米を増産するために必要な「スマート農業技術」まとめ ~効率化と高品質化を実現する最新技術

米作りは、日本の食文化を支える大切な農業です。しかし、労力やコストの問題が大きな課題であることが、米の値上がり、米不足などの問題で一般の消費者にも浮き彫りにされてきました。

米作りというと、田んぼに横並びになって苗を手で植えていく伝統的な農法のイメージがありますが、農家の高齢化や後継者不足の中で米を増産していくためには、少ない人数でより広い面積を栽培する必要があります。そのためには、米作りに関するスマート農業技術は、これまで以上に欠かせなくなってきています。

そこで本記事では、田植えから収穫までの各行程に沿って、米作りをより効率化し、収量や品質の向上に活用できる最新のスマート農業技術をご紹介していきます。米の高騰や米不足の解消に向けて、これからさらに重要になっていくでしょう。


米の増産に必要なこととは?


まず、米を増産するために必要なことを考えて見ると、以下のようなものが挙げられます。

  • 米を栽培できる生産者の増加
  • ひとり当たりの生産者が受け持つ圃場の拡大
  • 人が行ってきた作業を代わりに行える農機
  • 人が行ってきた作業をより短時間で行うこと
  • 米作りにかかる資材(種・肥料・農薬など)のコスト低減

こうした目的を実現するために、さまざまなスマート農業技術が開発され、現場で使われてきています。ここからはそれぞれ代表的な技術をご紹介します。


田植え前の準備:圃場調査と地力把握


出典:ザルビオ・フィールドマネージャー
米の順調な生育に欠かせないのが、田んぼの状態を整える作業。田起こしで冬の間眠っていた土を掘り起こして乾燥させ、代かきで田んぼに水を入れて土をかき混ぜて平らにし、畦塗りや元肥散布などで栄養素を追加します。

人間の目で見ても田んぼの栄養状態はなかなかわかりませんが、人工衛星やドローンなどで撮影した映像から圃場の地力のムラをAIで分析し、最適な施肥量や施肥箇所を見極める技術が開発されています。これにより、肥料が足りない場所にはしっかり元肥を補充しつつ、全体に撒くような過剰施肥を防ぎ、コスト削減と環境負荷の低減に貢献します。

これらのAIによる分析は、経験のある方なら生育状況を見て判断することもできますが、膨大な圃場のすべてをチェックすることは現実的ではありません。ドローンや人工衛星の「目」とAIによる「データと頭脳」が、経験者の変わりにより広い範囲での米作りを可能にしてくれます。

ザルビオ・フィールドマネージャー|BASFジャパン
https://www.xarvio-japan.jp/
Sagri|サグリ株式会社
https://sagri.tokyo/sagri/


田植え・播種:ドローンにより条を作りながらの打ち込み直播



田植えといえば、専用の育苗機で稲を育て、田植機に乗せて丁寧に植えていく作業が一般的でした。ですが、この育苗の設備コストや時間を省いて、より多くの圃場を少人数で扱えるようにするための技術が、圃場に直接種(米の場合は種籾)を撒く「直播」と呼ばれる技術です。

直播技術自体は昔から研究されており、乾いた田んぼにトラクターなどで溝を掘って埋めていく「乾田V溝直播」や、アメリカなどで行われている飛行機による広範囲での散播などもありました。ですが、中小規模の圃場が多い日本では、設備的にも環境的にも利用できる圃場の整備が必要など、限られる面もありました。

そこで誕生したのが、一般的な水田と同様の湛水の圃場に、短時間で播種ができ、手植えや田植機のようにきれいな「条」を作ることで雑草対策や収穫もやりやすくなる「ドローン打込条播」という技術です。そのまま落下させただけでは種籾が鳥などに食べられる食害の可能性もあるため、圃場に種籾を打ち込むことで食べられにくくすることにも成功しています。

直播栽培の課題であった倒伏(稲が倒れてしまうこと)には、種からの栽培でも倒伏しにくい品種を選ぶといった方法もあり、品種改良とともに発展しています。いま行っている稲作の知識と技術をほとんど変えることなく、省力化により栽培面積を広げ、日本ならではの稲作も継承できる技術として、期待が高まっています。

ドローン打込条播サービス|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/sowing

乾田直播技術|農研機構
https://www.maff.go.jp/tohoku/seisan/gurisapo/attach/pdf/gurisapo-15.pdf


水管理:IoTセンサーによる水位チェックと自動給排水


出典:株式会社farmo
米作りの過程で重要なのが水位管理です。水を多く必要とする初期育苗期から、収穫期に向けて水を控えめにする必要があります。また、栽培途中では病害虫の防除や雑草対策、土壌環境の保全など、水管理は米作りの生育環境を整える上で大切な役割を担います。

