農研機構、豆腐に適した多収ダイズ新品種「そらひびき」「そらたかく」を育成

農研機構は、収量が高く豆腐の加工に適したダイズの新品種「そらひびき」および「そらたかく」を育成したと発表した。これにより、東北南部から北陸、東海から九州地域におけるダイズ生産量の向上が期待される。

 「そらひびき」と「そらたかく」の子実の外観(2023年産)
上段左から「そらひびき」、「LD00-3309」(花粉親)、「サチユタカ」(種子親)、「里のほほえみ」(比較)
下段左から「そらたかく」、「Santee」(花粉親)、「たつまろ」(種子親)、「フクユタカ」(比較)

国内ダイズ自給率向上に向けた取り組み


ダイズの自給率は6~7%、食品用に限っても2割程度であり、需要の多くを輸入に依存しているため、食料安全保障の観点から自給率向上は喫緊の課題となっている。

米国のダイズは平均単収が340kg/10aと高いが、主に油糧用で育成されており、豆腐の加工適性に必要なタンパク質含有率が低い傾向にある。対して、日本のダイズは豆腐の加工適性が重視されているが、平均単収は168kg/10aと低い。このような状況を踏まえ、農研機構は収量が高く加工適性に優れたダイズ新品種の育成に取り組んできた。

農研機構が今回発表した「そらひびき」と「そらたかく」は、多収性を持つ米国品種と加工適性が高い日本品種を交配して育成されたものだ。

現地実証試験の結果から、そらひびきは東北南部~北陸地域、そらたかくは東海~九州地域が栽培適地で、既存の品種と比較してそらひびきは2割以上、そらたかくは5割以上の多収が見込まれるという。


そらひびきは草丈が低く倒れにくい特徴を持つ。一方そらたかくは、草丈が現行品種並でありながら倒れにくく、既存品種である「フクユタカ」と同等の成熟期であるため大豆から麦の二毛作体系への適性ももっているという。

また、両品種とも米国品種由来の葉焼病抵抗性や難裂莢性を有しており、安定した収量を確保することができる。

「そらひびき」と「そらたかく」の草姿(尺の数値は10cm単位)

さらに、生産されたダイズを第三者検査機関が豆腐に加工して試験したところ、フクユタカと比較してそらひびきはタンパク質の含有量がやや低かったが、豆腐を作るために必要な豆乳の量やできた豆腐の硬さは同じだった。

そらたかくも同様にタンパク質の含有量はやや低く、豆乳の量は同じで、豆腐の硬さはやや低かったが、両品種ともに豆腐作りに適していると評価された。


栽培上の留意点としては、そらひびきはダイズモザイクウイルスのすべての系統に対して感受性があり、そらたかくは一部の系統に対して抵抗性を持つ。また、両品種ともダイズシストセンチュウに対して感受性があるため、これらの被害履歴のあるほ場での作付けを避ける必要がある。

なお、そらひびきは、倒れずに空を向いて育った茎に多くの莢が実り、カラカラと揺れる音が響渡る様子を、そらたかくは、空に向かってまっすぐ高く伸びるダイズの姿をイメージして命名された。また、空のように高い収量を目指して育成した品種であるという意味も含まれている。

そらひびきは東北南部~北陸地域を中心に、そらたかくは東海~九州地域を中心に普及を進めているという。両品種は既存品種と比較して約2割以上の多収が見込まれることから、普及が進むことで国産ダイズの安定生産と供給を加速化することが期待される。


農研機構
https://www.naro.go.jp/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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