【インタビュー】 かんきつ類ドローン防除の実現に必要なのは“三位一体の協力体制” (株式会社オプティム 柳さん)

株式会社オプティムが2025年6月に立ち上げた「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」は、さまざまな農作業を適正価格で委託できる、スマート農作業代行サービスです。

周辺地域の方たちで共同購入することで作業単価を下げることができ、ウェブやスマホに慣れていない人でも申し込めるように代理店も各地に設けています。作業を委託するのはオプティムの認定作業者。作業を安心して委託できる体制も万全です。

そもそもオプティムがこの作業委託サービスを立ち上げた背景には、産地の課題に真正面から向き合おうとするプロジェクト担当者の思いと、農家・地域・自治体との協力の積み重ねがありました。

今回は、そんな「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」を立ち上げ、自身も和歌山県出身かつ有田みかん農家の孫というオプティムの柳さんに、サービス立ち上げまでの苦労、かんきつ類のドローン防除を普及させる上での課題などをうかがいました。

株式会社オプティムで「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」を立ち上げから担当する、農業新規事業開発チーム シニアスペシャリストの柳さん

前例がほとんどなかったかんきつ類のドローン防除


「和歌山県の農業に貢献したい」という思いを持ち、大学で農学を学んだ柳さんは、種苗メーカーに就職。震災復興事業や産地への野菜類の品種提案、技術営業などの業務に携わった後、2021年11月にオプティムに転職します。

当時のオプティムの農業事業は稲作が中心で、ドローンによる無駄のない防除や追肥を実現した「ピンポイント散布」、その技術を発展させて水稲の共同防除を丸ごと請け負う「ピンポイントタイム散布」(PTS)を進めていました。

水稲分野では、地域に入り込んで地元農家の圃場を請け負う株式会社オプティム・ファームという会社も設立している

その次の分野として、野菜や果樹などの他の農産物にも広めていくにはどうしたらいいかを考えているタイミングで、柳さんの「水稲のノウハウを生かして、みかん(かんきつ類)でやってみませんか?」という提案が、「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」の出発点でした。

ですが、かんきつ類のドローン防除は、個人や単発で行っている人はいてもまだまだ研究段階。地域単位でまとめて実施するような国内での前例はほとんどなかったと、柳さんは振り返ります。

「まだ園地ひとつひとつの測量もされておらず、自動飛行により高精度な散布を行うようなシステムは、技術的に確立されてはいませんでした」

そこで、柳さんは「PTS」の担当者として全国を巡る傍ら、和歌山県で地方自治体、民間企業、地元農家らと協力し、散布の効率化や品質を高めるための技術・ノウハウ・産地実装拡大の道筋を2年かけて確立。科学的なエビデンスを積み重ねることで、かんきつ類でのドローン防除サービスの土台を築き上げていきました。


水稲の共同防除「ピンポイントタイム散布」で培われたノウハウ


こうしてかんきつ類でのドローン防除のノウハウを積み重ねていった2024年頃、柳さんが必要だと考えていたものがふたつありました。

ひとつは、ドローンパイロットの操縦能力に依存せず、どんな地域でも散布できる自動化システム。もうひとつは、各地でそれを請け負ってくれる地元ドローンパイロットの存在です。

散布範囲はオプティムが測量しマップデータを作成。ドローンパイロットはそれに沿って散布するシステムになっている

ですが、米や穀物では当たり前であった「共同防除」という仕組みが、かんきつ類や野菜などには普及していなかったことが大きな壁になりました。

かんきつや野菜では、人に農作業を委託する、任せるという概念がそもそもなかったんです。作業を委託していただくための信頼と、それをより気軽に、適正価格で導入できる仕組みが必要でした」

それらを簡単に実現するために、オプティムはウェブ注文サイト「アグリポン」を開発。散布希望者がスマホから簡単に登録・依頼できるようにして、農家が参加しやすい環境を整えました。

「アグリポン」のスマホ上の画面イメージ

それと同時に、「農業は地域性が非常に重要です。だからこそ、地元の農業法人や企業と一緒に、“三方良し”の関係を築いていくことが必要でした」と柳さんは強調します。

こうした取り組みを2年間行い、有田エリアの請負体制とサービス提供が可能になったのが2024年のこと。その年の秋からは、サービスに賛同・協力いただける県内の関係企業とパートナーシップや代理店契約を提携し、和歌山県全域で地域密着型のサービス展開を開始しました。

2025年現在、サービスは日本全国に展開し、愛媛県北部、沖縄県北部での提供も始まっています。夏シーズンには、全国で延べ80haのかんきつ園地へサービスを実装しました。

また、「かんきつ~」と銘打っていますが、ネギやサツマイモ、サトウキビなどの露地作物、シークヮーサーや八朔(はっさく)などの他の作物への展開も始まっています。

特に、野菜品目などは、すでにドローン防除だけでなく営農提案や栽培コンサルティングまでトータルで請け負えるような構想を描いています。


未来の農業は地域で支えるかたちに回帰する


柳さんは、「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」の本質についてこう語ります。

「このサービスは、参加者(注文者)が集まれば集まるほどサービス単価が安くなる仕組みです。だからこそ地域全体でまとまって、三位一体となって現場に普及していくことが大切なんです。

これからの農業は、1社やひとりの頑張りだけでは成立しません。少し前までの地方の農村などがそうであったように、地域や業界全体で手を取り合って取り組んでいく世界になっていくと思います。地域農業における『相互扶助』の考え方・スピリットが、この『アグリポン』やサービスには吹き込まれています

まだまだ情報が少ないかんきつ類のドローン防除。たしかな効果がわかることで初めて委託につながる

オプティムの挑戦は、単なる技術導入にとどまりません。農家の考え方や地域のあり方にまで踏み込み、未来の農業の形をつくる試みを進めている途中です。

次回は、そんなドローン防除を地域で担うドローンパイロットとして、関西地方のエリアマネージャーを務める田邉さんと、有田市地域を中心に活動する新人ドローンパイロットの東林さんへのインタビューをお届けします。


「OPTiM アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」 概要


「アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス」は現在、有田エリアから始まり、和歌山県内、さらに他の他府県の産地からの申し込みを受付中。今夏の防除の相談も可能で、ネット経由だけでなく、現地の農家同士で集まったり、すでに実施している農家経由で、紙やFAXによる申し込みにも柔軟に対応しています。

●主な防除内容
  • 夏場の黒点病、ゴマダラカミキリ、チャノキイロアザミウマ、カメムシ等
  • 収穫前(11月〜)の防腐剤(貯蔵病害)
  • 春先のかいよう病 ほか

●申し込み・お問い合わせ先

OPTiM アグリポンかんきつ類ドローン防除サービス


▶︎お申し込み・お問い合わせ先はこちら

株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/
アグリポン|株式会社オプティム
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/agripon

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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