そんな水管理を、IoTやセンサーを活用して水位を遠隔モニタリング・自動化する技術も開発されています。毎日のように圃場を見にいく必要もなく、圃場ごとに必要な場所にセンサーを設置してスマホなどでチェックすることで、見回りをしているのと同じことができてしまいます。ゲートを取り付ければ給水や止水の指示も可能になります。

水田ファーモ|株式会社farmo
https://farmo.info/product_paddy/
ほ場水管理システムWATARAS|株式会社クボタ
https://agriculture.kubota.co.jp/product/rice_equipment/watering-WATARAS/
paditch|株式会社笑農和
https://paditch.com/


施肥・病害虫管理:ドローンによる可変施肥とモニタリング



米作りの過程で頭を悩ませるのが、収量や品質を大きく左右する病気や害虫による害をいかに防ぐかということです。地元の農業関係者から害虫の発生状況などを聞いたタイミングではもう遅い、ということもあります。

そんな状況を防ぐために、地域ごとに広範囲でまとまって農薬散布を行う「共同防除」なども行われていますが、天候や散布範囲などによっては適期に散布できないことも多く、実施規模の割に効果が薄い地域や年もあります。

そこで、地域の実情や栽培している品種などに応じて、よりきめ細やかに適期での農薬散布を行うのが、「ピンポイントタイム農薬散布サービス」です。最も病害虫に効果的な時期や散布方法を、ドローンパイロットのスケジュールも含めてAIなどで計算し、人的にもコスト的にも最も効率的で最も効果が高い方法で散布を行います。しかも、散布時の立ち合いなども必要なく、すべての作業を丸投げできるところも効率化に一役買っています。

さらに、個々の農家単位ではドローンの映像などをAIで分析し、必要な場所に必要な量だけ農薬や肥料を散布する「ピンポイント農薬散布」「ピンポイント施肥」という技術もあります。

必要な場所にだけ散布するということは、それだけ資材のコスト削減と同時に、環境への負荷も減らしながら、収量や品質を向上させることもできます。

ピンポイントタイム散布|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/pts

ピンポイント農薬散布テクノロジー|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/agriculture/smartagrifood/technology


収穫・乾燥:自動運転による収穫と収量・食味のモニタリング



無事に栽培でき、黄金の稲穂が首を垂れてきたら収穫の時期。収穫については大量の米を一気に収穫できるコンバインが使われています。

中でも、自動運転できるコンバインには、AIカメラや各種センサーを搭載し、熟練者の技を再現する自動運転が可能です。これにより、作業の省力化と効率化が実現されています。

また、収穫した米の食味・水分量などをセンシングし、次年度以降の施肥に利用する機能を搭載したコンバインもあります。

コンバイン・バインダー・ハーベスタ|株式会社クボタ
https://agriculture.kubota.co.jp/product/combine/


データ管理と経営分析:クラウド型農業管理ソフトの活用


米作りは基本的に1年1作のみですが、その年の気候や生育状況などを記録し、翌年以降にも生かしていくことが重要になります。わずか1年のデータであっても、それ以外の膨大なAIデータなどと照らし合わせることで、数十年分の経験を翌年に生かすこともできるようになっていくでしょう。

そのためにはまず、必要なデータを、生かせるかたちで記録することが必要です。こうしたデータ管理や農業経営状況の分析を行うための営農管理・営農支援のためのソフトの活用も、規模拡大には有効です。

KSAS|株式会社クボタ
https://agriculture.kubota.co.jp/ksas/
豊作計画|トヨタ自動車
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31312132.html
アグリハブ|株式会社AGRIHUB
https://www.agrihub-solution.com/
アグリノート|ウォーターセル株式会社
https://www.agri-note.jp/


まとめ


事実上の減反政策の継続により、日本の米の生産量は調整され、増産が難しい状況が続いてきました。それと同時に、高齢化による離農と担い手不足により、栽培することはできるものの、担い手がいないままの農地や耕作放棄地は日本中にたくさんあります。

それらをうまく活用すれば米を増産できるだけのポテンシャルはあります。しかし現実には、実際の担い手の方たちだけでは簡単に栽培面積を増やすことも難しいのが現状です。

そういった状況に対して、米作りに関するスマート農業技術が、今後はより求められていくでしょう。低コスト・少人数で米を作ることができて初めて、増産が可能になります。

また、スマート農業技術は、労力軽減だけでなく、環境負荷の低減や収量・品質の安定化も実現します。持続可能な農業生産と同時に、SDGs的な観点から環境保護も同時に実現できることにもなります。

こうしたスマート技術があることをより多くの農業関係者や生産者、さらにこれから夢を持って米作りに携わりたいと考えている方たちの力があれば、よりよいかたちで日本の米作りが発展していくはずです。

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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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