超強力の秋まき新品種小麦「みのりのちから」の実力とは
秋まき小麦で超強力かつ多収性の新品種として普及が期待される「みのりのちから」(※注)の栽培が北海道でじわりと広がってきた。
生産と加工についてどんな結果が出ているのか。その普及に当たる、北海道音更町に本社がある小麦の集荷業者の株式会社山本忠信商店(以下、ヤマチュウ)に話を聞いた。
※注 チホク会は「みのりのちから」について産地品種銘柄を申請して、2020年に「パン用と中華麺用」の用途でその指定を受けた。
小麦で超強力の特性を持った品種といえば「ゆめちから」。農研機構が開発し、北海道ではすでに産地品種銘柄になっている。主にパン用小麦として大手の製パン業者を筆頭に使われている。
そもそも、パンに適しているのはグルテンが多くて粘性が高い強力粉だ。しかし、強力粉になるのは春に種をまき、盆に刈り取る品種ばかり。秋まきの品種と比べて春まきの品種は栽培期間が短く、収穫期に雨が多いので作柄と品質が安定せず、これまでは普及しなかった。このため「ゆめちから」が誕生するまで、国内で作付けされる9割以上が中力粉に向く秋まき品種だった。
一方、2009年に品種登録された「ゆめちから」は秋まきでありながら超強力という特性を持った品種である。“超強力”であるので、中力粉と混ぜることで、強力粉のように使える。このため産地と実需が連携しながら、道内での栽培面積が拡大していった。
ただ、「ゆめちから」にも弱みはある。それは、「農家が期待するほどに収量が取れない」ということ。収入を増やしたい農家にとっても、国産小麦をより求める製パン業者にとっても、収量が多い品種の到来は待ち遠しい。とはいえ一から品種を改良していてはその実現までに長い年月がかかる。
では、世に出ることのなかった品種の中に、実は優れた特性を持った小麦が眠っていることはないか。
そこに目を付けたのがヤマチュウである。同社は農研機構との協定による研究で、埋もれていた品種の中から「みのりのちから」を発掘した。しかも「ゆめちから」と比べると、同じく秋まきであることに加えて、収量は少なくとも10%増が期待できるという触れ込みだった。
ヤマチュウは同社に出荷する農家の集まりであるチホク会に「みのりのちから」の試験的な栽培を呼び掛けた。チホク会では道内の300戸以上の農家が計4000ha以上で小麦を作っている。加えて小麦のための巨大なサイロと調製施設も運営する。サイロは16本あり、1本当たりの容量は750tである。
「みのりのちから」を生産する呼び掛けに参加した農家によるこれまでの栽培面積は、2019年播種分が5ha、20年分が50ha。21年分については「さらに増える予定」(ヤマチュウ)だという。
注目すべきは反収だ。当初のふれこみでは「ゆめちから」と比べて少なくとも10%増だったことは先に触れた通り。だが、過去2年間は20%増となった。これには好天が関係している。
「特に2021年産の小麦は十勝史上で過去最高の出来でした」。
ただ、好天が影響したのは「ゆめちから」も同じ。山本専務はそれでも「みのりのちから」が好実績を挙げた理由について次のように語る。
「1穂の子実重量が「ゆめちから」に対しておおむね10~15%程度多い。だから、茎数管理と千粒重を高める栽培を施すことでさらに増収が期待できます。チホク会で作付けした農家からは当初の期待にたがわぬ評価を得ています」
「みのりのちから」の栽培における欠点はどうか。
「穂首一つ分草丈が長いので強いて言えば倒れる心配があること。ただ、何もしない畑でほんの一部で倒れたくらい。成長抑制剤を施用した畑では、全くなかったので、問題になるほどではないですね」(山本専務)
加工適性については次のように語る。
「正直にいうとゆめちからのミキシング(原材料の分散とパン生地をつくりこむこと)特性とは少し違うところがあります。ただ、これも使い手の工夫できっと馴染んでくるものと期待しています」
こう語る山本専務は、肝心の味については「おいしい」と言い切る。事実、帯広市に本社を置く製パン業者は高級食パンの原料として使い始めている。
加工適性と味についての評価は得ているので、あとは実需と相談しながら、増やしていくことになる。その際、産地が実需と今まで以上に良好な関係を築くうえで大事になるのが増収の利益をどう分け合うかだ。
山本専務は次のように語る。
「『みのりのちから』の普及拡大においては、需要の拡大と作付け拡大は両輪をなしています。優れた品種のメリットは、生産者と実需者が双方にとってメリットが感じられることが重要だと考えています。安定生産のために、安定的な需要を生み出したいと思っています」
ヤマチュウは作る農家を増やすうえで、社内では「フィールドマン」と呼ぶ営業職を配置している。その人員は本社に8人、支店に2~3人。彼ら彼女らは実需者とともに農家を訪ねて新品種の栽培を打診したり、その栽培法を伝えたりする。「みのりのちから」でもフィールドマンが重要な役割を果たしていく。
みのりのちから|農研機構
https://www.naro.affrc.go.jp/collab/breed/0100/0108/045668.html
株式会社山本忠信商店
https://www.yamachu-tokachi.co.jp/
