「バイオスティミュラント」普及の鍵は、農業生産者への正しい情報提供【後編】
前編では、新しい農業資材である「バイオスティミュラント」について、そして世界と日本のバイオスティミュラント事情についてご紹介した。
後編では、バイオスティミュラント製品の現状とその可能性について、日本バイオスティミュラント協議会の主要メンバーに引き続きインタビューした。
日本でも多様なバイオスティミュラント製品が販売されているが、一体どのような種類があるのか。
分類方法として活性成分、資材の起源、作用や効果などがあるが、ここでは、イメージがつかみやすい“資材の起源別=何から作られているのか”による6分類を紹介する。
1.腐植酸
植物や動物の遺体が、微生物により分解・集積・重合されて土壌中に生成される暗色高分子有機物が腐植物質。その腐植物質のうち、酸とアルカリの両方に溶けるものが「フルボ酸」、酸には溶けずアルカリのみに溶けるものが「フミン酸」である。
2.海藻抽出物多糖類
世界的にはバイオスティミュラント製品の約3分の1を占める中心的な起源物質。沿岸地域では古くから農作物に良い影響を与えるとして利用されてきた。
3.アミノ酸・ペプチド
アミノ酸とは、有機物の一種。タンパク質の構成要素である。ペプチドとは、複数個のアミノ酸が結合した化合物。バイオスティミュラント製品に使用されているアミノ酸とペプチドは、農工業副産物や植物源(農作物残渣)、動物排泄物から加水分解されて得られているものが多い。
4.ミネラル・ビタミン類
ミネラルとは直訳すると「鉱物」のこと。有機物以外の地質由来成分であり「カリウム」「リン」「カルシウム」などがある。植物の生育に必要な成分の17種は特に「必須元素」と呼ばれるが、いくつかは微量でも機能し、「微量要素」と呼ばれる。一方のビタミンは、生物の生育に必要な微量物質であって、その生物自身が体内で十分に合成できない有機化合物」のことだ。
5.微生物
バイオスティミュラントとして使われる微生物は、農業生産におけるさまざまな利益を得るために使用される、植物との「共生菌」である場合が多い。
6.その他
その他として、「動植物抽出物」や「微生物代謝物」などがある。
これらは現状の分類であり、将来的にはさらに細分化される可能性があるという。
また、少しでも農業生産者や一般の方に理解してもらえるよう、バイオスティミュラントの効果(作用)の整理にも取り組んでいる。
「農業生産者さんに、バイオスティミュラント製品を探すときの一助にしていただけるように、起源別分類とその効果(作用)を対応させました。まだまだ不完全ですが、バイオスティミュラントを有効利用していくために、今後の議論のたたき台として活用していただければと思っています」(須藤さん)
では、バイオスティミュラントを使うことでどのような効果が得られるのだろうか。
植物は、一つのネガティブな状況(上図の「根痛み」や「しおれ」など)が起こると連鎖的に悪化してしまう。この「負のスパイラル」を断ち切るために、バイオスティミュラント製品を与える。
「ストレスの原因を見抜き、適したバイオスティミュラントを与える──これを見極めるのが実は一番難しいのです。
植物がネガティブな状況に陥った時にどのタイプのバイオスティミュラントを施用すべきなのか、あるいは予防的には何が良いのかは、今後さらなる研究の蓄積が必要です。学術界の科学的な究明、メーカーからの適切な製品の供給、そして生産現場での実用化技術の3つが協調できることによって、バイオスティミュラントはさらに有効な資材になると考えています」(須藤さん)
具体的な市販のバイオスティミュラントの効果について、現在販売されている3製品を例にご紹介しよう。
株式会社ファイトクロームの『すずみどり』は、植物が元々持っている緑の匂いを漂わせることで植物の気孔を開き、高温に対する耐性を高める効果がある。
「植物は爽快な緑の成分を感知すると、気孔が開いて蒸散を促進する機能が備わっています。『すずみどり』は、その機能を生かした製品です。 “青葉アルデヒド”と呼ばれる有効成分で、正式名称は『2-ヘキセナール』。これが植物に作用すると気孔が開いて蒸散を促進し、水分と熱を葉から放出することで高温耐性が上がります」(河合さん)
「すずみどり」は、人間にとって香りで疲れた体を癒す“アロマ”のようだ。その効果は学術的に証明され、科学論文誌『ネイチャー』が主催する査読付きオープンジャーナル『Scientific Reports』に掲載されている。また2019年には、バイオサイエンス分野で国内最大級の学会である日本農芸化学会から『農芸化学技術賞』が贈られている。
