スマート農業におけるロボット技術が、日本の農業の生産性を上げる

日本のお家芸とも言われるロボット技術。これは農業にも着実に展開が進んでいる。また、国も2020年までに遠隔監視できる無人システムの実現を政策目標として掲げている。

本稿では、2018年春時点の事例を踏まえつつ、今後ロボット技術が農業に与える影響について考察してみたい。


北海道大学とヤンマーで共同研究が進む「スマートトラクター」

就業人口の65%以上が65歳以上、日本の農業は高齢化と担い手不足が深刻化している。人材不足が叫ばれる中、その解決の手段として期待されているのがロボットなどを活用した自動化技術だ。農林水産省では、2018年中に農場内を自動走行できるシステムの市販化を目標としており、その動向が注目されている。

そんな中、北海道大学の野口教授の研究室では、大手農業機械メーカー・ヤンマーと共同で、スマート農業の実現を期待されているロボットの研究が進められている。その一つが、トラクターが無人で、しかも複数台が協調して畑を耕す「協調型ロボットトラクター」である。このロボットは、あらかじめ指定された作業内容や場所などの情報に従って自動で作業を行う。タブレットにインストールされたアプリケーションのスタートボタンを押すと、トラクターが作業を開始。トラクターはGPSの受信機を備えており、衛星と通信しながら5cm以内の精度で作業を実施する。

もちろん、自動ではなくオペレーターが乗り込んで操作することも可能だ。現在のところ、周囲のトラクターにぶつからないように旋回するのが難しく、時間のロスが発生してしまうとのこと。これを解決する場合は、オペレーターの存在がまだ必要となる。

ヤマハ発動機は無人ボートで除草剤散布を支援


水上を軽やかに滑走するボート。この技術を水稲栽培における農薬散布で役立てようとしているのがヤマハ発動機である。ヤマハ発動機は、2017年4月に田植や直播(じかまき)の前後に遠隔操作で除草剤散布作業ができる無人ボート「WATER STRIDER(ウォーターストライダー)」を販売開始した。ヤマハ発動機が長年培ってきたボート技術を転用して、旋回性なども優れたものになっている。操縦は遠隔で行うことになるが、ラジコン感覚で手軽に操作できる。また、農薬を入れたカセットタンクも手軽に交換可能だ。

さらにユーザーにとって大きいのは、ヤマハ発動機のアフターサービスだ。全国にあるヤマハ発動機の無人ヘリ取扱店が、WATER STRIDERのサポートも行う。販売だけでなく、アフターフォローもぬかりがない。

オープンソースのAIエンジンで実現するきゅうりの自動選果

農作業で多くの工数を要している選果作業。しかし、この選果も将来機械による自動化が当たり前になるかもしれない。

そんな可能性を示しているのが、静岡県できゅうりの生産をしている小池誠氏だ。小池氏は、グーグルが提供しているオープンソースのAIエンジン「TensorFlow」を用いて、ディープラーニングによるきゅうり自動選果を実現しようとしている。近年、飛躍的に向上している画像解析の技術を農作業の改善につなげようとしているというのだ。

これまで、繁忙期になると8時間ほどかかっていたというきゅうりの選果を、少しでも改善できないかということで、AIの画像認識技術を活用することを考案したのだそうだ。しかも、小池氏は元ITエンジニア。プログラミングのスキルも有していることから、ご自身で作ることを決めた。

きゅうりの選果には独自のルールがあり、まずはその仕分けルールをAIに学習させる必要がある。この学習データには、あらかじめ撮影した8,000本のきゅうりの画像を読み込ませて、どのランクに該当するか学習させた。その後、実際のきゅうりの仕分けで活用できるか検証している。ちなみに、判定は70%ほどの精度で、現在も試行錯誤が続いているという。

このようなAI×機械は、農作業の生産性を今後劇的に上げるかもしれない。

ロボット技術は、農業の生産性向上に欠かせない存在になる

ロボット技術の活用については、日本政府も本腰を入れて進めようとしている。政策目標として、2018年度中に圃場内での農機の自動走行システムを市販化して、2020年までに遠隔監視での無人システムを実現するとしている。背景には、農業の担い手の高齢化・減少、人手不足などが深刻化しており、省人化による生産性の飛躍的な向上が急務という事情がある。その上で、ロボット技術を運用するためのルールづくりも進められている。

現状では、ロボットの農業利用の本格化はまだまだこれからだろう。しかし、実用化に向けて着実に歩みを進めている。ロボットがなくては農業は成り立たない。そんな時代も、もう遠い未来のことではない。

<参考URL>
ロボットトラクター|テクノロジー|ヤンマー
https://www.yanmar.com/jp/technology/robotics.html
基本性能・使い勝手を向上 無人ボート「WATER STRIDER」2018年モデルを展示|ヤマハ発動機
https://global.yamaha-motor.com/jp/news/2017/1010/water-strider.html
農林水産業におけるロボット技術安全性確保策検討事業
http://www.maff.go.jp/j/supply/hozyo/seisan/attach/pdf/180129_1-5.pdf

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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
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    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。