農家が求める水田センサーを農家自ら企画──株式会社ヤマザキライス(前編)

株式会社ヤマザキライスは、埼玉県葛飾郡杉戸町で90ヘクタールの水田でコメを生産している。農地が1カ所にまとまらずあちこちに散らばっている分散錯圃で、4km四方に350枚もの田んぼがある。

代表取締役の山﨑能央さんは、水田の見回りに時間を取られるのを何とかしたいと考えた。しかし、市販品の水田センサーは高価でとても手が出ない。機能がシンプルで安価な水田センサーが必要だと、企画書を手に自らメーカーを回り、商品化にこぎつけた。

ヤマザキライスの田んぼ 写真:ヤマザキライス

コメ1kg当たり原価99円のシンプル経営

ヤマザキライスは従業員4人。徹底して無駄を削るシンプルな経営をしていて、田植え機とコンバインを1台ずつと、トラクター4台で、すべての田んぼを管理する。コメの保管は、基本的に精米工場にアウトソーシングする。

コスト削減の徹底で、営業費や役員報酬などの一般管理費を引いた1kg当たりの原価はわずか99円。2017年産の組織法人経営のコメの全算入生産費1万1851円(60kg当たり)が1kg当たり約198円なのに比べると、5940円となりおよそ半額だ。一般管理費を足しても1kg当たりの原価は120円程度に収まり、60kg当たり7200円になる。

さらなるコストカットを目指しており、注目したのが水田の見回りに取られる時間だった。同社では、田んぼの水管理に細心の注意を払っていて、こまめな見回りを欠かさない。特に夏場は高温障害の出やすい地域のため、気温が高いのに水が張られていないと、収量と等級に影響が出てしまう。

「2年ほど前に、メーカーの出している水田センサーを調べてみたら値段ががあまりに高かったので、自分で企画書を書いて、持ち歩いて相談することにしました。その結果、今回スタートアップ企業の株式会社AmaterZ(アマテルズ)と一緒に開発した水田用センサーは、業界最小のサイズで値段は最安になるはずです」

スマホサイズで、Wi-Fiがあれば通信費ゼロ

山﨑さんとAmaterZが開発した水田センサーシステムは、今春から「inamo」(イナモ)という名前で市販予定だ。「tukumo」(ツクモ)という直径3.5cm、厚み約1.6cmの小型センサーを採用し、大きさはスマートフォン程度。パイプを取り付け、地表から1.3mくらいの高さになるように田んぼに設置する。

センサーを持つ山﨑能央さん

「本当はもっと小さくしてもよかったけれど、これ以上小さくなると、田んぼの中で認識できなくなるのでこのサイズにしました」

ソーラー発電で動くため、電源や電池は不要。10年ほどの耐久性がある。Wi-Fiの電波は1.5km離れたところまで飛ばすことができるので、家庭用Wi-Fiで田んぼから電波を中継していけば、遠くの田んぼであってもデータを得られる。

ヤマザキライスの場合、4km四方に田んぼが点在しているが、センサーに電波を中継させればすべて網羅できる。山﨑さんの自宅のWi-Fiが使えるので、新たに発生する通信費はない。まずは遠くにあったり、水が溜まりにくかったりする場所を中心に、7割程度の田んぼにセンサーを設置する考えだ。

農家として、水田センサーの価格は1本2万円程度が上限だと感じており、販売価格は極力抑えたいという(2月1日時点。価格は現時点で未定)。

信号色で水位を確認し、必要な田んぼだけ回る

「tukumo」は水位、気温、照度、湿度のデータを計測する。AndroidとiOSに対応した専用アプリが準備されており、計測したデータはタブレットやスマートフォン、パソコンからいつでも確認可能。直感的に使いやすいよう、水位は赤、黄、青の信号カラーで示され、Googleマップ上でどこの田んぼの水位調整が必要かが一目でわかるようになっている。漏水の可能性がある場合には、警告を発して知らせる機能もある。

「今まで全部の田んぼを回って目視で確認していたのを、赤と黄色で表示されている田んぼだけ回るとか、夕立が来る日なら黄色はもう回らずに、赤の田んぼだけ回ろうというように効率化できます」

開発した水田センサー 写真:ヤマザキライス

今後は自動水門などと連携も

信号の送発信もできるので、いずれ自動で開閉する水門に「inamo」から開閉の指示を出せるようにしたいと、構想を膨らませている。

「これからの農業は、事務所にいくつもの液晶画面があって、田んぼの状況がどうなっているか見られるようになると考えています。部屋の中に画面をいくつも並べているデイトレーダーの仕事場のようなイメージですね」

山﨑さんはそんな未来がすぐ近くまで来ていると予測している。

<参考URL>
株式会社ヤマザキライス
Amaterz | inamo

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。