鉄の吸収を促進して根張りを促進、成り疲れを軽減する「鉄力」シリーズ
続いては、“2価の鉄”を有効成分とする『鉄力』シリーズ。上図「BSの分類例」では“④ミネラル・ビタミン”に該当する。
「鉄分は植物にとって光合成を行う葉緑素を作るために必要な養分で、鉄分不足になると光合成が十分に行えなくなります。土壌は鉄を豊富に含んでいますが、それらの多くは“3価鉄”という形(Fe3+)で、植物は“3価鉄”をそのまま吸収することができません。植物は基本的に鉄分を2価鉄(Fe2+)の形に還元して根から吸収しているのです」(鈴木さん)
そこで愛知製鋼は、植物が鉄分を吸収しやすい『鉄力』シリーズという“2価鉄”を含んだバイオスティミュラント製品を開発。 “3価鉄”を還元することなく直接吸収でき、さらに根の鉄還元力(酵素活性)を高めることで“2価鉄”の吸収を促進する効果もある。
「土壌不良や悪天候などの非生物的ストレスで植物が弱っている時でも鉄分を吸収し、光合成を活発化させ、植物を元気にすることができるのです」(鈴木さん)。
植物に“2価鉄”を吸収させると聞くと肥料のように思うが、日本の法律では「鉄は肥料ではない」と定められているのだそう。また、「根の鉄還元力を高める」という機能があることから、バイオスティミュラント製品として扱われている。
最後は、微生物を用いたバイオスティミュラント製品の「トリコデソイル」だ。根の周辺を保護し、土づくりをサポートすることで作物の健全な生育を促す。上図「BSの分類例」では“⑤微生物”に該当する。
「根の周りに施用することで、有用微生物“トリコデルマ菌”が根の表面を覆うように素早く増殖。作物に害を及ぼす悪玉土壌微生物を寄せ付けず、増えにくい環境を作ってくれます。こうして根圏環境を良好にすることで気候条件によるストレスの抵抗力を高め、作物の健全な育成を助けるのです」(須藤さん)
このように、バイオスティミュラントを効果的に使うには、植物の生育と生理、土壌と肥料の状態を理解したうえで、「正しい製品」を「的確な時期」に「適量」施す必要がある。
そのノウハウを持っているのは実はメーカーではなく農業生産者だという。作物の状態と収穫物の価値について最も深く理解しており、協議会としても農業生産者との情報交換は引き続き行っていきたいという。
一方、学術団体に目を転じてみると、バイオスティミュラントに関係した研究発表が積極的に行われるようになってきた。
「これは明るい兆しです。それを象徴するような出来事として、神戸大学の山内靖雄准教授と株式会社ファイトクロームが実施した研究が、農芸化学会の『技術賞』に選出されました。過去には、“アサヒ・スーパードライ”も受賞したことがある非常に名誉ある賞なのですが、『バイオスティミュラント』という新しいジャンルの存在をアカデミアに知ってもらううえで、とても大きなトピックでした。今後、企業と大学とのコラボレーションが増えて行くことに期待しています」(河合さん)
2020年末には、協議会の技術・調査委員会が編集した『バイオスティミュラントガイドブック第一版』が発行された。
作物学、植物生理学、土壌肥料学といった、すでに確立された学問の境界領域に跨る総合的な学問が、バイオスティミュラント学だ。アカデミアとメーカー、農業生産者さんとの橋渡しをすることも、協議会の仕事のひとつ。「生物刺激制御研究会」が発足するなど、少しずつ研究の機運も高まりつつある。
最後に、バイオスティミュラントの利用により日本農業のどんな課題が解決できるのかをうかがった。
須藤さんは、「限られた土地で最大の利益を上げること」だという。
「農業生産者さんにとって、利益とは何かを考えると“単収を上げる”ということになると思います。
近年、ゲリラ豪雨や台風、冷夏などの異常気象が頻繁に起き、このような状況は今後も続いて行くと考えられます。そうした厳しい気候であっても、バイオスティミュラントを利用することで収量を確保できたらと思っています。
温暖化の対策の一つとして、適作地や栽培作物の転換という考え方もありますが、これはたやすいことではありません。バイオスティミュラントや新しい技術を活用し、気候変動にアジャストする手法も身につけることも必要かもしれません」
河合さんは、大規模化していく日本の農業に、バイオスティミュラントが活躍してくれることを期待している。
「日本でも農業の大規模化が進んでいます。一方で、これまで以上に日本の農業は精密になって行くでしょう。グローバル化は今後も止まることなく進むでしょうから、ライバルは海外勢になります。そう考えると、農業の大規模化だけでは勝てません。必ず大規模化とともに精度を上げていく必要性が出てくると思います。
