農家と消費者が支えあう「CSA(地域支援型農業)」とは? 事前契約とはどう違う?

持続可能な食料生産を実現するための仕組みとして、アメリカやヨーロッパなどで普及している「CSA(地域支援型農業)」。まだ取り組み事例は少ないものの、生産者の高齢化などさまざまな問題を抱える日本でも注目が集まってきています。

そこで今回は、CSAの基本的な考え方をはじめ、日本で普及が進まない理由や国内で実践している生産者の取り組み事例を紹介します。


CSA(地域支援型農業)と事前契約の違い


CSAは「Community Supported Agriculture」と言って、生産者と消費者が連携し、流通業者などを介さずに直接契約で野菜を定期購入する仕組みです。日本では「地域支援型農業」と言われることもあります。

基本的には、半年や1年などの単位で契約して消費者に代金を前払いしてもらうことで、生産者は種苗や資材などの購入費に当てるなどして持続的な農業経営を行える仕組みになっています。

CSAや地域支援型農業と聞くと特別で難しいものと感じてしまいますが、売れ残りの発生を防ぐためにコメの取引などで行われている実需者との事前契約と同じような考え方と言っていいでしょう。

しかし、事前契約と異なる点は買主が消費者であること、天候不順などによる不作のリスクを共有して営農を支えていくという意味合いが強いことです。事前契約はあくまでビジネスとしての卸や流通業者との契約であり、野菜などを供給することは義務になります。不作などで収量が下がったり質が落ちてしまうこともありますが、それらも契約の中に定められたりしています。

また、CSAでは消費者は単に野菜を購入するだけでなく、農業体験などを通して農場運営にも積極的に関わるといった特徴もあります。

CSAの起源


CSA自体は1986年にアメリカで誕生したものといわれていますが、その考えの基となったのは、1970年代からスイスやドイツで始まっていた「EVG(産消協同組合)」にあると考えられています。

一方、アメリカの実践者の中には、1970年代に有機農業運動として日本で広まった「産消提携」がCSAのモデルとなったと考える人もおり、1978年に日本有機農業研究会が出した「提携10か条」を見てみると、確かにCSAと共通する部分が多く見られます。

現在はアメリカを中心にカナダやフランス、イタリアなど30カ国以上で、CSAと同じような理念を持った活動が行われています。

アメリカやヨーロッパで普及が進んでいる理由


欧米でCSAが普及する要因としては、CSAに関する支援組織が存在していることが大きいです。

最もCSAが盛んなアメリカにある代表的な支援組織は、非営利団体の「Just Food」。生産者と消費者双方に向けた情報提供や契約を促進する仲介、CSAの認証の3つの機能を持っています。また、フランスでCSAに相当する「AMAP」では、アリアンス・プロバンス協会が「AMAP憲章」を制定し、AMAPの認証機能を担っています。

これに対して、日本ではなぜ普及が進んでいないのか。それは、欧米のようなCSAを普及するための環境が整えられていないことも一因ではありますが、前払いでの契約に対する抵抗感や、リスクとコストを生産者と均等に負担する考え方が浸透するのかといった課題があります。

また、日本はアメリカなどと比べて安心・安全な野菜が手に入りやすい環境にあることも、CSAが広まらない要因のひとつとして挙げられています。

生産者がCSAを導入するメリット


CSAの最大のメリットは、天候などにより収量が減少しても一定の収入を確保できる点です。前もって契約するので生産計画が立てやすくなることも大きなメリットといえるでしょう。

また、CSAの会員のほとんどは近隣の地域住民であることが多いので、ボランティアを募って袋詰めなどの作業の一部を任せることもできます。そのため、生産者は農場運営に専念でき、より高品質な作物を作ることが可能に。さらに、農作業体験などを通して生産者と消費者の交流が深まることで、地域コミュニティーの活性化にもつながります。


