生研支援センター、新規就農者でも失敗しないICT環境制御システムを開発

農林水産業や食品産業の分野で新産業の創出や技術革新を目指す研究への資金提供と研究成果の紹介に取り組む生物系特定産業技術研究支援センターは、ICT(情報通信技術)を活用した環境情報システムを用いて、新規就農者でも熟練農業者と同等の栽培管理を行う方法を確立した。

2つのブランド野菜を対象に実験を実施


生物系特定産業技術研究支援センターが確立した方法は、温度や湿度などビニールハウス内の環境を制御するICT環境情報システムを用いて、農作物の成長に必要な栽培環境を整備するもの。

京都府のブランド野菜である万願寺トウガラシと全国有数のニンジン産地である徳島県の春夏ニンジンを対象に行った実験では、熟練農業者と同等の栽培管理を実現して、収量増加や品質向上につながる成果を得たそうだ。

実験の内容は以下の通り。

京都府の万願寺トウガラシ


万願寺トウガラシは、京都府のブランド野菜として新規就農者の参入も多い農作物だが、ビニールハウス内の温度調整や土壌の水分管理などがうまく行えず、品質や収量を低下させてしまう事例が報告されているという。

万願寺トウガラシ
出典|https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/fukyu/episode/episode_list/143870.html

実験では、万願寺トウガラシを栽培するビニールハウスにICT環境情報システムを設置。
収量の多い熟練農業者のデータを参考に、測定データを確認しながら栽培管理を実施してみたところ、ハウス内の温度を15℃~35℃の範囲に設定すると収量が安定することが判明したそうだ。

ICT環境情報システムを設置したビニールハウス内
出典|https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/fukyu/episode/episode_list/143870.html

また、測定データに基づく温度管理技術と土壌水分センサーの値に連動する自動潅水制御装置を組み合わせた実験では、品質の良い「秀」クラスが約9%増加したほか、新規就農者でも10アール当たり約3.7トンの収量と約34万円の所得増が見込めることが確認できたとのこと。

徳島県の春夏ニンジン


全国有数のニンジン産地である徳島県の春夏ニンジンは、ミニパイプハウスに張り付けたビニールフィルムを開孔して温度管理を行っているが、タイミングが合わず収量が安定しない生産者が多いという。

春夏ニンジンを栽培するミニパイプハウス
出典|https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/fukyu/episode/episode_list/143870.html

実験では、春夏ニンジンを栽培するミニパイプハウス内にICT環境情報システムを設置。
開孔の方法とハウス内の温度、日射量、風の強さ、生育状況の関係を約4カ月に渡り調べてみたところ、少しずつ開孔したほうが根が大きく育ち、収量が増加することが判明したそうだ。

ICT環境情報システムを設置したミニパイプハウスの内外
出典|https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/fukyu/episode/episode_list/143870.html

また、適切なタイミングで開孔できる情報をリアルタイムに届ける換気支援システム活用した実験では、10アール当たりの収量が最大で1割増加。県内農家一戸当たり約70万円の売上増加が見込める試算結果を得たとのこと。

生物系特定産業技術研究支援センターは、ICT環境情報システムを用いた栽培管理の提供を通じて、地域ブランド野菜の強化と新規就農者支援に貢献したい考えだ。


生物系特定産業技術研究支援センター
https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/index.html
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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