農研機構、低コストな樹脂製テープを活用したトマト用接ぎ木装置を開発

農研機構、イワタニアグリグリーン株式会社、京和グリーン株式会社の3者は、農研機構が特許を取得する低コストな樹脂製テープを活用したトマト用接ぎ木装置の開発に成功した。

3者は、トマト用接ぎ木装置の提供を通じて、「トマト接ぎ木苗の安定供給と熟練の技術を要する接ぎ木作業の自動化・省力化を目指す」としている。

日本でも、トマトの接ぎ木苗が全国のトマト栽培の約58%(4312ヘクタール)に達し、今後も増加が見込まれている。しかし熟練を要する接ぎ木作業者の高齢化や担い手の不足等の課題を原因に、今後の安定供給が不安視されているそうだ。

トマト用接ぎ木装置にはすでに市販化されているものもあるが、機械調整の煩わしさや手作業と比べてコストがかさむなどの問題があり広く利用される状況になっていないという。そこで農研機構は、低コストな樹脂製テープを用いた接合方法と、それを用いた自動接ぎ木メカニズムを考案し、イワタニアグリグリーン、京和グリーンと開発技術の実用化へ向けた共同研究を行いトマト用接ぎ木装置を開発した。

1時間あたりの接ぎ木本数は手作業の2倍、活着率も90%以上に


3者が開発したトマト用接ぎ木装置は、苗を把持・移動する回転テーブル、樹脂製テープの供給部、穂木および台木の切断部、搬出用のコンベア等で構成された製品である。

通常、トマト苗の接ぎ木は、専用のチューブやクリップを使用して接合するのが一般的だが、3者が開発したトマト用接ぎ木装置は、超音波溶着と呼ばれる技術を用いて樹脂製テープ同士を接合する仕組みだ。

トマト用接ぎ木装置の外観|出典:農研機構
作業者は、穂木および台木を1株ずつ回転テーブルに供給して、供給部から45度回転した位置で両苗の斜め切断を実行する。次に135度回転した位置でテープによる接合を行い、225度回転した位置で機外搬出用のコンベア上に苗を落下させて接ぎ木が完了する。

接合の様子|出典:農研機構
作業能率は、熟練作業者(1時間で約200本)の2倍以上の速度にあたる1時間あたり450~520本。穂木と台木の直径に差がある場合でも、0.6mm程度であれば良好に接合できるほか、穂木と台木の1週間後の活着についても、熟練作業者と同等程度にあたる90%以上の活着率を達成しているそうだ。

接ぎ木から2週間後の様子|出典:農研機構
苗1本あたりに使用する樹脂製テープの価格は、トマト苗の接ぎ木で使用する手作業用チューブの35~50%程度、クリップの15%程度。樹脂製テープは、苗の生育に伴い少しずつ溶着部分が剥がれ脱落していくため、除去作業等も不要と負担軽減にもつながるという。

製品の販売元はイワタニアグリグリーンで、2021年春以降の発売が予定されている。


農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/
イワタニアグリグリーン株式会社
http://www.iwatani.co.jp/
京和グリーン株式会社
http://www.kyowa-g.com/
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
パックごはん定期便