岡山から石巻へ、1200kmを超えてつながるドローンの米栽培技術(後編)

東日本大震災により稲作を断念する農家が続出。宮城県石巻市でコメ農家を営む大内弘さんは、長男の竜太さんと、そうした田んぼの作業を請け負いながら栽培面積を増やし、気がつけば震災前は20haだった作付面積は現在64haにまで拡大したという。

前編では、大内さんが震災直後に海水の入り込んだ田んぼで何度も代掻き除塩を繰り返し、稲作を再開させたこと、さらに、石巻で農業用ドローンを普及させるため、被災地支援で出会った岡山の農家との縁で「産業用マルチローターオペレーター養成スクール」を開設し、ドローンを導入したことを紹介した。

今回は、ドローンを使った肥料散布とヨシ腐葉土、そして宮城県が玄米専用品種として開発した「金のいぶき」について紹介する。

左から順に、石巻市で「ヨシ腐葉土米」を栽培する大内産業の大内弘さん、息子の竜太さん、ドローン教習などを手がける岡山県鏡野町の福田農機株式会社の福田順也さん、美作市でお米を栽培する松本農産の松本政幸さん(撮影:三好かやの)

きめ細やかな施肥にも期待


この夏、震災後11年ぶりに作付けた田んぼは依然として一部に塩分が残り、生育がまばらな状況だった。そこに福田さんがやってきてドローンによるリモートセンシングを行い、撮影した葉色を解析。必要な追肥の量を算出し「ドローン専用肥料」の散布が行われた。

「11年ぶりに作付けした田んぼは、部分的に初期の生育障害を受けて、生長にムラが見られました」と福田さん。

前日に撮影した葉色に応じて必要な追肥の量を判断し、適正量を散布していく(撮影:三好かやの)
「T-20」は360度散布式のV2.0(海外モデル)を装着し、1.8haの圃場を4回飛行。15kgのドローン専用肥料を4袋分散布して作業を終えた。完全自動飛行で、葉色に応じて必要な肥料を散布する「可変施肥」を実現している。作業時間は詰め替えやバッテリーの交換も含め、1時間弱で終了した。

長年、稲作農家に農業機械と資材を提供してきた福田さんによれば、これまでの稲作は「元肥一発施肥」が一般的だったものの、以下のような問題点が見られたという。

  1. 近年の高温により、肥料が予定より早く溶け出し、株は伸びるものの、穂が出ない
  2. 樹脂コーティングの殻が、河川に流れ出てしまう
  3. 来年から肥料が急激に値上がりする
  4. 国の「みどりの食料システム戦略」により、化学肥料の使用量を減らさざるを得ない

こうした状況を踏まえて、今後は生育初期に通常の肥料、もしくは有機肥料を使う流れになっていくと考えられる。「ドローンによる可変施肥は、移植後必要な時期に必要な箇所だけ手軽にスピーディーに追肥できるので、低コストと品質向上、環境負荷の低減を同時に行えます。これからの稲作のベーシックな手法になっていくと思います」と福田さんは語る。


食味値の高い「ヨシ腐葉土米」


震災以来、除塩作業や規模拡大を余儀なくされながらも、米作りを続けてきた大内さんだが、震災後しばらくして「うちのコメが以前より美味くなっているのでは?」と感じたそうだ。

大内さんの作るコメは、主力の「ひとめぼれ」を中心に全部で7品種。すべて「ヨシ腐葉土米」という名で販売されている。

北上川の河口に広がるヨシ原の“ヨシ”は別名「葦(あし)」と呼ばれ、これが屋根材に使用されると「萱(かや)」と呼び名が変わる。昔から葦簀や茅葺屋根には、人の背丈を優に越え2m以上に生長するこの植物が使われてきた。

大内さんの水田近くのヨシ原。毎年冬になると刈り取り作業が行われる(撮影:三好かやの。2017年1月撮影)
「北上川のヨシは、伊勢神宮の屋根にも使われているんです」と大内さん。そんな由緒正しいヨシは、コメと同じイネ科の植物。とはいえ稲わらよりもずっと繊維質が硬く長く、その切り口は鋭く、やわな長靴で踏むと底が突き抜けるほどだ。

