【穀粒判別器とは何か・後編】検査の公平性、経費削減、バリューチェーンへの効果
前編で記したように、穀粒判別器は2020年産から農産物検査での一部項目の鑑定についても活用が認可される。
一部項目については米粒の画像に基づいた診断が下され、これまで人が目視で行ってきた代役を果たす。
そのことが直接的、あるいは間接的にもたらすこととは何か。
まずは農産物検査について多少の知識を入れておきたい。
1951年に制定された農産物検査法に基づく農産物検査の目的は、全国統一的な規格に基づいて格付けすることで、買い手が現物を確認せずとも、大量かつ広域な農産物の流通を可能にすることにある。
全国に検査機関は1734カ所あり、検査員数は1万9082人に及ぶ。いずれも過半数はJAとその職員。検査員が目視でもって鑑定する項目は「形質」「水分」「死米」「着色粒」「被害粒」「異種穀粒および異物」など。これらの混入割合の多寡によって1~3等に格付けする。いずれの等級になるかで農家の手取りは変化する。
検査を受けた米であるかどうかはスーパーで売られている商品の表示を見れば一目瞭然だ。「検査米」であれば「産地」「品種」「産年」が記載されている。一方で「未検査米」は一連の項目について表示することはできない。
さて、以上を理解してもらったところで本題に入っていきたい。穀粒判別器によって米粒の画像を診断したデータを活用することで何が変わるのか、である。
まずは鑑定が公平になる。現在は農産物規格による偏りのない鑑定がなされているとはいえない状況にある。
同じ米粒を見て、ある検査員は「被害粒あり」と判断しても、別の検査員は「被害粒なし」と判断することは十分にありうる。その訳は、全国統一的な「目ぞろえ」を実施していないためだ。人が目視で鑑定する以上、本来は同じモノを見たときに誰もが同じ鑑定ができるよう、目線をそろえておかなければならない。
しかし、そこまで突き詰めても偏りはなくならない。
全国に2万人近くいる検査員の目は当然にそれぞれ異なるからだ。おまけに熟練度もまちまちである。特に有資格者の過半数を占めるJA職員については、「1年に1度しか検査しないうえに、部署移動も頻繁なので、熟練度は決して高くはない」(農産物検査に詳しい米穀関係者)。
2万人近い人が一つの米粒に対してそろって同じ鑑定を下すことなど、土台無理な話なのである。
穀粒判別器はこうした鑑定のぶれを解消できることをまずもって強調したい。
続いて注目したいのは検査費用の削減だ。穀粒判別器を導入すれば、鑑定に人が介在することが著しく減る。
では、検査費用はどの程度削れるのか。
これに関して農林水産省は答えのようなものを出している。それと共に注目したいは政府備蓄米の買い入れ価格だ。農林水産省は2020年産の政府備蓄米から穀粒判別器で画像診断した米穀についても買い入れを始めることにした。設定したその価格は従来の目視での検査より60kg当たり70円安くしている。
この価格こそが穀粒判別器を導入することでの検査費用の削減効果だとみることができる。
最後に伝えたいのはバリューチェーンへの貢献である。
たとえば米卸が穀粒判別器を導入したとする。全国から集荷する米穀をすべて毎年欠かさず画像診断にかければ、農業法人や産地ごとの成績がデータとなって蓄積されていく。
そのデータを基に、次の年はさらに精密な判別が可能となる。
多様な商品づくりにもつながる。たとえば混入していると炊飯した米がべちゃべちゃになることから嫌われる胴割れ米。この米が混入すると農産物検査では被害粒の扱いとなり、等級を落とす要因となる。
しかし、汁をかけて食べるような料理であれば問題なく使える。あるいは着色粒はサフランライスにすれば見分けが付かなくなるはずだから、たとえばインド料理店には難なく使ってもらえるかもしれない。
1952年に誕生した農産物検査法に基づく農産物規格は「大量かつ広域な農産物の流通」ことを目的としているだけあってざっくりしていて、その後の時代変化とともに生まれた多種多様な需要に応えるきめの細かさがない。
画像診断のデータはそうした問題を解決してくれる手段となりうる。穀粒判別器がにおわせるこうしたビジネスは、米の商品としての新たな可能性を切り開くとともに、業界再編の動きとも密接に関与していくだろう。
一部項目については米粒の画像に基づいた診断が下され、これまで人が目視で行ってきた代役を果たす。
そのことが直接的、あるいは間接的にもたらすこととは何か。
農産物検査の基準とは?
