【農家コラム】農家の嫁、55歳からの就農。想像以上に大変だった慣行栽培から有機栽培への切り替え

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、こんにちは。55歳で本格的に農業を始めた農家の嫁のさとうまちこです。

先日、役所から稲作を主体としている農家にアンケートが届きました。

「10年後、農家を続けていますか?」

この問いに対する答えは、そう簡単には出せませんでした。個人的には続けて行きたいし、続けているような気がします。ただ、農業を続けたくても続けられなくなるかもしれない、ということも考えました。

農家を継がせようと思っていない親世代


実際問題、畑はまだしも、わたしの家の田んぼは周りの農家さんが辞めてしまったら我が家だけでは管理もできません。コンバイン、乾燥機などは中山間地域の支援施策で、この地域で購入したものを共同で使っています。

農業を続ける農家がいなくなればその機械を維持していくのは難しく、まして自分たちでそろえることなどできるわけがありません。

人も歳をとっていきますが、機械も年数が経てば老朽化していきます。機械が壊れた時が農業も辞めどきと考えている農家さんは少なくないでしょう。実際、我が家の周りの農家さんがそうです。

でも、どうして農業を続けていくのが難しいと考えてしまうのでしょう?

それは、儲けが少なく、逆にやればやるほど赤字になってしまう……そんな「兼業農家」の実情が大きいと思います。

そして、もう一つ大きな問題があります。

「後継者がいない」

ということです。

より正しく言えば、「農家自身が農業を次の世代に継がせる気がない」ということです。

わたしたちの親世代で、現役で頑張っている農家さんのお宅でも、その子世代(わたしと同年代)は農業はしないと言っています。親世代も、わざわざしなくて良い苦労を背負わせてまで農家を継いで欲しいとは思わないのです。

そしてわたしたちの子ども世代は就職で地元を離れていってしまうのがほとんどで、結婚後も同居をしている我が家はとても珍しいのです。

どんなに頑張って農業を続けようと思っていても、その後を引き継いでくれる人がいなければ意味がありませんよね。正直、自分が元気なうちは農地を荒らしておけないから仕方なく農業をしているという方もいるかと思います。自分たちの代で終わり、となれば耕作放棄地が増えていくのは必然です。

わたしの周りの農家さんの年齢を考えると、10年先どころか5年後どうなっているのか、とても不安になります。

5年後、夫も定年退職を迎えます。夫は農業を続けて行きたいと考えているようで、周りの農家さんが辞めてしまった後の農地を引き継いでも良いと思っているのだそうです。先祖代々受け継いできたこの土地への愛着と景観を守りたいからだと言います。

たまに夫とドライブ旅行に出かけることがありますが、お互い否が応でも田んぼや畑ばかりに目がいってしまいます。

「ここは稲刈り始まったんだね」

「あの農機具はなにをするものなんだろう?」

でも、どこに行っても必ず目にするのは、元は田んぼや畑だったと思われる雑草だらけの土地です。

そして必ず夫が口にする言葉が「もったいないな~」。

山間に点在する、機械が入るのも難儀するような我が家の田んぼとは比べものにならない理想的な立地にあるのに荒れ放題の農地。「もったいない」と感じるのと同時に「かわいそう」と思ってしまいます。こんなに大きな農地を持つ農家さんも農業を続けていくことができないという現状がただ悲しいと感じます。

専業で大きく経営している農家さんと違い、我が家のような何においても中途半端な兼業農家は多いと思います。そして、そういった農家は兼業農家を辞める理由はあっても続ける意義がわからないのです……。

