キュウリ農家によるAI自動選別機の最新版【窪田新之助のスマート農業コラム】

静岡県湖西市でキュウリを作っている小池誠さんを3年ぶりに訪ねた。彼の名前が広く知られるようになったのは、専門家の手を借りずにキュウリの選別機を造ってしまったから。

実物はいくつものメディアで紹介された。今回の訪問ではその機械の今の姿を確かめたかった。

以前の取材記事はこちら
農家がグーグルのAIエンジン「Tensor Flow」でキュウリの自動選果を実現


「TensorFlow」によるキュウリ選別機のしくみ


キュウリの選別では長さと太さ、色つやや質感、病気の有無といった組み合わせで等級に分けていく。個選している小池さんは9つの等級を設けている。

キュウリを見た瞬間にいずれの等級かを判断するためには熟練が必要で、小池家ではこの道30年の母親が引き受けてきた。農繁期にもなれば、選別に毎日8時間はかかる。

そこで小池さんは、選別を自動化する機械を造り始めた。

まずは機械学習ライブラリー「TensorFlow(テンサーフロー)」を使ってキュウリの画像を1万枚ほど撮影し、その画像をAIに覚え込ませた。そのデータを基に造ったのがベルトコンベヤー式の選別機。片側にある台にキュウリを1本ずつ載せていくと、機械に搭載したカメラがその度に等級を決める。

キュウリはベルトコンベヤーで移動する途中で等級ごとに分けた区域でアームによって落下させられる。落ちた先にある段ボールに自動的に収納されるといった仕組みだ。

以上が2号機で、3年前の状況。それが、今回訪れてまったく様変わりしていることに驚いた。納屋に自動選別機の姿は跡形もなかったのだ。代わって小型の屋台のような格好をした箱型の装置があった。これが最新版の3号機だという。


完全自動選別から選別補助への転換


大人の腰の位置にパソコン画面のディスプレイにアクリル板を重ねたものが台として設置されている。ここにキュウリを置くと、真上にあるカメラがその形状を認識。ディスプレイには瞬時に等級と長さが表示される。人はその表示を見て、等級ごとに箱に詰めていく。

なぜ選別の自動化を止めたのか。2号機の場合、ベルトコンベヤーを移送する際やアームではじいた際、キュウリの表面にあるイボが取れてしまうからだという。イボが多く残っているほど新鮮な証しなので、少ないことは市場での評価を落とすことになる。

そこで選別の自動化はあきらめ、代わって人がベテランと同じ精度で選別できる装置を目指した。覚え込ませた画像は3万6000枚。精度は8割を超える。初心者はこの装置を使いながら等級分けする目を養う。ベテランはいずれの等級に入れるべきなのか迷うキュウリが出た場合にだけこの装置で等級を確かめる。


小池さんの次なる目標は装置の小型化だ。「肩に載せられるくらいの大きさにしたい」とのこと。

機能はカメラだけにして、選別しているときに必要に応じて、音声で等級を教えてくれるようなものにしたいという。数年で開発するそうなので、再訪し、この目で確かめられる日を楽しみにしている。

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
パックごはん定期便