トラクターによる種子コーティング不要の「代かき同時播種技術」が日本作物学会技術賞を受賞

山形県を本拠に農業用機械の開発・製造・販売を手がける株式会社石井製作所は、農研機構東北農業研究センター、山形県農業総合研究センター水田農業研究所、山形大学らと共同で開発した「寒冷地における稲作省力化技術の無コーティング代かき同時浅層土中播種技術」が第12回日本作物学会技術賞を受賞したことを発表した。

無コーティング代かき同時播種機を開発


日本作物学会技術賞は、日本作物学会に加盟する企業・研究機関・大学等が実施した研究内容を表彰して、日本の作物生産の省力化に役立つ新たな技術を公表するものである。

研究では、代かき作業と播種作業を同時に実行するトラクター専用の無コーティング代かき同時播種機を開発して、無コーティング種子を使用した湛水直播栽培を実施。栽培品種は、直播栽培専用のイネ品種で高い耐倒伏性が特長の「萌えみのり」を使用している。

その結果、種子コーティングを施した湛水直播栽培と同等の苗立率、浮き苗防止効果、鳥害軽減効果、倒伏防止効果が確認できたという。

(左)研究で使用された無コーティング種子(中央)通常の湛水直播栽培で使用される鉄コーティング種子(右)深さ1cm程度の土中播種に使用されるモリブデンコーティング種子
極浅植え(0.5cm)専用の播種ユニットと鎮圧ローラー2つで構成された水稲向け無コーティング代かき同時播種機。
この研究の後の2018年に製品化された。

秋田県で実施された無コーティング代かき同時播種栽培の生育推移
(左)播種直後(中央)播種1か月後(右)収穫前※夏~秋

この研究で得られた成果は以下の通り。

  1. 種子コーティングに必要な資材コスト、人件費、作業時間を大幅に削減できる。
  2. 代かきと播種を同時に実行できる。
  3. 種子補給を行わずに連続で播種できる。
  4. 圃場整備が未途中の中山間地域など、田植機での作業が難しい圃場でも播種できる。
  5. 雑草の発生を抑制できる。
  6. 収量・売上・利益の向上が見込める。

東北・北陸地域などの寒冷地では、農業人口の減少や高齢化、担い手不足による農業生産の大規模化を背景に、湛水直播栽培を導入した水稲栽培が行われている。
同社は今回の受賞を機に、無コーティング種子を使用した水稲湛水直播栽培を普及したい考えだ。


日本作物学会
http://www.cropscience.jp/
株式会社石井製作所
https://isi-mfg.com/
農研機構東北農業研究センター
https://www.naro.go.jp/laboratory/tarc/index.html
山形県農業総合研究センター
https://www.pref.yamagata.jp/141002/sangyo/nourinsuisangyou/nogyo/sogo/nougyousougou/noukensenterhome.html
山形大学
https://www.yamagata-u.ac.jp/jp/
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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