まずは農産物検査について多少の知識を入れておきたい。
1951年に制定された農産物検査法に基づく農産物検査の目的は、全国統一的な規格に基づいて格付けすることで、買い手が現物を確認せずとも、大量かつ広域な農産物の流通を可能にすることにある。
全国に検査機関は1734カ所あり、検査員数は1万9082人に及ぶ。いずれも過半数はJAとその職員。検査員が目視でもって鑑定する項目は「形質」「水分」「死米」「着色粒」「被害粒」「異種穀粒および異物」など。これらの混入割合の多寡によって1~3等に格付けする。いずれの等級になるかで農家の手取りは変化する。
検査を受けた米であるかどうかはスーパーで売られている商品の表示を見れば一目瞭然だ。「検査米」であれば「産地」「品種」「産年」が記載されている。一方で「未検査米」は一連の項目について表示することはできない。
個人間で生じた鑑定のぶれを解消
さて、以上を理解してもらったところで本題に入っていきたい。穀粒判別器によって米粒の画像を診断したデータを活用することで何が変わるのか、である。
まずは鑑定が公平になる。現在は農産物規格による偏りのない鑑定がなされているとはいえない状況にある。
同じ米粒を見て、ある検査員は「被害粒あり」と判断しても、別の検査員は「被害粒なし」と判断することは十分にありうる。その訳は、全国統一的な「目ぞろえ」を実施していないためだ。人が目視で鑑定する以上、本来は同じモノを見たときに誰もが同じ鑑定ができるよう、目線をそろえておかなければならない。
しかし、そこまで突き詰めても偏りはなくならない。
全国に2万人近くいる検査員の目は当然にそれぞれ異なるからだ。おまけに熟練度もまちまちである。特に有資格者の過半数を占めるJA職員については、「1年に1度しか検査しないうえに、部署移動も頻繁なので、熟練度は決して高くはない」(農産物検査に詳しい米穀関係者)。
2万人近い人が一つの米粒に対してそろって同じ鑑定を下すことなど、土台無理な話なのである。
穀粒判別器はこうした鑑定のぶれを解消できることをまずもって強調したい。
経費削減は60kg当たり70円
続いて注目したいのは検査費用の削減だ。穀粒判別器を導入すれば、鑑定に人が介在することが著しく減る。
では、検査費用はどの程度削れるのか。
これに関して農林水産省は答えのようなものを出している。それと共に注目したいは政府備蓄米の買い入れ価格だ。農林水産省は2020年産の政府備蓄米から穀粒判別器で画像診断した米穀についても買い入れを始めることにした。設定したその価格は従来の目視での検査より60kg当たり70円安くしている。
この価格こそが穀粒判別器を導入することでの検査費用の削減効果だとみることができる。
データできめ細やかな需要に対応
最後に伝えたいのはバリューチェーンへの貢献である。
たとえば米卸が穀粒判別器を導入したとする。全国から集荷する米穀をすべて毎年欠かさず画像診断にかければ、農業法人や産地ごとの成績がデータとなって蓄積されていく。
そのデータを基に、次の年はさらに精密な判別が可能となる。
多様な商品づくりにもつながる。たとえば混入していると炊飯した米がべちゃべちゃになることから嫌われる胴割れ米。この米が混入すると農産物検査では被害粒の扱いとなり、等級を落とす要因となる。
しかし、汁をかけて食べるような料理であれば問題なく使える。あるいは着色粒はサフランライスにすれば見分けが付かなくなるはずだから、たとえばインド料理店には難なく使ってもらえるかもしれない。
1952年に誕生した農産物検査法に基づく農産物規格は「大量かつ広域な農産物の流通」ことを目的としているだけあってざっくりしていて、その後の時代変化とともに生まれた多種多様な需要に応えるきめの細かさがない。
画像診断のデータはそうした問題を解決してくれる手段となりうる。穀粒判別器がにおわせるこうしたビジネスは、米の商品としての新たな可能性を切り開くとともに、業界再編の動きとも密接に関与していくだろう。
SHARE