農研機構ら、窒素肥料の活用と温室効果ガス削減に役立つ「硝化抑制」のメカニズムを解明

農研機構は、株式会社アグロデザイン・スタジオと共同で、温室効果ガス排出の一因にもなっている「硝化」という現象を植物由来の物質が抑制する分子メカニズムを明らかにした。これにより、温室効果ガス排出を抑えられる、より安全で高機能な硝化抑制剤の開発や窒素肥料の有効利用に貢献できるとしている。

窒素肥料の施肥が硝化作用によって及ぼす環境への影響と硝化抑制の効果
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/naac/160755.html

窒素肥料に関連する温室効果ガスを削減


農業において窒素は必要不可欠な栄養分であり、植物が利用できる窒素が土壌の中にどれだけ多く含まれているかによって、植物の生産性が決まるといっても過言ではない。しかし、窒素肥料の過剰な使用により、窒素肥料自体の損失、水質汚染、温室効果ガスの排出といった問題もある。

「硝化」という現象は、窒素の分解によって生じたアンモニアが微生物によって酸化され、硝酸や亜硝酸に変化することを言う。農業では、肥料としての窒素を長く活用するため、硝化抑制剤を使用しているが、それによって肥料の過剰使用を抑制できる一方で、残留性、揮発性、効果の持続性などの課題が残されていた。

Jugloneによる硝化抑制のメカニズム
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/naac/160755.html

今回、この「硝化」を担う酵素のひとつ「HAO」の研究を通じて、硝化抑制剤と同じような作用がある植物由来の「Juglone」という物質の仕組みを、世界で初めて分子レベルで解明。

この研究の成果を活用することで、安全で高機能な新規硝化抑制剤を開発することが可能となり、窒素肥料の利用効率向上による穀物生産量の増加や、窒素肥料の使用量の削減、肥料の製造に使われる石油の削減、そして温室効果ガスの発生抑制などが期待される。

なお、本成果は、科学雑誌「Applied and Environmental Microbiology」(2023年11月27日)にて発表された。

論文情報
掲載誌:Applied and Environmental Microbiology
論文名:Juglone, a Plant-derived 1,4-Naphthoquinone, Binds to Hydroxylamine Oxidoreductase and Inhibits the Electron Transfer to Cytochrome c554.
著者:Yukie Akutsu, Takaaki Fujiwara, Rintaro Suzuki, Yuki Nishigaya, Toshimasa Yamazaki
掲載URL:https://journals.asm.org/doi/10.1128/aem.01291-23


農研機構
https://www.naro.go.jp/index.html
農研機構 (研究成果) 植物由来の物質が土壌中の硝化を抑制する分子メカニズムを世界で初めて解明
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/naac/160755.html
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
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  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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