ドローン経験豊富なパイロットが農作業をサポート「DRONE CONNECT」レポート

食害の激しいポイントを狙って農薬を噴霧

8月23日朝8時30分、茨城県つくばみらい市にある井関農機株式会社の実験農場。大豆畑に向け、ドローンが飛び立った。
コントローラーを手にするのは、茨城県小美玉市在住の大塚毅さん(60歳)。今年8月1日から株式会社オプティムがスタートさせた「DRONE CONNECT」のパイロットとして活躍している。


ドローンの機種はDJI社製の「ARGAS MG-1」。農業用のドローンで、横幅は1.47m。機体重量9.5kg(バッテリーなし)で、薬剤を10ℓまで搭載でき、最大離陸重量は24.5kg。

この日、タンクに積み込んだ薬剤は「プレバソンフロアブル」。大豆の葉に食害をおよぼすおそれのある「ハスモンヨトウの幼虫退治」が目的で、希釈濃度は散布基準では16~32倍だが、今回は32倍希釈での散布を実施。これは無人のラジコンヘリの農薬散布と同じ倍率である。


頭上に舞い上がったドローンは、地上約2mを飛行。その先にはナビゲーターの星野祐輝さんがスタンバイしている。株式会社オプティムで画像解析を担当する星野さんは、あらかじめ圃場の画像をドローンで撮影し、AI技術で解析。食害の激しいポイントを絞り込み、圃場に目印をつけてある。大塚さんはドローンがその位置に来たことを目視で確認。コントローラーのレバーを動かした。

「散布します」

淡々としたコントローラーの声と同時に、ドローンに装備された4つのノズルから一斉に薬剤が散布された。農薬散布のポイントは全部で40カ所。圃場は2カ所に別れているので、フライトを2回に分けて実施したが、ドローンによる農薬散布は15分で完了した。

「ドローンは、全面散布はもちろん、ピンポイントの農薬散布や、狭い畑での散布にも適しています。ラジコンヘリは騒音が大きく、住宅地周辺では苦情も多いのですが、その点ドローンはとても静かです」

これまで、水稲、大豆、小麦などの農薬散布は、無人のラジコンヘリによる農薬の全面散布が主流だったが、ラジコンヘリは機体が大きく移動も大変だ。それに対して病害虫が検知された箇所にピンポイントで農薬散布できるドローンは、アームを一部折りたためば軽トラックでの搬送が可能。農薬コストの削減や作業の省力化など、農業分野における新たな可能性が期待されている。

生産者とパイロットをつなぐ「DRONE CONNECT」

農業×IT技術の可能性を追求するオプティムは、8月1日よりドローンと農家、農業生産法人をつなぐ「DRONE CONNECT」をスタートさせた。

生産現場の要望に応え、操作技術に長けたプロのドローンパイロットをマッチング。9月15日現在、大塚さんのような飛行経験豊富な登録パイロットが、全国に約100名スタンバイしており、主に以下の3つの業務に対応している。

1.圃場生育モニタリング

ドローンに搭載したマルチスペクトルカメラを活用し、圃場や農産物の画像を撮影。撮影した画像を元に、植物の生育状況(植生分析)を把握することができるほか、施肥判断にも活用できる。

2.農薬散布

病害虫の発生時期に応じて、ドローンから空中農薬散布を実施。農薬散布作業の労力を軽減できる。生産者が散布したい時期にいつでも散布作業をオーダーできる。

3.ピンポイント農薬散布(病害虫検知)

ドローンで撮影した農作物の画像をAI技術で分析し、病害虫を検知。その結果を元にピンポイントで農薬散布を行う。(1)のモニタリングと(2)の農薬散布。この2つの技術を組み合わせ、(3)のピンポイント農薬散布を実現させている。

普及指導員からドローンパイロットへ


ドローンパイロットの大塚さんは、茨城県の普及指導員として農業分野で活躍。ビデオ撮影が趣味で、5年前に撮影用のドローンを導入。そして2年前、県職員を中心に「ドローン研究会」を立ち上げて、仲間と情報交換するなど、熱心に研究を進めていた。

「操作技術を高めるには、仲間との交流や情報交換が欠かせません」

日本でドローンによる農薬散布が可能になったのは2年前。当時は薬剤を5ℓ搭載できるタイプが主流だった。大塚さんは、より高性能で、より大容量の農業用ドローンが次々と開発される中で比較検討を重ね、北海道で農業用ドローンのエキスパートとして活躍する請川博一さんの講演を聞いて、現在の機種を導入した。

そうして一般社団法人農林水産航空協会が認可する「産業用マルチローターオペーレーター」の免許を取得。農業用ドローンのパイロットとして活躍するようになる。

大塚さんは、茨城県各地で農業分野におけるドローンの活躍ぶりを見出してきた。

たとえば夏の除草作業。猛暑の中、水田での除草作業は重労働で、体力の消耗も激しいため、「草には勝てぬ」と栽培を断念するお年寄りが多い。それでも自らドローンを操って除草剤を散布し、栽培を続行している高齢の生産者がいる。ラジコンヘリに比べ、ドローンは価格も手頃で操作も容易で、女性や高齢者にも操作可能なことが導入の動機となり、結果的に栽培意欲を持続させているのだ。

茨城県北部のりんごの産地では、りんご園の様子を頭上からドローンで撮影。すると枝が込み入っていて、日光が果実に届いていない様子が一目瞭然にわかる。常陸太田地域農業改良普及センターの依頼で撮影した上空からの映像を生産者に見せ、 なかなか進まない縮間伐の必要性を訴えたところ、即座に納得してもらうことができた。

