日本のハウスに抜け落ちている「耐暑性」という考え

日本の園芸施設、いわゆるハウスは、ヒートポンプなどで内部の空気を冷やすことはしても、そもそも熱をなるべく入れないという発想が弱いように感じてきた。

その常識を覆すハウスが誕生した。埼玉県川越市の森田洋蘭園が新築した台湾製の耐暑性のハウスだ。

特徴は天窓の外側に遮光カーテンを二重に張れる、その構造。設計と建築に携わった中村商事の社長・中村淑浩さんに導入した経緯や可能性について聞いた。


外側に遮光カーテンを張った森田洋蘭園のハウス

遮光率は最大75%


森田洋蘭園は環境制御装置を取り入れた50aのハウスで、年間12万本の胡蝶蘭を作っている。このほど老朽化していた4棟を取り壊して、軒高が5mに及ぶ台湾製のハウス1棟にまとめた。

このハウスの最大の特徴は、屋根の外側に暑熱対策のために2枚の遮光カーテンを張っていることだ。

ハウスの屋根の谷底を基部に骨組みを造り、2枚のカーテンが屋根と並行してスライド式に開閉できる構造になっている。2枚のカーテンは密着しているのではなく、上下して等間隔に置かれている。

カーテンは遮光率に応じて複数の商品がある。森田洋蘭園が選んだのは1枚の遮光率が50%のタイプ。それぞれのカーテンは個別に開閉するので、閉めるのが1枚なら遮光率は50%、2枚なら75%となる。


夏場のエアコンの稼働開始を3~4週間遅く


ハウス内の温度を下げるのに、開閉できる遮光カーテンやヒートポンプといった資材はある。ただ、いずれもハウス内で一度温まった空気を冷ますので、十分に冷ますには電気代がかさむという問題が生じる。

特に胡蝶蘭の栽培は夏場を涼しくする必要があり、エアコンとしてのヒートポンプは不可欠だ。たとえば森田洋蘭園では、5月からヒートポンプを稼働させる。場合によっては4月から使い始めることもある。

エアコンとしての電気代は10a当たり年間360万円ほど。しかし、胡蝶蘭を栽培する経営体の中ではこれでも電気代は安い方だという。色や形で多種多様な胡蝶蘭を栽培する森田洋蘭園と異なり、多くの経営体はとりわけ低温を好む白色の大輪を主力としている。この場合、電気代は3割ほど高くなるそうだ。

森田洋蘭園では遮光カーテンを導入したところ、エアコンとしてのヒートポンプの稼働を開始する時期を3~4週間遅らせることができた。加えて秋に稼働を終了する時期も3~4週間早めることができるとみている。

ただし、これだけの効果を得られたのは、ハウスの軒高を高くしたことと、以前よりも出力の高いヒートポンプを導入したことも理由として大きい。

屋根の外側に張る仕組みのカーテンは、これまで巻き取るタイプが売られてきた。ただ、構造的に問題を抱えているという。2枚の遮光カーテンを張ると、巻き取るタイプでは開閉時に片方のカーテンがもう片方のカーテンを巻き込んでしまい、そのたびに屋根に上って直さなければならなかった。それが今回はスライド式になっており、その心配がない構造になっているという。


「温室」ではなく「快適な環境をつくる」という考え



遮光カーテンについて中村さんは、「夏秋トマトなど、利用できる品目はほかにもある」と力説する。

国内の標高の低い場所で夏秋トマトを栽培すると、高温のせいで劣果が生じるなど収量が上がらない。周年出荷を目的に夏秋トマトを導入する場合、本拠地とは別に北海道や高冷地などの冷涼な土地を開拓する必要がある。

その場合、本拠地との間を行き来しなければならず、肉体的にも経済的にも負担がかかる。それが遮光カーテンにすれば「1カ所で作れるようになる」と、中村さんは語る。

中村さんによると、日本より高温の環境に置かれる台湾の施設園芸の現場では、遮光カーテンは当たり前に使われているのだという。

一方、日本で広がらなかったのは「赤外線(熱)をハウス内に入れたくないと希望する農家が少なかったため、 熱を入れないという発想が広がらなかった」から。それに、「そもそも夏は暑いので栽培は不向きとあきらめていたと考えられます」とのこと。

日本ではハウスを「温室」と呼ぶように、内部を加温することを前提にしている。しかし、中村さんによると、施設園芸が盛んなオランダやその周辺国では「グリーンハウス」と呼ぶ。中村さんは「植物の快適な環境を作るという考え方から、このように呼んでいるようです」と説明したうえで、「決して温室という考え方ではないので、驚いた記憶があります」と語る。


夏秋トマトでも活躍が見込める


では、「植物の快適な環境を作る」遮光カーテンがすんなり日本にも導入できるかといえば、たやすくはない。というのも日本のメーカーが扱うハウスのほとんどは、屋根の谷底が遮光カーテンを張る骨組みを立てられる構造になっていないためだ。

その理由について中村さんは、「夏場に冷やす必要のある品目が多くはなく、需要がさほどなかったからではないか」とみている。そのため、スライド式の遮光カーテンを使うには、森田洋蘭園のように台湾製のハウスを輸入しなければならない。

ただし、その価格は日本の似たような構造のハウスと比べると、半分で済むという。もちろん日本に輸入する場合には、鉄骨の輸送費がかかり人件費も高くつくが、中村さん曰く「7割ほどで済んだ」とのこと。

それでも設備全体の費用が高価であることには違いない。野菜や花卉全般で導入できるのかは当然ながら農産物の販売価格との兼ね合いになる。

ただ、中村さんは「都市周辺の産地では暑熱対策のハウスを利用することで、品質の良い果実や野菜が生産できるほか、大消費地に短時間で納入できることは販売価格を押し上げてくれる。流通運賃などの経費を落としてくれるので経営的に見て最終的には施設導入経費をまかなってくれると思う」と語る。

一昔前より暑くなってきた日本。ハウスの環境は作物だけではなく、そこで働く人にも厳しくなっている。洋蘭園の雇用が安定しているのは夏場もエアコンが効いているという労働環境の良さがあるからだ。もちろん品質と収量を上げられることを前提にしながら、人の働きやすさという点でも、メーカーやの農家が遮光カーテンを使うハウスの開発や導入を検討する余地はあるように思った。


有限会社森田洋蘭園
https://www.morita-orchid.co.jp/



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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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