そこを目指したとき、バイオスティミュラントが活躍できるのは“精密化”です。一つ一つの環境ストレスに対する答えが分かれば、そこにバイオスティミュラントを施用できる。それができれば、どの国にも負けない収量を上げることができるはずです。
バイオスティミュラントを使用し、作物が1~2割増収したという試験場のデータを農業生産者さんにお見せすると大変驚かれます。
ところが、“根や穂が2割多くなった”といった圃場で実際に起こっている現象については、人間の目には極めて曖昧に映ります。そこにリモートセンシングなどの新しい技術を適用すれば、正確に判断できるようになります。日本農業は海外勢にも負けることはないですし、バイオスティミュラントは、その一助になれると考えています」
最後に須藤さんは、「バイオスティミュラントは万能ではない」とあらためて強調した。
「バイオスティミュラントは育種・農薬・肥料・機械、それに最近のIT技術などと共に、あるいは補完的に使われることで役割を果たすものです。
鈴木さんも説明されたように、農業生産者さんの基本となるのは作物の“増収”と“品質の向上”です。一般的にイメージされているような、単位面積当たりの収量増にも貢献できるとは思いますが、“廃棄ロスを減らす”という点でも可能性を感じています。日本は等級に厳しい国ですが、いいものの割合を増やすことで廃棄ロスが減少でき、それが収入増に繋がっていく。そういう使い方も考えられると思います。
それと、河合さんが言及された新しい技術との併用という点も、重要になって行くと考えています。ITやAIの利用が進むと、これまで見えなかったものが可視化されます。それによって、バイオスティミュラントの有用性も認知されやすくなると期待しています。
作物の状態を見て原因を把握した農業生産者さんが、正しいバイオスティミュラント製品を施用できる──そうした環境が整えば、バイオスティミュラントは日本農業が抱える課題解決の一助になれると思っています」
日本バイオスティミュラント協議会
https://www.japanbsa.com/
後編では、バイオスティミュラント製品の現状とその可能性について、日本バイオスティミュラント協議会の主要メンバーに引き続きインタビューした。
バイオスティミュラント製品の起源別分類
日本でも多様なバイオスティミュラント製品が販売されているが、一体どのような種類があるのか。
分類方法として活性成分、資材の起源、作用や効果などがあるが、ここでは、イメージがつかみやすい“資材の起源別=何から作られているのか”による6分類を紹介する。
1.腐植酸
植物や動物の遺体が、微生物により分解・集積・重合されて土壌中に生成される暗色高分子有機物が腐植物質。その腐植物質のうち、酸とアルカリの両方に溶けるものが「フルボ酸」、酸には溶けずアルカリのみに溶けるものが「フミン酸」である。
2.海藻抽出物多糖類
世界的にはバイオスティミュラント製品の約3分の1を占める中心的な起源物質。沿岸地域では古くから農作物に良い影響を与えるとして利用されてきた。
3.アミノ酸・ペプチド
アミノ酸とは、有機物の一種。タンパク質の構成要素である。ペプチドとは、複数個のアミノ酸が結合した化合物。バイオスティミュラント製品に使用されているアミノ酸とペプチドは、農工業副産物や植物源(農作物残渣)、動物排泄物から加水分解されて得られているものが多い。
4.ミネラル・ビタミン類
ミネラルとは直訳すると「鉱物」のこと。有機物以外の地質由来成分であり「カリウム」「リン」「カルシウム」などがある。植物の生育に必要な成分の17種は特に「必須元素」と呼ばれるが、いくつかは微量でも機能し、「微量要素」と呼ばれる。一方のビタミンは、生物の生育に必要な微量物質であって、その生物自身が体内で十分に合成できない有機化合物」のことだ。
5.微生物
バイオスティミュラントとして使われる微生物は、農業生産におけるさまざまな利益を得るために使用される、植物との「共生菌」である場合が多い。
6.その他
その他として、「動植物抽出物」や「微生物代謝物」などがある。
これらは現状の分類であり、将来的にはさらに細分化される可能性があるという。
また、少しでも農業生産者や一般の方に理解してもらえるよう、バイオスティミュラントの効果(作用)の整理にも取り組んでいる。
「農業生産者さんに、バイオスティミュラント製品を探すときの一助にしていただけるように、起源別分類とその効果(作用)を対応させました。まだまだ不完全ですが、バイオスティミュラントを有効利用していくために、今後の議論のたたき台として活用していただければと思っています」(須藤さん)
活用の鍵を握るのは農業生産者!