同じ茨城県内でも、大面積の田んぼや畑で農薬散布を行う県南ではラジヘリが主流だ。山が多い県北は農地が狭く、ラジヘリで農薬散布するには高度な技術を要するため、大塚さんは当初、ドローンが活躍するのは県北が中心だろう考えていた。ところが、「南の広い農地にもドローンが導入されていて、効率もいいという事例も出ている」とのこと。ドローンによる農薬散布は、短期間に県内全域に広がっている。

自動飛行での散布も可能だが課題も


今回は、パイロットの大塚さんとオペレーターの星野さんが2人でポイントを目視で確認しあって散布を行った。ところがドローンは、実際はあらかじめ散布ポイントを集積したデータがあれば、自動飛行でピンポイント散布を行えるという。

オプティムの星野さんは、「ドローンには元々自動飛行の能力があるんです。日本ではその許可が降りていないためまだできないのですが、法整備等が整えばいずれ可能になる見通しです。AI解析データによる自動飛行が可能になれば、農業用ドローンは爆発的に広がるでしょう」と話す。

生産者が「DRONE CONNECT」を利用する場合、公式ウェブサイトから依頼をする。その後、最も近く、適したパイロットが現地に派遣される。農薬散布に必要な都道府県や防疫センターへの申請手続きも「全国包括許可申請」の資格を有するパイロットが行う。

農薬の散布にはまだまだ様々な課題がある。
  • タンクを背負っての農薬散布はきつい
  • 大型の散布機械を導入するわけにもいかない
  • ドローン撮影で圃場の病害虫による被害や肥効を把握したい
  • 今までラジヘリで全面散布していたが、ピンポイントで散布したい

「DRONE CONNECT」はそんな現場の要望に応えてくれる。気になる料金は、全面散布の場合、通常期は10aあたり1,000〜1,500円、8〜9月の繁忙期は1,800〜2,500円が目安。圃場の撮影やAIデータに基づくピンポイント散布は別料金を設定している。

今回、ピンポイント散布に立ち会った井関農機株式会社 夢ある農業ソリューション推進部主任の庄山寿さんは、ドローンを「非常に有用な農具」と捉えた上で、「これまでの農薬散布では、乗用管理機や無人ヘリが入れる場所は限られていました。その隙間を、農家の方が重いタンクを背負って撒いたりしていたのですが、高齢化でできなくなり後に続く人もいない。そこでドローンが活躍するとみています。それぞれの“農具”に得手不得手があるので、それを見極めて使っていただきたい」と話している。

日本の農業の新たな「農具」として「ドローン」が加わった。「DRONE CONNECT」は、生産者とドローンを駆使した新しい農業との“出会いの場”として、広がっていくだろう。

※9月中旬現在は、DRONE CONNECTβ版での運用となります。

<参考URL>
DRONE CONNECT
AGRAS MG-1
ドローンパイロットシェアリングサービス
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WRITER LIST

  1. 三好かやの
    みよしかやの。しがないかーちゃんライター。「農耕と園芸」「全国農業新聞」等に記事を執筆。八王子市ユギムラ牧場でかぼちゃの「いいたて雪っ娘」栽培中。共著『私、農家になりました。』(誠文堂新光社)、『東北のすごい生産者に会いに行く』(柴田書店)等がある。http://r.goope.jp/mkayanooo
  2. 山口亮子
    やまぐちりょうこ。フリージャーナリスト。京都大学卒、北京大学修士課程修了。時事通信社を経てフリーに。主に農業と地域活性化、中国を取材。
  3. r-lib(アールリブ)
    これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている、をコンセプトにインタビュー記事やコラムなどを発信するメディア。r-lib編集長は奈良の大峯山で修行するために、毎年夏に1週間は精進潔斎で野菜しか食べない生活をしている。
  4. 水尾学
    みずおまなぶ。滋賀県高島市出身。大学卒業後、電子機器関連業務に従事。2016年に自家の柿農園を継ぐと同時に、IoT農業の実現を目指す会社、株式会社パーシテックを設立(京都市)。実家の柿農場を実験場に、ITを駆使した新しい農業にチャレンジしています。
  5. 窪田新之助
    くぼたしんのすけ。農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。 2015年11月に発表される「農業センサス」で明らかになる衝撃の事実! 日本の農地は急速な勢いで大規模化され、生産効率も急上昇……輸出産業となる!! 日本経済団体連合会(経団連)も2015年1月1日、発表した政策提言『「豊かで活力ある日本」の再生』で、農業と食のGDPを合わせて20兆円増やせるとした。これは12兆円の輸送用機械(自動車製造業)よりも大きく、インターネット産業や金融・保険業に肩を並べる規模──日本のGDPは500兆円なので、農業が全体の4%を占める計算になる。「コメ農家は儲けてない振りをしているだけですよ」「本気でやっている専業農家はきちんと儲かっている」など、日本中の農業の現場を取材した渾身のレポートは、我々に勇気を与える。日本の農業は基幹産業だ!日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活自民党農林水産部会長の小泉進次郎氏は語る。「夜間に人工知能が搭載された収穫ロボットが働いて、朝になると収穫された農作物が積み上がっている未来がある」と──。21世紀の農業はAIやビッグデータやIoT、そしてロボットを活用したハイテク産業、すなわち日本の得意分野だ。その途轍もないパワーは、地方都市を変貌させて国土全体を豊かにし、自動車産業以上のGDPを稼ぎ出し、日本人の美味しい生活を進化させる。大好評『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』に続く第2弾!

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