家族経営を10人規模の法人経営に――ミヤモトオレンジガーデン<前編>

愛媛県八幡浜市で温州ミカンなどの柑橘を栽培するミヤモトオレンジガーデンは、柑橘類では国内で初めてグローバルGAPを取得した。代表の宮本泰邦さんは会社員を辞めて家業を継ぎ、家族経営を法人に転換した。農協の共同選果に出すのではなく、自社ブランドで販売し、売り上げを平準化するために加工品も作る。またクラウドを使った農家目線のGAP取得支援システムも運営する。

前編では、宮本さんが就農してから今に至るまでの歩みを紹介する。

宮本泰邦さん

雇用生み出す法人目指す

八幡浜市川上町はミカンの優良産地として知られる。海べたの集落の、離合ができないような細い道路をミカン山へと車で上がっていく。養殖のいかだが浮かぶ宇和海と青空の境を西へと延びる佐田岬が区切っている。眼下に広がる段々畑の緑が目にまぶしい。素晴らしい眺望の場所に、宮本泰邦さんの温州ミカンの畑がある。

「以前より、歳をとってから実家に戻ってミカン農業に取り組むことを考えていました」

こう話す宮本さんは今年42歳。家業を継いだのは2013年、37歳のことで、「家庭の事情で、もともと考えていたより20年は早くなりました」。父が亡くなった後、実家が大変なのを見て、戻って就農すると決めた。それまで15年間会社員をしており、東京暮らしが長く、ミカンの栽培に関する知識がほとんどない状態での帰郷だった。

ミヤモトオレンジガーデンの畑から宇和海を見下ろす

だが、経営手法については初めから確固とした考えがあった。

「この辺りは、全国有数のミカンのブランド産地で、一般的な農家はミカンを農協の共選(共同選果)に出荷して、地域単位で販売しています。これはこれで素晴らしい仕組みですが、私は、以前より農業に事業として取り組みたいとの想いがあり、お客様に直接販売することや、地元で働く人の受け皿になるような法人を創っていきたいと考えていました。これから先の農業を考えたときに、法人経営が必要だとの想いで日々取り組んでいます」

家族経営を法人経営に転換し、雇用も生み出したいという目標を持っていたのだ。13年3月に実家に戻ってから、愛媛県立農業大学校に入学、財団の創業支援や地銀の主催する起業塾も活用し、農業と経営について学んだ。

この年の10月には、地元の青果市場で柑橘を仕入れ、ECサイトで販売を始めた。自分で栽培を始めるよりも先に、買い付けと販売を始めたのだ。独自の基準を設けて青果市場で買い付けし、多様な品種を確保することは今も続けている。品ぞろえの豊富さは売りの一つだ。

加工で売り上げを平準化

14年2月からは50アールで栽培を始め、7月にミヤモトオレンジガーデンを設立し、代表取締役に就いた。この年に加工品の委託生産も始めた。ミカンの売れる11月、12月に売り上げが集中するのをできるだけ平準化し、年間を通じて安定した経営をするためだ。

ジュースや寒天ゼリーのほか、「塩みかん」という自社栽培の無農薬ミカンを塩漬けにして熟成させた調味料も開発した。「塩みかん」は全日空の国際線ファーストクラスの機内食にも使われた。

ミヤモトオレンジガーデンのミカンジュース

栽培面積を徐々に増やし、今では2.9ヘクタールの規模に。宮本さんのほかに従業員が9人おり、平均年齢は34歳と若い。ECサイト経由の売り上げが半分、百貨店や高級果物店、生協、スーパーなどの実店舗に出すものが残り半分を占める。

農業法人は年間の休みが70日程度のところが多いとされる。年間70日とすると、一週間のうち休みは1.3日の計算になる。

「弊社は年間スケジュールで105日の休みを設定しています。あまり残業もありません。他の農業法人と比べて社員にとって働きやすい環境だと思います」

有給休暇の取得も多い。しかし、一般企業並みの待遇を目指す中で悩みもある。

「難しいところはあります。他の農家と比べて、年齢が若く経験が少ないため生産性が低いこと、また、天候にも左右されるため、なかなか思うようにはいきません。生産性を上げる努力は、従業員と話し合いながら共有するようにしています」

クラウド活用やGAP取得で経営改善

具体的には、「反省・改善メモ」という従業員間で気づきをクラウド上で共有するシステムを作っている。「ここをもっとこうしたらいいと思うといったことを書いて、経営改善に役立てようとしています」。投稿は200件を超えている。仕事を見える化し、経営を改善することを突き詰めた結果、ミヤモトオレンジガーデンでは農業生産の工程を管理するグローバルGAPとアジアGAPを取得した。このことについては後編で紹介したい。

経営上の理想を追い求めつつ、栽培技術の向上にも余念がない。従業員が、少なくとも2カ月に1回は生産者向けの何らかの勉強会に参加している。具体的には、剪定や摘果の講習や、変わったものだと農業経営にクラウドをどう使うかといった勉強会など。県内だけではなく、東京といった遠方にも学びに出かける。

「教育にはお金をかけています」

新しい栽培方法の導入や効率化をしつつ、生産面積を増やしていくつもりだ。農業法人として、さらなる高みを目指している。

(後編へ続く)

<参考URL>
ミヤモトオレンジガーデン

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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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