「第11回農業Week」で見つけた注目農業ソリューション【前編】

2021年10月13日(水)~15日(金)、第11回農業Weekが千葉県幕張メッセで開催されている。同イベントは、国際農業資材EXPO、国際スマート農業EXPO、国際6次産業化EXPO、国際畜産資材EXPOの4展で構成される展示会だ。また同時に、国際ガーデンEXPOとツールジャパンも開催されており、日本最大級の農業関連展示会と言って間違いないだろう。

そんな農業Week展示物のなかから、編集部の注目ブース&アイテムを紹介していきたい。前編となる本稿では、特定の製品・サービスジャンルにくくらずに気になったものを挙げていこう。

※「第11回農業Week」は業界の商談展のため、一般の方、18歳未満の方の入場はお断りしている。

ドローンによる水稲直播技術がいよいよ本格化



コメ栽培において最も大きな栽培方法の転換ともいえるのが、昔ながらの育苗・移植から、他の作物と同様に水稲の種子をまく直播だ。移植栽培は苗立ちや生育などメリットも大きいものの、圧倒的に時間と作業コストがかかるため、直播技術が近年注目されている。

「農業Week」でも例年ドローンや鉄コーティング種子などが公開はされていたものの、目立って見えたのはやはりドローン本体や農薬散布の方だった。しかし今年は「直播」というキーワードを大きく掲げるブースが目立った印象だ。

ひとつは、スイスを本拠地とする種子苗・農薬のグローバル企業、シンジェンタの日本法人であるシンジェンタジャパンのブース。社名よりも大きく、同社の水稲湛水直播向けソリューションである「RISOCARE(リゾケア)」をプッシュしていた。

「リゾケア」とは、2020年3月に発表された技術だ。不安定な苗立ちなど課題が多かった直派栽培の導入の障壁を下げ、規模拡大を目指す担い手、地域の農業生産を支える中山間地の生産者ともに、日本の水稲農業の”持続的な発展”を目指し、複数の種子処理製剤と独自の種子処理技術から成るソリューションとして開発された。

今回の展示では、この技術としての「リゾケア」のメリットがわかりやすく展示されていた。

  • 直播のため、一般的な移植栽培で必須となる育苗から移植にかかわるすべてが不要。労働効率が飛躍的に高まる
  • 種子に水稲湛水直播栽培での苗立ち不良の原因の一つである苗腐病を防除する殺菌剤が含まれているため、安定した苗立ちを実現し、収益を確保しやすい
  • 一般的な移植栽培と併用することで作期分散できるため、規模拡大にも寄与する。
などがメリットだ。

また、播種方法についても、乗用播種機、背負い式動力散粒機、そしてドローンにも対応する、としている。


説明してくださったアグリビジネス事業部CRM&デジタルマーケティングスペシャリストの後藤浩仁さんによると、このドローン直播の具体的な方法が、「リゾケア播種マニュアル」として無料公開されている。播種量・飛行高度・飛行速度・インペラ回転数・シャッター開度・散播幅といった、ドローン直播を実施するのに必要な情報がわかりやすい図とともに記載されていた。

もうひとつは、秋田県から自社開発のドローンをリリースしている老舗の東光鉄工。同社は以前から直播ドローンを実証しており、種子が詰まらないような工夫を重ねて直播可能なユニットを販売している。播種する趣旨は鉄コーティング種子で、作業時間は61%、収量も前年比で毎年成果を上げているという。


いずれもコーティング種子が前提のため、そのためのコストはかかるものの、選択肢が増えたことは大きな進歩だ。コーティングされていない普通の種子の播種も、オプティムと石川県の共同研究により進められており、こちらも実績を積み重ねている。

リモートセンシングや農薬散布の次は、この直接播種がひとつのトレンドになりそうだ。


バイオスティミュラント製品の存在感アップ



農薬でも、肥料でも、土壌改良剤でもない、新しいジャンルの農業資材として注目されつつあるバイオスティミュラントを、ブース前面に押し出していたのは、園芸肥料などでおなじみのハイポネックスジャパンのブースだ。

農芸プロダクツチームのチームリーダー、高谷憲之さんに展示の狙いと注目製品について教えていただいた。

「近年は、農業の持続可能性、環境への影響、安心・安全な食品といった、新たなニーズやトピックが出てきていますよね? 当社では、2014年よりバイオスティミュラントの世界的企業であるキミテック社の資材を輸入販売してきましたが、いよいよ日本市場に受け入れられる素地ができつつあり、また当社にもノウハウが蓄積されてきました。機が熟した、と判断して、今回、大きくバイオスティミュラント製品を展開することにしました」

そのノウハウとは、簡単に言えば、植物を育てる期間を通じて、ライフステージに応じて複数の剤を使用すること。1+1=2ではなく、3にも5にもなる、という結果が出そろっているのだとか。



具体的には、定植期には菌根化剤の「マイコジェル」を、栄養生長期には根張りを促進する「ライゾー」を、そして生長期から成熟期には有機活力液肥「ボンバルディア」を施用する、という方法である。

一方、ベンチャー企業としてバイオスティミュラント製品を開発する企業もある。アクプランタは気候変動による温暖化に伴う植物の熱・乾燥・塩害を防ぐバイオスティミュラント製品「スキーポン」を展示していた。酢酸をベースとした科学的根拠が明確なバイオスティミュラントとして、理化学研究所発のベンチャーとして話題を呼んだ商品で、セミナーも開催されている。


