農業用ドローンのお金、練習の実態は? 無料体験会を主催するFLIGHTSに聞いてみた

農業用ドローンが普及期に入っている。農林水産省は平成31年(2019年)3月、農業用ドローンの普及拡大に向けた取り組みを強力に推進するために、農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会を設置した。

農業の現場への社会実装も急速に進んでいる。農業用ドローンの機体登録数は平成29年(2017年)3月から平成30年(2018年)12月末までの間で6倍強に急増。同期間のオペレーター認定者数も約5.5倍に増加している。

散布面積も拡大の一途を辿っており、農薬散布ドローンが本格的に普及を始めた平成28年(2016年)度は684ha、平成29年度は9690ha、そして平成30年度の速報値では約2万7000haへと増加。農水省ではさらに、令和4年(2022年)までに100万haへ拡大することを目標としている。

FLIGHTSのドローン(写真提供:FLIGHTS)

一方で、生産者が今から水稲栽培への農薬散布ドローンを導入しようと考えたとき、一体何から始めればいいのだろうか?

主だったドローンメーカーは講習会を開催しているが、その多くは購入者または購入を前提とした人を対象にしたものである。また、農薬散布ドローンをうまく活用するには、ドローンを飛ばす技術だけでなく、いつ、どのように散布するのか……つまり散布技術も求められる。それを満たした知識は、一般的なドローンスクールではなかなか得ることができない。

そんな背景のなか、私が注目したのが、ドローンベンチャーの株式会社FLIGHTSによる「農業用ドローン体験会」である。対象を農家と農薬散布代行の請負検討者(以下、散布請負検討者)に限定して、座学とデモフライト見学を、なんと無料で実施している。しかも、同社のドローン購入が前提でなくても参加できるのだ。

そこで同社にお邪魔して、どんな体験会なのか、その内容を中心にお話をうかがってきた。

お話を伺った株式会社FLIGHTS 農業ドローン事業部の加塩博士さん(写真:SMART AGRI編集部)


農業用ドローンの導入から飛行までがリアルにわかる体験会

FLIGHTSの無料体験会の概要を記しておこう。

講習会自体を運営しているのは、農薬散布ドローン「FLIGHTS-AG」を販売している各地の代理店が中心だ。参加費は無料。対象は、農薬散布ドローン導入に関心のある農家またはドローンによる農薬散布代行の請負を検討している方、とされている。

プログラムは、農業用ドローンの基礎知識を学ぶ座学、デモフライト、「FLIGHTS-AG」を題材にした機体の説明、そして最後に質疑応答、という2時間のスケジュール。散布請負検討者には別途、請負防除についての座学が1時間プラスされる。

FLIGHTSでは、どのような狙いを持ってこの体験会を開催しているのだろうか?  FLIGHTS農業ドローン事業部の加塩博士さんが教えてくれた。

「FLIGHTS-AG体験会は、農家の方と散布請負検討者様を対象としています。JAの方など農業関係の皆さまに農薬散布ドローンを正しく知っていただくのが体験会の主旨です。

もちろん当社はドローンメーカーですから、当社のドローンを購入いただきたいと思っています。でも、もしユーザー様が農薬散布ドローンを正しく理解しないまま購入されてしまい、『農薬散布ドローンは使えない!』と思われるようなことがあったら、ユーザーさまもメーカー側、農薬散布ドローン業界にとってもアンハッピーです。ですので、前向きに農薬散布ドローンを使いたいという方、時間と労力をかけて農薬散布ドローンの具体的な内容を伝えています」

体験会参加者は、農業用ドローンの実情を知った上で、運用できるのかどうか、導入すべきかどうかを考えるための情報が得られるというわけだ。

体験会の様子。年齢や職種もさまざま(写真提供:FLIGHTS)