では、バイオスティミュラントを使うことでどのような効果が得られるのだろうか。
植物は、一つのネガティブな状況(上図の「根痛み」や「しおれ」など)が起こると連鎖的に悪化してしまう。この「負のスパイラル」を断ち切るために、バイオスティミュラント製品を与える。
「ストレスの原因を見抜き、適したバイオスティミュラントを与える──これを見極めるのが実は一番難しいのです。
植物がネガティブな状況に陥った時にどのタイプのバイオスティミュラントを施用すべきなのか、あるいは予防的には何が良いのかは、今後さらなる研究の蓄積が必要です。学術界の科学的な究明、メーカーからの適切な製品の供給、そして生産現場での実用化技術の3つが協調できることによって、バイオスティミュラントはさらに有効な資材になると考えています」(須藤さん)
バイオスティミュラントの効果3例
具体的な市販のバイオスティミュラントの効果について、現在販売されている3製品を例にご紹介しよう。
植物抽出物が気孔を開かせ高温耐性を向上させる「すずみどり」(ファイトクローム)
株式会社ファイトクロームの『すずみどり』は、植物が元々持っている緑の匂いを漂わせることで植物の気孔を開き、高温に対する耐性を高める効果がある。
「植物は爽快な緑の成分を感知すると、気孔が開いて蒸散を促進する機能が備わっています。『すずみどり』は、その機能を生かした製品です。 “青葉アルデヒド”と呼ばれる有効成分で、正式名称は『2-ヘキセナール』。これが植物に作用すると気孔が開いて蒸散を促進し、水分と熱を葉から放出することで高温耐性が上がります」(河合さん)
「すずみどり」は、人間にとって香りで疲れた体を癒す“アロマ”のようだ。その効果は学術的に証明され、科学論文誌『ネイチャー』が主催する査読付きオープンジャーナル『Scientific Reports』に掲載されている。また2019年には、バイオサイエンス分野で国内最大級の学会である日本農芸化学会から『農芸化学技術賞』が贈られている。
鉄の吸収を促進して根張りを促進、成り疲れを軽減する「鉄力」シリーズ
続いては、“2価の鉄”を有効成分とする『鉄力』シリーズ。上図「BSの分類例」では“④ミネラル・ビタミン”に該当する。「鉄分は植物にとって光合成を行う葉緑素を作るために必要な養分で、鉄分不足になると光合成が十分に行えなくなります。土壌は鉄を豊富に含んでいますが、それらの多くは“3価鉄”という形(Fe3+)で、植物は“3価鉄”をそのまま吸収することができません。植物は基本的に鉄分を2価鉄(Fe2+)の形に還元して根から吸収しているのです」(鈴木さん)
そこで愛知製鋼は、植物が鉄分を吸収しやすい『鉄力』シリーズという“2価鉄”を含んだバイオスティミュラント製品を開発。 “3価鉄”を還元することなく直接吸収でき、さらに根の鉄還元力(酵素活性)を高めることで“2価鉄”の吸収を促進する効果もある。
「土壌不良や悪天候などの非生物的ストレスで植物が弱っている時でも鉄分を吸収し、光合成を活発化させ、植物を元気にすることができるのです」(鈴木さん)。
植物に“2価鉄”を吸収させると聞くと肥料のように思うが、日本の法律では「鉄は肥料ではない」と定められているのだそう。また、「根の鉄還元力を高める」という機能があることから、バイオスティミュラント製品として扱われている。
有用微生物が根張りと根圏環境を改善する「トリコデソイル」
最後は、微生物を用いたバイオスティミュラント製品の「トリコデソイル」だ。根の周辺を保護し、土づくりをサポートすることで作物の健全な生育を促す。上図「BSの分類例」では“⑤微生物”に該当する。
「根の周りに施用することで、有用微生物“トリコデルマ菌”が根の表面を覆うように素早く増殖。作物に害を及ぼす悪玉土壌微生物を寄せ付けず、増えにくい環境を作ってくれます。こうして根圏環境を良好にすることで気候条件によるストレスの抵抗力を高め、作物の健全な育成を助けるのです」(須藤さん)
バイオスティミュラントが日本農業を変える!
