リンゴの収穫適期をAIで判定するスマートフォンアプリの可能性

秋田県立大学と秋田県産業技術センター、秋田県果樹試験場、株式会社オクトライズは、リンゴの収穫適期を判別するアプリケーションを共同で研究・開発している。

産地で高齢化による離農が相次いでいることから、新規就農者でも収穫適期を見極められるようにしたいという需要が高まっている。今回の成果はこれまで農家個々でばらつきがあった品質の向上や付加価値の増大につなげる狙いもある。


経験と勘が頼りだったリンゴの収穫

県内の産地といえば横手や平鹿地域。そこでの収穫方法は2つある。1つは成熟期になったらいっせいに収穫する方法。もう1つは果実1個ずつの成熟度を見ながら、それぞれの適した時期に収穫する方法。概して前者は「ふじ」などの晩生で多いのに対し、後者は商品価値が高い早生や中生の品種で用いられる。

後者で成熟度を見極めるのに参考になるのは県や産地ごとに作成しているカラーチャート。ただ、実際にはすべての農家がこれを利用しているわけではない。それぞれの農家はリンゴの表面と尻の部分の色を見ながら、これまでの経験と勘で収穫の適期を判断することも多い。以前産地を取材した際、親子であっても成熟度の判定基準が異なっていて、ときに喧嘩になることもあると聞いた。結果、品質にばらつきが出てしまう。

成熟度を「数値化」するシステム

そこで今回の研究では収穫適期を定量的に判定するシステムを構築することにした。具体的には、まずはカラーチャートから果実の色の判定に有用な特徴を割り出した。続いてリンゴの生育状態のほか、光量やリンゴの向きといった環境に差があっても一定の判定が下せるように画像補正をかける手法を開発した。


実際には、専用のアプリを使ってカメラで樹上の果実をガイドに合わせて撮影する。アプリは基準となるカラーチャートの色と、実際の果実の色を照らし合わせ、成熟度を数値で示す。秋田県立大学システム科学技術学部の石井雅樹准教授は「逆光などの極端な環境ではまだ難しいが、果実の向き、光の当たり方の強弱にかかわらず、判定できるようになっている」と語る。



さらに、現在は作業中に両手を自由に使えるようにするために、ウェアラブルグラスの開発に取り掛かっている。目視した際に果実を自動で検出し、収穫すべきかどうかをウェアラブルグラスで瞬時に把握できるようにするという。

試験している品種については、今年度は「ゆめあかり」と「シナノスイート」のデータを取得し、現在解析を進めている。カラーチャートで収穫期を判断する作物には応用可能で、野菜、果樹、花卉などへの応用も期待される。現在取り組んでいるほかの品目としては、日本梨(品種は秋田県オリジナルの新品種「秋泉」)、ブドウがある。

より精度を高めるため、来年度からは機械学習を利用する予定。石井准教授は「まずは収穫期前から画像を集め、来年度末に第一弾の結果が出したい」と話している。

<参考リンク>
色彩測定による果実の収穫適期定量判定システム(秋田県立大学 システム科学技術学部 電子情報システム学科 准教授 石井 雅樹)
秋田県立大学
秋田県産業技術センター
果樹試験場ホームページ
株式会社オクトライズ
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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