農業用ドローンのデメリットもしっかり伝える

そのために、体験会のプログラムには特に工夫を凝らしている。最も顕著なのは「座学」で、農薬散布ドローンのメリットだけでなく、デメリットも伝えているという。

「農薬散布ドローンのメリットとしては、以下の4つが挙げられます。

  1. 軽い:機体は約10kg。それに農薬分が加わった重さである。
  2. 早い:1haの散布時間は約10分程度である。
  3. 安全:薬剤の吸い込みリスクが極めて低い。
  4. 均質:散布漏れ、重複散布が減少する。

ただし、3番目と4番目は、実は『正しく使えば』というのがポイントです。こういったリアルな部分をきちんと説明しています。

一方で、農薬散布ドローンのデメリットとしては、
  1. 農薬散布ドローンは精密機械:雨ざらし野ざらしでは壊れてしまうし、性能をフルに発揮させるにはバッテリーの温度管理が必須である。
  2. 知識や技術が必須:単にトイドローンを飛ばすのと、業務として農薬散布ドローンを飛ばすのとでは、求められるレベルが異なる。
  3. 動噴と比較すると高価:トータルで約150万〜300万円かかる。
という3つを紹介しています。

特に、1番目は具体的に機体やバッテリーをどのように保管すべきか、2番目はどのような知識や技術が必要なのかを、それぞれ具体的に説明しています」

とてもわかりやすい。購入検討段階でここまでリアルに農薬散布ドローンを知ることができれば、体験会を受講した後に買う、買わない問わず、農業機械の一つとしてのドローンを十分理解できそうだ。

FLIGHTS-AGを使ったデモの様子(写真提供:FLIGHTS)


「FLIGHTS-AG」が本体価格100万円を切れた理由

座学の次には、実機を飛ばす様子を見学するデモを実施。同社の「FLIGHTS-AG」を使って説明している。

「『FLIGHTS-AG』をひと言で表現すると、農家さんが求める性能をリーズナブルに提供できる農薬散布ドローン、となります。

「FLIGHTS-AG」(写真提供:FLIGHTS)

開発コストを削減し、農薬散布に必要な機能のみを厳選して搭載することで、100万円を切る機体価格を実現しました。

必要な機能というのは、1haの面積を1つのバッテリーで10分間の飛行で散布できる、という標準的な散布性能を持たせつつ、最低限の技術があれば飛ばせる操作性の高さ(特にホバリング安定性の高さ)、それに、危険回避機能・自動帰還モードといった安全性を有している、ということです。

機体は液剤散布対応モデルが82万円、液剤+粒剤散布対応モデルは91万8000円です。実際に圃場で使うとなると、圃場の広さに応じて予備のバッテリーがあった方が便利ですし、ほとんどの方が必要なものとして購入しています。

たとえば、圃場の広さが10haだった場合、バッテリーの交換・充電をどうすると効率的か、具体的な内容を説明します。すると、体験会参加の農家さんは『自分の圃場の広さを考えると、予備バッテリーいくつ、チャージャーいくつあれば、3日間で散布が可能だ』と、自分が必要な機材、それにかかる費用、労働時間などが具体的に想像できます。

自分が実際に散布する場面を明確にシミュレーションして、どう散布すると効率的か、必要な機材と費用を含めて事前に把握できるのも、当社の体験会の特徴です」

と語ってくれた。

導入を検討している農家向けにはここまでだが、散布請負検討者に対してこのあと1時間の説明がある。こちらでは、散布請負を開始するにあたっての説明が行われる。

地域により防除相場(単価)が異なることまで加味した内容のため、現実に近いシミュレーションが可能となる。機体、オプション機材、サポートパック等を含めた初期費用を、年間の防除回数×防除相場×回収年数で割ることで、請負面積が判明する。それをこなして初めて事業として成立するのだが、多くの受講者は購入時にそこまで想定できていないことが多いそうだ。


運用にあたっては講習受講は必須!

「FLIGHTS-AG」が、農家が求める性能をリーズナブルに提供できる農薬散布ドローンであることはわかった。そしてFLIGHTSの体験会を経験すれば、事前に相当に高い精度の費用感やメリット・デメリットを知っておくことができそうだ。

では、この体験会を経て購入すれば、すぐにでも「FLIGHTS-AG」を使うことができるのだろうか?