日本国内の取り組み事例


CSAと言っても消費者の農場へのかかわりが最小限のものから、営農に必要な機械の購入や運営方針も共同で行うものなど形態はさまざまです。

有機農業自体の普及が停滞している日本では取り組み事例が少ないものの、少しづつ関心が高まってきています。日本でCSAの考えを取り入れ実践する生産者の取り組みを見てみましょう。

宮城県大崎市 「鳴子の米プロジェクト」


宮城県大崎市の鬼首(おにこうべ)地区で2006年にスタートした「鳴子の米プロジェクト」。米の低価格と大規模化政策の影響で中山間地域での農業経営が困難になる中、小規模農家を守るための仕組みとして地元産の米を地域の温泉旅館や住民が買い支えるなど、CSAと共通する取り組みが行われています。

このプロジェクトで栽培されたお米は一俵2万4000円で販売し、そのうちの1万8000円が農家に、残りの6000円を事務経費や担い手育成の事業資金に当てるという仕組みでスタートしました。

また、鬼首地区は冷涼な気候条件を持つ地域であるため、開始当初は栽培しやすい耐冷品種である「東北181号」の試験栽培を行い、のちに「ゆきむすび」として品種登録。「ゆきむすび」はプロジェクトのシンボルとなり、2007年には予約販売のみで完売を達成するなど、鬼首地区の米づくりを支えています。

茨城県つくば市 つくば飯野農園


茨城県つくば市のつくば飯野農園では、夫婦で2012年に新規就農し農薬や化学肥料を使用しない農業をスタートしました。

就農当初は野菜セットの個人宅配を行っていましたが、三重大学の波夛野豪教授が代表を務めるCSA研究会に参加したことをきっかけに宅配の会員を中心に声掛けし、従来の販路を維持したまま2015年にCSAを導入。Facebookを通じた情報発信に力を入れることで会員数を伸ばし、現在はCSAだけでなく直売やレストランへの卸売りも組み合わせた経営を行っています。

野菜セットは、春夏と秋冬の2部があり、毎週届くコースと隔週で届くコースの2種類で、毎週金・土・日曜日のどれかに指定場所に野菜を取りに行くシステムです。

消費者との交流を深めるため、会員向けのワークショップや農場運営に関する意見交換会なども実施。CSAのコンセプトを導入することで、これまで個別に配送していた労力の軽減や前払い契約による経営の安定化を実現しています。

兵庫県神戸市 BIO CREATORS


BIO CREATORSは、神戸市西区で有機農業を営む複数の農家グループで、有機野菜が当たり前に食卓に並ぶ社会を目指し、2016年にCSAを導入した農業経営をスタートしました。

約1週間分の野菜を1パックとして、2万円の10週10パックコース、1万2000円の隔週5パックコース、2500円のおためし1回コースの3つが用意されていて、ピックアップステーションと呼ばれる5つの受け取り場所の中からひとつを選択する仕組みになっています。

2022年1月には有機農業スクールを開講し、栽培技術や土づくりなど基本的なことからCSAについて学ぶ勉強会などを行い、有機農業を広めるための活動も積極的に行っています。

農場のコンセプトを考えるところからはじめよう


CSAを始めるにあたっては、野菜の分配方法や価格なども含めたセットの内容をどうするか、また会員をどうやって募るかがポイントとなります。しかし、それよりも初めに行うのはどんな農業を目指すのかというビジョンを描くことです。

CSAは、農家が取り組む内容に賛同する消費者の協力によって成り立つものなので、農場のコンセプトを考えることがなにより重要です。今回紹介した事例にもあったように、環境や人の健康に配慮することを基本に自分がどんな農業を実現していきたいか、しっかりとコンセプトを決めることからはじめてみましょう。


農研機構「CSA(地域支援型農業)導入の手引き」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/csa-guide.pdf
鳴子の米プロジェクト
http://www.komepro.org/
つくば飯野農園
https://tsukuba-iinonouen.com/
BIO CREATORS
https://biocreators.org/

【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。