生産と加工についてどんな結果が出ているのか。その普及に当たる、北海道音更町に本社がある小麦の集荷業者の株式会社山本忠信商店(以下、ヤマチュウ)に話を聞いた。
※注 チホク会は「みのりのちから」について産地品種銘柄を申請して、2020年に「パン用と中華麺用」の用途でその指定を受けた。
秋まきで収量増が見込める「みのりのちから」
小麦で超強力の特性を持った品種といえば「ゆめちから」。農研機構が開発し、北海道ではすでに産地品種銘柄になっている。主にパン用小麦として大手の製パン業者を筆頭に使われている。
そもそも、パンに適しているのはグルテンが多くて粘性が高い強力粉だ。しかし、強力粉になるのは春に種をまき、盆に刈り取る品種ばかり。秋まきの品種と比べて春まきの品種は栽培期間が短く、収穫期に雨が多いので作柄と品質が安定せず、これまでは普及しなかった。このため「ゆめちから」が誕生するまで、国内で作付けされる9割以上が中力粉に向く秋まき品種だった。
一方、2009年に品種登録された「ゆめちから」は秋まきでありながら超強力という特性を持った品種である。“超強力”であるので、中力粉と混ぜることで、強力粉のように使える。このため産地と実需が連携しながら、道内での栽培面積が拡大していった。
ただ、「ゆめちから」にも弱みはある。それは、「農家が期待するほどに収量が取れない」ということ。収入を増やしたい農家にとっても、国産小麦をより求める製パン業者にとっても、収量が多い品種の到来は待ち遠しい。とはいえ一から品種を改良していてはその実現までに長い年月がかかる。
では、世に出ることのなかった品種の中に、実は優れた特性を持った小麦が眠っていることはないか。
そこに目を付けたのがヤマチュウである。同社は農研機構との協定による研究で、埋もれていた品種の中から「みのりのちから」を発掘した。しかも「ゆめちから」と比べると、同じく秋まきであることに加えて、収量は少なくとも10%増が期待できるという触れ込みだった。
期待以上の増収効果
ヤマチュウは同社に出荷する農家の集まりであるチホク会に「みのりのちから」の試験的な栽培を呼び掛けた。チホク会では道内の300戸以上の農家が計4000ha以上で小麦を作っている。加えて小麦のための巨大なサイロと調製施設も運営する。サイロは16本あり、1本当たりの容量は750tである。
「みのりのちから」を生産する呼び掛けに参加した農家によるこれまでの栽培面積は、2019年播種分が5ha、20年分が50ha。21年分については「さらに増える予定」(ヤマチュウ)だという。
注目すべきは反収だ。当初のふれこみでは「ゆめちから」と比べて少なくとも10%増だったことは先に触れた通り。だが、過去2年間は20%増となった。これには好天が関係している。
「特に2021年産の小麦は十勝史上で過去最高の出来でした」。
ただ、好天が影響したのは「ゆめちから」も同じ。山本専務はそれでも「みのりのちから」が好実績を挙げた理由について次のように語る。
「1穂の子実重量が「ゆめちから」に対しておおむね10~15%程度多い。だから、茎数管理と千粒重を高める栽培を施すことでさらに増収が期待できます。チホク会で作付けした農家からは当初の期待にたがわぬ評価を得ています」
「みのりのちから」の栽培における欠点はどうか。
「穂首一つ分草丈が長いので強いて言えば倒れる心配があること。ただ、何もしない畑でほんの一部で倒れたくらい。成長抑制剤を施用した畑では、全くなかったので、問題になるほどではないですね」(山本専務)
加工適性については次のように語る。
「正直にいうとゆめちからのミキシング(原材料の分散とパン生地をつくりこむこと)特性とは少し違うところがあります。ただ、これも使い手の工夫できっと馴染んでくるものと期待しています」
こう語る山本専務は、肝心の味については「おいしい」と言い切る。事実、帯広市に本社を置く製パン業者は高級食パンの原料として使い始めている。
実需者も利益を感じられる仕組みを模索する
加工適性と味についての評価は得ているので、あとは実需と相談しながら、増やしていくことになる。その際、産地が実需と今まで以上に良好な関係を築くうえで大事になるのが増収の利益をどう分け合うかだ。
山本専務は次のように語る。
「『みのりのちから』の普及拡大においては、需要の拡大と作付け拡大は両輪をなしています。優れた品種のメリットは、生産者と実需者が双方にとってメリットが感じられることが重要だと考えています。安定生産のために、安定的な需要を生み出したいと思っています」
ヤマチュウは作る農家を増やすうえで、社内では「フィールドマン」と呼ぶ営業職を配置している。その人員は本社に8人、支店に2~3人。彼ら彼女らは実需者とともに農家を訪ねて新品種の栽培を打診したり、その栽培法を伝えたりする。「みのりのちから」でもフィールドマンが重要な役割を果たしていく。
みのりのちから|農研機構
https://www.naro.affrc.go.jp/collab/breed/0100/0108/045668.html
株式会社山本忠信商店
https://www.yamachu-tokachi.co.jp/
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