「残念ながら、体験会だけでは農薬散布ドローンを正しく活用できません。当社ではご購入いただいたお客様には必ず、講習を受講していただいています。

この講習は、農薬散布ドローンを実際に圃場で使用するのに必要な法律等を含めた知識と、それに必要な技術を身に付けていただくためのものです。農薬散布ドローンの操縦に『免許』は不要ですが、各種申請等は必須となりますし、安全にかつ正しくご利用いただくために、講習の受講を必須としています。この講習が有償であること、受講を必須としている理由も、体験会でしっかり説明しています」

講習会の様子。FLIGHTS-AGに特化して、特徴や注意点、運用方法まで伝える(写真提供:FLIGHTS)

農薬散布用のラジコンヘリコプターなどと比べて、操作技術も易しく安全性も高いドローン。しかし、加塩さんは「どのメーカーの農業用ドローンを使うにしても、必ずそのメーカーが実施している講習を受講すべきです」と強調する。

「講習と体験会は全く別物です。

当社の場合、初めてドローンを操縦する方が受講する『一般コース』は3日間で、座学と実技を行います。

1日目の座学では、運用管理・機体に関する知識と農薬散布業務、農薬の知識と作物保護の知識について学んでいただきます。そして残りの2日間が実技。実際にドローンを操縦して散布する訓練を行います。

最後に、学科と実技の試験を行い合格すると、国土交通省認定資格『農薬散布ドローンオペレーター』が取得できます」

FLITHTSの講習の場合、一般コースが24万円~となっている。決して安くはないが、講習内容と3日間という期間を考えれば納得できるだろう。この講習受講が必須であることも体験会で説明してくれ、全体の金額感が把握できるのも良心的だ。


故障時や点検サポート分の予算も考慮すべし

さらに、「FLIGHT-AG」が誇る独自サービスが、サポートパックである。

FLIGHTS-AG購入者には、5営業日以内に代替機を手配してもらえるサポートが付く。これは、トラブルが発生しても遅延を最小限に留めるためのものである。

サポートパックは3種類ある。機体修理費用がカバーされ、全損時には機体を新品と交換してもらえる「事故サポートパック」が9万8000円、事故サポートパックにプラスして1回/年の点検が付いた「スタンダードパック」が18万円、スタンダードパックにプラスして代替機手配にかかる日数が2営業日になる「充実パック」が28万円となっている。

これだけ聞いて「高い……」と感じる方は、ドローンがトラクターなどの農機や自動車のように、ある程度メンテナンスが必要なものであることを理解していただきたい。実際、ここまでの保証をこの価格で付帯できることは、ドローンメーカーのサポートとしては驚きなのだ。

「当社では、購入いただいた方に必須としている講習の内容を充実させることで、事故率の低さを実現しています。そのような取り組みがあるので、サポートパックをこの価格で実現できました」

FLIGHTSの体験会では、農薬散布ドローンで何ができるのか、導入にあたって何が必要なのか、費用はどれくらいかが、相当に高い精度でシミュレーションできることがわかった。

また、加塩さんによると「最近は農薬散布ドローン機体を個人では購入せず、営農組合等のグループにて共同購入するケースが増えてきている」のだとか。そういった実情も聞くことができるはずだ。

自分に農業用ドローンが扱えるか、知りたい人のために


これだけ充実した農業用ドローン向けの体験会が無料で受けられる機会はなかなかない。体験会は時期にもよるが、全国各地で開催されているので、農薬散布ドローンの導入を検討している方はもちろん、興味を持っているけれど……と二の足を踏んでいるような方は、参加してみてはいかがだろうか。

なお、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、現在は内容を一部変更し、オンラインでの体験会を開催しているとのこと。興味がある方は、「体験会」のページから申し込んでみてほしい。


体験会|FLIGHTS-AG(フライトAG)|高性能・低価格の農薬散布ドローン
https://flights-ag.com/event/
FLIGHTS-AG(フライトAG)|高性能・低価格の農薬散布ドローン
https://flights-ag.com/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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