近年は特に、高温、日照不足など、作物に対して非生物的ストレスが掛かるシーンが増えている。作物のライフステージに適したバイオスティミュラント製品を施用する手法は、国が2050年までに農薬使用を大幅に減らすとする「みどりの食料システム戦略」とも相まって、ここからの食料問題解決に向けた収量確保の近道になるかもしれない。


リーズナブルながらも"使える"サポーター系アシストスーツ



続いてご紹介するのは、一般的な農業生産者にも手が届く、一桁万円で購入できるアシストスーツ、「メディエイド アシストギア」。日本シグマックスの製品だ。

日本シグマックスは医療領域、特に関節サポート製品を主なフィールドとして成長してきた企業だ。その後、事業をスポーツ領域や福祉領域に拡大して、現在に至っている。スポーツ好きの方であれば、スポーツ用サポーターの「ZAMST」をご存じだろう。あれは日本シグマックスの製品だ。

ここでご紹介する「メディエイド アシストギア」は、医療領域で培った関節サポート・保護のノウハウを投入して開発したアシストスーツである。


ウェルネス事業部ウェルネス事業課スペシャリストの大島浩さんが説明してくれた。

「サポーター系のアシストスーツのなかでも、当社製品は特に薄くて軽い(重量は460g)、それでいて十分な腰アシスト能力を有しています。ですから、サポーター感覚で気軽にご利用いただけるのが最大の特徴です。装着したままで違和感なく自動車を運転できると言えば、どんな感じかご想像いただけると思います。

荷上げ・荷降ろしを長時間繰り返すような重作業よりも、装着した状態で動くような作業、つまり農業にはピッタリの製品だと自負しています」

「メディエイド アシストギア」は、腰を中心とした上下パーツを連結する構造とすることで、肩、太ももから腰に向かって張力が働く。この力で腰への負担を軽減する仕組みだ。

上下パーツを合わせて2万5000円(本体)というリーズナブルな価格設定なので、サポーター代わりに購入してみるのもいいかもしれない。

自動収穫ロボットからトレーサビリティまで多彩な展示



最後にご覧いただくのはデンソーのブース。

デンソーといえば、トヨタグループに属する自動車業界の優良企業であるが、農業分野にも参入している。自動車分野で培った技術を食農分野に生かして、フードバリューチェーン全体に新しい価値を提供するとした今回の展示では、持続可能な農業生産の実現に向けた取り組みを紹介していた。

展示物の中でひときわ目を引いた、QRコードやRFIDを用いたトレーサビリティシステムと、自動収穫ロボットを取り上げたい。



これがミニトマト自動収穫ロボット「FARO(ファーロ)」。大規模施設園芸向けに開発されている。デンソーでは、農業従事者の減少という問題を、自動収穫ロボットを提供することで解決する、としている。


搭載されたカメラで収穫物を認識してAIを用いた熟度判定を行い、適切な熟度の作物を自動で収穫して搬送する。ブース内で流されていた動画では、ミニトマトは一つ一つ収穫するのではなく、房で収穫していた。収穫後の処理こそ必要となるものの、自動収穫ロボットを社会実装するには、いいアイデアではないだろうか?


また、「FARO」の基部には、「Disinfection Pocket」の文字があり、動画では、ここから薬剤が噴霧されていた。「FARO」は薬剤散布の役割を担うことも想定されている。

自動収穫ロボットの社会実装は、対象となる収穫物が単純であれば実現しやすいが、複雑であると難しいことは、過去の例から想像できる。今後の開発に期待したい。

もうひとつは、農産物のトトレーサビリティを追いかけるソリューションだ。

農産物の流通システムにとって、一般的な商品流通以上に大切なことは、生鮮食品であり鮮度や劣化に注意しなければならないこと、消費者の口に入るものであり安全性と信頼性が求められること、そして収穫してパッケージングする農家、運搬する業者、さらに販売する小売店のそれぞれにおいて、どのようにその農産物の品質を保証するかという点にある。

そこでデンソーは、農産物につける生産者や農産物の情報を埋め込んだQRコードと、流通過程を把握するためのRFIDタグステッカーを貼付し、流通の過程でトレーサビリティを常に把握可能にするシステムを開発。実際に現場で実験を行いながら開発を進めているという。


こうしたしくみ自体はこれまでも提案されてきたが、デンソーの強みは軽量で多くの情報を埋め込めるQRコードとRFIDのステッカー化、そしてこれらすべての状況把握ができるところ。生産者から小売店までひとつの仕組みで管理するとなるとなかなか導入は難しい面もあるが、流通の各ポイントにいるプレイヤーたちが最も使いやすく、低コストで、安定性の高いシステムが求められている。生産者と消費者が使いやすいシステムとして、今後の展開に期待したい。

後編では、地面を走行するクローラーやロボットをご紹介したい。


シンジェンタジャパン株式会社(リゾケア)
https://www.risocare.jp/product/xl#qt-product_cp_tabs-ui-tabs6
東光鉄工(株)ドローン製造(UAV事業部)
https://www.toko-tekko.co.jp/publics/index/101/
株式会社ハイポネックスジャパン(バイオスティミュラント)
https://www.hyponex.co.jp/biostimulant/
日本シグマックス株式会社(メディエイド アシストギア)
https://www.mediaid-online.jp/hpgen/HPB/entries/74.html
株式会社デンソー(農業)
https://www.denso.com/jp/ja/business/products-and-services/other-industries/agriculture/

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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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