このように、バイオスティミュラントを効果的に使うには、植物の生育と生理、土壌と肥料の状態を理解したうえで、「正しい製品」を「的確な時期」に「適量」施す必要がある。
そのノウハウを持っているのは実はメーカーではなく農業生産者だという。作物の状態と収穫物の価値について最も深く理解しており、協議会としても農業生産者との情報交換は引き続き行っていきたいという。
一方、学術団体に目を転じてみると、バイオスティミュラントに関係した研究発表が積極的に行われるようになってきた。
「これは明るい兆しです。それを象徴するような出来事として、神戸大学の山内靖雄准教授と株式会社ファイトクロームが実施した研究が、農芸化学会の『技術賞』に選出されました。過去には、“アサヒ・スーパードライ”も受賞したことがある非常に名誉ある賞なのですが、『バイオスティミュラント』という新しいジャンルの存在をアカデミアに知ってもらううえで、とても大きなトピックでした。今後、企業と大学とのコラボレーションが増えて行くことに期待しています」(河合さん)
2020年末には、協議会の技術・調査委員会が編集した『バイオスティミュラントガイドブック第一版』が発行された。
作物学、植物生理学、土壌肥料学といった、すでに確立された学問の境界領域に跨る総合的な学問が、バイオスティミュラント学だ。アカデミアとメーカー、農業生産者さんとの橋渡しをすることも、協議会の仕事のひとつ。「生物刺激制御研究会」が発足するなど、少しずつ研究の機運も高まりつつある。
バイオスティミュラントに解決できる日本農業の課題
最後に、バイオスティミュラントの利用により日本農業のどんな課題が解決できるのかをうかがった。
須藤さんは、「限られた土地で最大の利益を上げること」だという。
「農業生産者さんにとって、利益とは何かを考えると“単収を上げる”ということになると思います。
近年、ゲリラ豪雨や台風、冷夏などの異常気象が頻繁に起き、このような状況は今後も続いて行くと考えられます。そうした厳しい気候であっても、バイオスティミュラントを利用することで収量を確保できたらと思っています。
温暖化の対策の一つとして、適作地や栽培作物の転換という考え方もありますが、これはたやすいことではありません。バイオスティミュラントや新しい技術を活用し、気候変動にアジャストする手法も身につけることも必要かもしれません」
河合さんは、大規模化していく日本の農業に、バイオスティミュラントが活躍してくれることを期待している。
「日本でも農業の大規模化が進んでいます。一方で、これまで以上に日本の農業は精密になって行くでしょう。グローバル化は今後も止まることなく進むでしょうから、ライバルは海外勢になります。そう考えると、農業の大規模化だけでは勝てません。必ず大規模化とともに精度を上げていく必要性が出てくると思います。
そこを目指したとき、バイオスティミュラントが活躍できるのは“精密化”です。一つ一つの環境ストレスに対する答えが分かれば、そこにバイオスティミュラントを施用できる。それができれば、どの国にも負けない収量を上げることができるはずです。
バイオスティミュラントを使用し、作物が1~2割増収したという試験場のデータを農業生産者さんにお見せすると大変驚かれます。
ところが、“根や穂が2割多くなった”といった圃場で実際に起こっている現象については、人間の目には極めて曖昧に映ります。そこにリモートセンシングなどの新しい技術を適用すれば、正確に判断できるようになります。日本農業は海外勢にも負けることはないですし、バイオスティミュラントは、その一助になれると考えています」
バイオスティミュラントは万能薬ではない
最後に須藤さんは、「バイオスティミュラントは万能ではない」とあらためて強調した。
「バイオスティミュラントは育種・農薬・肥料・機械、それに最近のIT技術などと共に、あるいは補完的に使われることで役割を果たすものです。
鈴木さんも説明されたように、農業生産者さんの基本となるのは作物の“増収”と“品質の向上”です。一般的にイメージされているような、単位面積当たりの収量増にも貢献できるとは思いますが、“廃棄ロスを減らす”という点でも可能性を感じています。日本は等級に厳しい国ですが、いいものの割合を増やすことで廃棄ロスが減少でき、それが収入増に繋がっていく。そういう使い方も考えられると思います。
それと、河合さんが言及された新しい技術との併用という点も、重要になって行くと考えています。ITやAIの利用が進むと、これまで見えなかったものが可視化されます。それによって、バイオスティミュラントの有用性も認知されやすくなると期待しています。
作物の状態を見て原因を把握した農業生産者さんが、正しいバイオスティミュラント製品を施用できる──そうした環境が整えば、バイオスティミュラントは日本農業が抱える課題解決の一助になれると思っています」
日本バイオスティミュラント協議会
https://www.japanbsa.com/
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