農総研×富山中央青果が目指す“農業流通革命”

青果物業界の後発組として市場外流通での地位を築いた株式会社農業総合研究所(以下、農総研)が2020年度から、本丸の卸売事業に参入することは既報した。

その第一歩となる動きが9月にあった。卸売会社と初となる連携協力に関する協定書を締結したのだ。

相手は富山中央青果株式会社(富山市)。農総研が得意とするITやブランディングを駆使して、野菜の生産額が都道府県別で最下位にある富山県産の青果物の流通量を増やす。その先に狙うものとは?


残された空白地帯

農総研は主要事業としてスーパーにインショップを置き、農家から集荷した農産物を委託販売する「農家の直売所」を展開している。物流の短縮化で生み出した鮮度の良さが売りだ。

JAから卸、仲卸を経由する一般的な場合では3~4日かかる。対して農総研は集荷場や流通網は自社で構築し、前日あるいは当日の朝に取れたばかりの青果物を翌日の開店時には各店舗に並べる。

集荷場は北海道から沖縄まで31道府県に92カ所を備える。会員の農家は8850戸、取引先の店舗数は1536店舗。2019年通期での物流総額は96億円、売上高は31億円(いずれも2020年2月末実績)。全国に急速に拡大していく中、残された空白地帯が北陸地方だった。

富山県の野菜の産出額は全国最下位の58億円。主力の米が消費減と共に産出額も下げる中、野菜や果物の産出額を押し上げたいのは米産地の共通の思いだ。


POPやQRコードでレシピや産地情報を提供

今回の連携で第1弾として手掛けるのは白ネギ。他県と違って、富山県では青い部分を好んで食べる文化がある。そのため県内の産地では青い部分と白い部分がほぼ半分ずつになるよう栽培の工夫がなされている。

これを「仲良しろねぎ」というブランド名でまずは県内で売っていく。卸先のスーパーは決まっている。

富山県内のスーパーで販売される「仲良しろねぎ」(左)。ふつうの白ネギと比べて緑色の部分が多い。
売り方についても支援する。農総研がスーパーの食品に求めることを消費者にアンケートしたところ、1位はレシピ、2位は鮮度だった。これを受けて商品にはPOPやQRコードを張って、レシピや産地情報を提供する。

ITも活用していく。農総研独自のツールを用いて出品先の販売データを生産者に戻して、価格や出品量、出品先を調整しながら販売率を高める。「高い販売率を担保することで、小売店のニーズも高まり、富山県産品のブランド化を早く広く展開できると考えている」(農総研)。


市場外流通の壁を超える

農総研は今回の事業を皮切りに富山県にもスーパーのインショップ「農家の直売所」を設置していきたいという。その先に見据えるのは市場外流通の「壁」を超えることだ。

壁とは、インショップはその店舗の青果物の売上全体の1割が上限だということ。それが経験的に分かってきたのである。事業を拡大するには本丸である通常の棚を狙うしかない。つまり卸売事業だ。

「今回の提携は産直卸売事業に本格的に乗り出すための第1歩になります」

農総研の坂本大輔取締役はこう明言し、続けて語る。

「青果コーナーへの卸売事業に本格参入する上で市場との連携には大きな意義があります 。市場の強みは大量流通・大量販売・安定供給で、弊社の強みは情報です。相互補完することでシナジー効果を生み出せると思っています。富山中央青果との業務提携を足掛かりに、北陸地方の青果類流通を盛り上げていきたいと思っております」

まずは富山県で卸売事業にどこまで食い込めるのか。同社が企業理念に掲げる「農業の流通革命」の行方がかかっている。

株式会社農業総合研究所
https://www.nousouken.co.jp/
富山中央青果株式会社
http://maru-tcseika.co.jp/
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WRITER LIST

  1. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  2. 槇 紗加
    槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  3. 沖貴雄
    沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  4. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  5. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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