目指せ、キュウリで反収60t! 篤農家が開発したCO2を逃がさない低コストハウス

佐賀県武雄市の山口仁司さんは、全国で最も早いといっていい時期にキュウリで反収40tを超える技術を築き上げた。

次に目指すは60t。そのために導入したのが、なるべく換気をしないことで施設内の二酸化炭素を逃がさずに済む暖房機だ。施設の骨材を減らして採光性も高くしたことで、光合成が活発になっている。

栽培を始めて2年目で、すでに反収は48tに達した。

佐賀県武雄市の山口仁司さん(右)とJAきゅうりトレーニングファームの専任講師の西田昭義さん佐賀県武雄市の山口仁司さん(右)とJAきゅうりトレーニングファームの専任講師の西田昭義さん

「曇り時々晴れ」の天候を生かす


言うまでもなく、反収を上げるうえで何よりも大事なのは光合成を活発にすることである。

山口さんが従来の26aとは別に31aで建てた新たな施設について語る前に、北部九州ならではの天候に対応した施設の管理方法について触れたい。いかに温度や湿度、二酸化炭素の有効利用を重視しているかを知ってもらいたいからだ。

山口さんによれば、北部九州でのキュウリの施設栽培では一つの誤解があったという。それは、午後は光合成をしないからと、室温を下げる管理をしてきたことだ。

これが誤りであることは、北部九州の天気が「曇り時々晴れ」の日が多いことが示している。

「こっちは正午から気温が上がっていくことが多い。自然に近い環境で管理をすれば、もっと取れるようになる」と山口さん。

県農業改良普及センターで長年キュウリづくりの指導に当たり、今は同JAきゅうりトレーニングファームの専任講師である西田昭義さんは次のように補足する。

「私が県農業改良普及センターにいた頃、1日の光合成の6~7割は午前中で終了するという認識でした。でも、モニター画面で環境データを見ると、昼からも日射や温度、湿度が確保できる日が多い。それなら二酸化炭素を補給すべきなんです。そのことにいち早く気づいたのが『先生』でした」

「先生」というのは山口さんのこと。山口さんが誰よりも早くに反収が20t、30t、40tという壁を次々に超えていった理由の一端がここにある。


光合成の最大化と省力化


本題に入ろう。山口さんが建てた新たな施設は、前回紹介したトレーニングファームから徒歩2、3分のところにある。西田さんは、その施設について「先生の知識や経験がぎっしり詰まった」と表現する。

狙うのは光合成の最大化と省力化だ。

山口さんの案内で施設に入ると、真っ先に目についたのは見たことのない格好をした大きな暖房機と、そこから伸びている空中に浮いているダクト。これこそが二酸化炭素を逃がさずして、施設内の温度を調整するために導入したフルタ電気株式会社の製品だ。

山口さんが導入した暖房機山口さんが導入した暖房機
A重油を使うこの暖房機は、シャッターの開閉によって外気と内気をそれぞれ個別に、かつ必要な量だけ取り入れられる構造になっている。室温を下げたければ外気を入れる。逆に上げたければ、内気を取り込んで温め、ダクトを通じて施設内に送り込む。

温度設定は0.1度単位でできるようになっている。

「使ってみて分かったのは、二酸化炭素の濃度だけではなく、温度と湿度の波が抑えられるということ」と山口さん。

二酸化炭素の濃度の変動が小さい二酸化炭素の濃度の変動が小さい
モニター画面を見ると、それぞれのグラフの揺れ動きは確かに抑えられているようだ。


吊るしたダクトと通路のレール


続いて省力化に触れていきたい。施設の通路にはレールを敷き、コンテナを載せた運搬車が施設の入り口との間を行き来できるようになっている。従来は人がキュウリの詰まったコンテナを入り口まで運んでいたのだ。

運搬車を往来させるには通路のダクトが邪魔になる。そこで山口さんはダクトを1m20cm~1m30cmの高さに吊るすことで、それを回避できるようにした。

ダクトは吊るしているダクトは吊るしている
各畝の上部には薬剤を自動で散布するノズルを設置した。従来は人が動力噴霧器でこなしていた。

「それだと31aをこなすのに2~3時間くらいかかる。ミストにすれば20分で終わってしまいます」(山口さん)

薬剤を霧状に噴霧するノズル薬剤を霧状に噴霧するノズル
ノズルは薬剤が詰まりにくいT字型の構造の商品を選んだ。気になったのは葉裏にまで薬剤がかかるかという点。山口さんは「霧状になって葉裏にもきちんと届いています」と証言する。

以上の話をうかがって施設を出ようとした時、いくつかの葉が白くなっていることに気づいた。

「ヒートショックの結果ですね」

こう教えてくれた山口さんは、害虫のスリップス類やコナジラミ類を退治するため、晴れた日に施設を閉め切った状態にして、室温を40度以上にして害虫を死滅させる対策を取っているのだという。終了後は時間をかけて温度と湿度を下げていくが、「急速にやってしまうと葉が白くなってしまう」とのこと。

この方法は、JAさがみどり地区が新規就農者を育成する拠点として運営する「トレーニングファーム」でも導入している。

山口さんが目指すのは反収60t。基礎だけではなく先端の技術を常に試している研修生たちが遠からぬ将来、同程度の反収を上げるといったことが起きるに違いない。


トレーニングファーム|新規就農支援|JAさがのご紹介|JAさが 佐賀県農業協同組合
https://jasaga.or.jp/introduction/shunou_support/training_farm/

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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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