柚子を持つ孫

耕作放棄地が増えている地元への問題意識


けれども、立ち止まって考えてみてほしいのです。5年後、10年後、この場所はどうなっているのだろうと。

荒れ放題の農地に囲まれ暮らしていくのを、心地良いと感じることができるでしょうか。

この土地で生まれ育った夫と、嫁いできたわたしとでは感じ方は違うかもしれませんが、それでも実家で過ごしてきた時間よりもここでの時間のほうが長くなりました。

農業が好きということが根底にありますが、辞めずに続けていくと決めたのは、この土地への愛着と、良くも悪くも「意地」なのかもしれません(笑)。

辞めてしまうのは簡単です。

でも、1年何もせずに放置した農地を再び甦らせるには大変な労力が必要になります。

それに、人の手が入らず荒れてしまった農地には野生動物が現れやすくなります。人が生活しているすぐそばまで動物たちが来るのです。

わたしが住む地域では昔からイノシシはいましたが、被害が出るようになったのは20年前くらいからだったと思います。実家の辺りには熊が生息していて、よくりんごは食べられていましたが、人が襲われることはありませんでした。

人間が動物の住処である山や森に進出していくから、動物の住むところがなくなって人里に降りてくるとも言われます。

それも理由のひとつかもしれませんが、わたしは里山の手入れもできなくなり、人間と動物たちの暮らしの境界線が曖昧になってしまったこともあるのではと思います。田んぼや畑を作って、里山も以前のように人が手入れをすることで本来の自然の形も取り戻すことができるのではないでしょうか。

キウイフルーツ

慣行栽培と有機栽培への思い


義祖父や義両親が行ってきたのはもちろん慣行栽培です。

これまでの経験や義母の持つ知識からもそのまま慣行栽培を続けていくのが自分としても楽だと思っていましたし、栽培方法についてもそれほどこだわりはありませんでした。

正直なことを言えば、わたしはあまり慣行栽培と有機栽培の明確な違いを理解していなくて、化学肥料や農薬を使用せずにできるだけ自然に近い形での栽培方法が有機栽培だと思っていたのです。

義母が産地直売所(産直)で野菜を販売していた際も、特に栽培方法が指定されていたわけではなかったし、昔からのやり方で何の問題もなかったのです。

有機栽培に興味を持ったきっかけは、ネット販売を始めた時です。

ネットでは「自然栽培」「低農薬」「有機栽培」などの言葉が並び、野菜やお米が販売されていました。

なるほど……。消費者が今求めているのはこういうことなのかと思ったわけですが、その時点で我が家は慣行栽培だったので「有機栽培」や「自然栽培」を武器に売り込むことはできませんでした。

小さな農家にできること


慣行栽培をしているわたしが作った野菜を唯一誇れるところは、「水」でした。

近くに大きな河川がなく、蔵王連峰の雪解け水が流れる小さな川から田んぼや畑に水を引いています。

ここ数年は温暖化によってたびたび水不足に悩まされ、管理が大変ではありますが、隣市の田んぼで穫れたものと比べて我が家のお米は美味しいと好評です。

農作物の栽培には土だけでなく、水も重要な役割を持っていると思うのです。

我が家の水路
美味しい水があり、それに安心安全で環境に良いとされる「有機」がプラスされれば、これ以上ない強みになるのではと考えたのです。

とまぁ、考えるのは簡単です。

そこで有機栽培とは? と改めて調べてみると、想像以上に面倒で難しい……。近所の農家さんはみんな昔からの慣行栽培なので、誰にも教えてもらうことができません。ネットや書籍で情報を集めて日々実践です。

農業では成果はすぐには現れません。

今日やったことが明日にはわかる、というわけではないのです。半年後、1年後、もっと後になってから自分の取り組みが正しかったのか間違っていたのかがわかるかもしれません。

「有機栽培」の認証を得るためにクリアしなければならない課題は多いです。わたしがいくら「有機肥料で作った野菜です」と言っても証明するものがないのです。

わたしたちのような小さな農家にできることは、まずは身近な人たちに安心安全な食材を届けるのと同時に、これからもこの土地でお米や野菜を安心して作っていけるような環境を整えていくことなのだと思います。

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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