ヨシの先端や根元など使えない部分を積んで雨にさらし、時々切り返す。これを繰り返して3年ほど経つと真っ黒な堆肥になる。ヨシの茎は空洞なので、土に投じると適度な空間が生まれ通気性がよくなるのだという。大内さんは、震災前からこうして育てたコメを「ヨシ腐葉土米」と名付けて販売していた。当時から「食味がよい」と評判で、食味値は80点代後半をマークしていた。

震災が起きた翌年の2012年は、田んぼまで海水が入り込み、稲刈り直前まで生長したコメが真っ赤に立ち枯れてしまい、悔しい思いをした。当時は土中に残った塩分を除去することに腐心していたが、ある時から「コメが前より美味くなったのは、海のミネラルを適度に吸い上げているせいではないか」と考えるようになった。

そこで隣接する十三浜で水揚げされ、廃棄物として処分されていたワカメの芯を土に入れるようになった。こうして栽培した「ひとめぼれ」が、なんと食味値「96.2」をマーク。大内さん自身「こんな高得点、学校のテストで一度も取ったことがない」と驚いた。

ヨシの端材を切り返し3年かけて堆肥に熟成。これを田んぼに投入。「ヨシ腐葉土米」が生まれる(撮影:三好かやの)

期待&ニーズが高まる「金のいぶき」


7種の米を作る男、大内さん親子が、近年栽培を始めたのが「金のいぶき」というコメ。宮城県が開発した新品種で、全国的にも珍しい「玄米専用種」だ。

胚芽部分が通常の米の3倍と多く、GABAやビタミンE、食物繊維などの栄養素が豊富。でんぷんの一種であるアミロースの含有量が低いので、柔らかく粘りのある炊き上がりに。そして玄米炊飯の難点である、浸水時間が短く、通常の炊飯器で炊け 等の特徴がある。

「炊き上がるとプチプチした食感でおいしい。長時間水に漬けなくていいので、炊飯器の白米モードで炊けるんです。逆に玄米モードで炊くとまずくなるのでご注意ください」と弘さんの妻、恵さんが教えてくれた。

今、この「金のいぶき」への注目度が高まり、年々注文量が増えているそうだ。

食味の高さに定評のある「ヨシ腐葉土米」と、玄米専用品種「金のいぶき」(撮影:三好かやの)
全国の米産地では長らく白米ありきで育種が進み、その食味や食べやすさを強調してPR合戦を繰り広げてきたが、健康面を考え普段から玄米食を続けている人がいる。

また「調子の悪い時は玄米のおかゆを」とか、「カレーやチャーハンの時は玄米がいい」と、体調や調理法に合わせて使い分ける人もいる。栄養価が高く、炊きやすく、そして食べやすい。宮城県で生まれた「玄米専用品種」への期待も高まっている。

震災直後、大内さんは「もうここでコメは作れないかもしれない」と思ったそうだ。それでも除塩を繰り返し、ヨシの腐葉土を投入。循環型の栽培方法で確実に食味値を上げてきた。

大規模栽培を余儀なくされる中、岡山の松本さんや福田さんとの出会ったことで、ドローンによるセンシングやきめ細やかな防除、成長段階に合わせた可変施肥も可能になり、頼もしい新品種も加わった。

今回の可変施肥の実証を通して「石巻の広大な農地でのドローンによる可変施肥は、大きな可能性を秘めていると確信しました。ドローンの性能と活用方法は凄まじいスピードで進化していきます。これら技術を活用して、大内さんのこの地での農業への熱い思いを形にできるお手伝いを続けたい」と福田さん。松本さんも「宮城でも岡山でも、稲作の抱える課題は多い。これからも通い続けてともに技術を上げていきたい」と語っています。

圃場のセンシングを続ける、福田さんと竜太さん(撮影:三好かやの)
「これからは、植え付け前の元肥には有機質肥料。追肥には、有機の液肥もドローン散布を試してみたい」と大内さん。以前からドローンの存在は知っていたものの、導入に踏み切れずにいた竜太さんも「松本さんや福田さんが石巻に来て、実際に目の前でドローンを飛ばしていなかったら、我々はまだドローンを使っていなかったと思います」と話す。

大内さんと松本さんが出会って11年。福田さんが岡山でドローンスクールを開いて6年。岡山から石巻へ1200kmの距離を飛び越え生まれた繋がりがもたらした被災地の米作りは、ドローンによる栽培技術と、最新品種を取り入れながら進化を続けている。

SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。