AIによる灌水制御で高糖度トマトの大量安定生産に成功──静岡大学

静岡大学情報学部の峰野博史研究室は、AIによる灌水制御で高糖度トマトの大量安定生産に成功したという研究結果を発表した。

この研究は「多様な環境に自律順応できる水分ストレス高精度予測基盤技術の確立」という研究課題のもと、峰野博史教授が実施。産官学連携事業「A-SAP 産官学金連携イノベーション推進事業」のひとつとして「農業AIを用いたストレス栽培向け灌水制御の実現」というプロジェクトで共同実施された。(以下、峰野研究室の発表を参照)

トマトなどの植物では、栽培過程で適度な水分ストレスを付与することで高糖度な果実を栽培できることが知られている。緻密な灌水制御を必要とするため、熟練農家の匠の技の結晶だった。

そこで峰野研究室では、2017年に植物の水分ストレスは植物のしおれ具合から把握できると仮定し、低解像度の草姿画像と、温度、湿度、明るさという比較的収集容易なデータのみを使用して、植物の茎の太さ(茎径)の変化量を高精度に予測。その予測結果に基づいて灌水を制御するAIの研究開発に成功した。茎径計測のための装置設置の負担が不要なだけでなく、日射比例のように閾値を天候に応じて調整する負担も不要になる。

その後の研究開発によって、AIの予測精度を大幅に向上させるとともに、地元企業である株式会社Happy Quality(宮地社長ら)、サンファーム中山株式会社(玉井社長ら)と連携し、AIでの灌水制御による中玉トマト栽培の実証実験を実施。その結果、AIによる灌水制御で平均糖度8.87(最大16.9)、従来の日射比例による灌水制御を超える高糖度トマトを負担軽減で大量安定生産できることが示された。


また、灌水や成長によって変化の仕方が変わる茎径のように、植物の環境応答といった、植物の顔色をうかがうようなかたちで灌水制御することで、果実の可販率向上につながることも確認。今後様々な異なる栽培条件での実証実験を進めるだけでなく、IoTやAIといった情報科学的アプローチを活用した新たな栽培手法の確立、教育教材化など研究開発していくという。

合わせて、本技術の実用化を目指し、静岡大学発ベンチャーとして起業したアグリエア株式会社や地域社会と連携し、長年の経験と勘に基づいて習得したノウハウの効率的な継承や、AIとの協働による負担軽減、競争優位性の実現を目指していく。

<参考URL>
静岡大学プレスリリース「AI による灌水制御によって高糖度トマトを負担軽減で大量安定生産成功」
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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