが、「安心安全」という謳い文句だけでは売れないのが現実です。

これは生産者側ではなく消費者側の意識が理由のようです。ひいては、日本と欧米の考え方の違いにも通じるようなのです。

有機農法で栽培された作物は、日本では「身体に良い」「おいしい」を理由に消費者に買ってもらおうとしています。

一方で、欧米では「環境に良い」が大きな理由だそうです。これからの未来のためにも環境汚染につながる恐れのある化学肥料や農薬は使わずに作られた野菜を食べるのだそう。

それを知った時に、生産者として消費者に何を訴えていくべきなのか考えさせられました。

自分の身体のことを思うように、作物が育つ畑や田んぼといった農地、ひいては地球環境も健康にしてあげなければ、本当の意味で「身体に良い」野菜たちは作れないのではないかと。

有機JASの認証を得るにはまだまだ経験も知識も不足しています。

将来的に目指すのはそこなのかもしれませんが、まずはこれまで化学肥料まみれだった畑を正しい姿に育て直すことから始めようと思います。

新たな販路、ネット販売の開拓


そしてその過程をSNSなどネットで発信しながら、我が農園の農作物の販売に繋げていけたらと思うのです。

現代の人たちは、何かと忙しい毎日を過ごしています。買い物もネットや宅配を利用している家庭も少なくありません。

重いお米や旬の野菜が買い物に行かなくても自宅に届くのであればこれほど便利なものはないですよね。そこに何か付加価値があればなお良し。

長年の調理経験と薬膳の知識が何かの役に立てればと思案中です。

これからの農家さんは生産だけでなく、自己プロデュースにセールス能力とまさにオールマイティーさが求められているのだと思います。

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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