大規模リンゴ農家が創意工夫で生み出した「汎用性」のある農業機械 (後編)

「果樹農家の中で最も機械化をしている」という、青森県鰺ヶ沢町で22haのリンゴ園を経営する木村才樹さん(60)。

リンゴを作る農家の間で一般に普及しているスピードスプレーヤー(SS)と乗用草刈り機だけでなく、果実の枝落としや収穫、運搬、剪定枝の回収、選果などでも機械を使いこなす。

その効力だけでなく、機械化できた環境や条件についてうかがった。


リンゴ園用の車体の低いトラクター


木村さんがまず見せてくれたのは「リンゴ専用」というヤンマー農機製造株式会社のトラクター(32馬力)だ。

「これは市販しているけど、今のところうちにしかないはず」。すぐそばにある別のトラクターも車体は低いが、「こっちのほうがさらに20cmくらい低い」と木村さん。

前回紹介した通り、木村さんは機械が入れるように樹を真っすぐかつ等間隔に植えているほか、いずれの樹も一番下の枝を地上から150cmほどと高く仕立てている。しかし、他の農家から購入したリンゴ園はそうなっていない。そうした園地では剪定で下の枝を高くしながら、「リンゴ専用」のトラクターを使うのだそうだ。


トラクターで樹を揺らして乗用機で回収

別のトラクターを見ると、後ろにはワイヤーが巻きつけてある。

樹を揺らすワイヤー樹を揺らすワイヤー
「これを樹に巻きつけて、トラクターのPTOを回して振動を伝えて揺らすんだ。お腹周りにロープを巻いて脂肪を落とすダイエット器具みたいな感じ。完熟した時にやれば、果実が簡単に落下してくる。それらはジュース用だね」。

他の一般的な農家の場合は人力で主幹を揺らすらしい。

「人手ならすべてを落とすのに15分かかっていた。それが機械なら10秒くらいだし、身体がラクだしね」

ほとんどの農家は落ちた果実をこれまた人が手で拾っていく。一方、木村さんは機械を使う。

まずはブロワーをトラクターに取り付けて、地面にある果実に強風を吹き付けて一方向に寄せる。個数がある程度まとまった段階で、乗用型の機械でリンゴを一気に回収。

落下した果実を強風え寄せるブロワー落下した果実を強風え寄せるブロワー
満杯になったら、網目状の大型コンテナに移し替えて、ボブキャットのフォークリフトで園地の外に運んでトラックに載せる。


自動直進型の収穫機

以上はジュース用の話。樹から人が果実をもぐ必要があるプレザーブ用(果実の原型を残したジャム)やカット用、青果用はどうか。

収穫については人が操縦せずとも直進するという、オランダ製の乗用機を直接輸入した。木村さんいわく「センサーで障害物を認識して走る」のだという。

リンゴの収穫機リンゴの収穫機
樹と樹の間をゆっくりと走り抜ける間に、車体の左右に立って乗る人たちが樹からリンゴをもいでいく。木村さんは「重いものを持たずに済むので、年齢に関係なく収穫に携われる」と強調する。

もいだ果実は車体のコンベアーに1玉ずつ載せれば、後は自動的にコンテナに入る仕組みだ。コンテナが満杯になった段階で園地に置き、ボブキャットのフォークリフトで回収。畑の隅でトラックに載せた後、倉庫に運搬する。


1本の樹で用途別に収穫する


ところで、このオランダ製の機械を使ってプレザーブ用や青果用として収穫する場合、人の手が届かないために樹の内側までなかなか取り切れないといったことが起こる。

木村さんが興味深いのは、内側に残した果実に限っては前述したワイヤーを樹に巻きつけて、トラクターのPTOを使って落下させて、ジュース用として出荷することだ。あえて残した果実を後から人手をかけて、プレザーブ用や青果用として収穫するよりも合理的である。

果樹経営広しといえども、1本の樹で用途別に収穫するという発想をしているのは珍しいようだ。


木村さん特許の「枝葉をかき集める機具」


園地で使う機具はもう一つある。それは、木村さんが開発した剪定枝を集める機具だ。通常、剪定した枝は園地のあちこちに落ち、後で人手をかけて回収する。これが重労働なのである。

剪定枝を回収する機具剪定枝を回収する機具
「その役目はだいたいお母ちゃんや子ども。剪定した枝を抱きかかえて、畑の隅まで持って行って焼却する。1人1日かけても10aとか20aしかできない。ところがこの機器があれば、その10倍から20倍の面積がこなせる。腰をかがめなくていいし、ラクだよね」

一方、木村さんが開発した機具はトラクターに装着する鉄製の熊手。前進すれば、枝葉がかき集められる。

これを開発したのは27歳の時。以後は自分だけで使ってきたが、縁あって株式会社やまびこが製造と販売をしてくれることになった。発売は2021年2月の予定で、木村さんが特許を取っている。


内部品質まで判定してバラツキをなくす選果機


機械化の話は続きがある。県によると、県内ではまだ数戸しか導入していないという選果機だ。

選果機選果機
通常、県内の農家は主に商系向けには外観から目視で仕分ける「ヤマ選果」をしている。木村さんの場合は規模が大きいので、選果に当たる人数も多い。そのため人によって仕分けにバラツキが生じるのは避けられない。

一方、選果機を使えばそれが解消できる。おまけに糖度や酸度、内部褐変など目視では判定できない項目も評価してくれる。現時点では選果のデータをもって価値を高めることはしていないものの、木村さんは「いずれは販売価格に反映させてみたい」と意欲を持っている。


機械化の鍵は“汎用化”


さて、木村さんが「果樹農家の中で最も機械化をしている」というほどに機械化できたのはなぜか。本人はその理由の一つに「もともと水田農業が主体で、それに使っていた機械をほかに転用したかったから」と語る。そういう意味で「国は品目専用の機械の使い方をしなさいというのはナンセンス。他の用途にも汎用性があるものにこそ補助をすべきだね」と言い切る。

木村さんは22haのリンゴ園のほかに田畑70haを経営している。一連の管理作業は木村さんが仲間と作った農作業の受託組織・白神アグリサービスに委託している。同社にも機械を貸し出すことで、減価償却費を減らしているのだ。

「リンゴの経営だけなら、とてもあれだけの数の機械をそろえられない」

経営全体の中で機械をどうやったら有効に活用できるのか。複合経営をする大規模なリンゴ農家にこれから求められる課題だと受け止めた。


風丸農場 公式ホームページ
http://www.kazemaru-nojo.com/

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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