農研機構が開発したスイートコーンの空撮画像+AIによる「収穫適期予測技術」とは?

高単価が期待できる作物として知られている青果用のスイートコーン栽培では、ほとんどの場合、一つ一つ人の目で適期を迎えたものを選び、手で収穫する。

しかし、北海道の加工用スイートコーンは違う。大規模栽培だから、圃場全体が適期を迎えた頃合いを見計らって、機械で一斉に収穫する。

大規模圃場でのスイートコーンの収穫では、この「頃合い」の判断が難しい。圃場全体の収穫適期に合わせることができず、歩留まりが下がってしまうことがある。また、収穫適期を判断するためにサンプリング作業を行うが、圃場が広いため少なからぬ手間がかかる。


画像提供:農研機構北海道農業研究センター
こうした加工用スイートコーンの収穫適期に関わる課題を解決するために、農研機構北海道農業研究センターが開発したのが、空撮画像のAI解析技術を活用したスイートコーン収穫適期予測技術だ。

今回の研究を担当した同センター寒地野菜水田作研究領域の研究員である大澤央さんと、領域長で研究責任者の保田浩さんに、開発の経緯やAI技術、他の作物への転用の可能性などについてうかがった。

農研機構北海道農業研究センターの大澤央さん(右)と保田浩さん(左)

収穫適期予測により、省力化・軽労化・計画的な収穫を実現


技術開発の経緯を説明してくれたのは、今回の研究を担当した大澤さん。一斉収穫する北海道ならではの、収穫後の品質低下を防ぐ目的があったという。

「北海道における加工用スイートコーンの栽培面積は約4500haと広大です。各農業生産者のスイートコーン圃場面積も10haや20haは当たり前なので、機械での一斉収穫が必須となります。

また、スイートコーンはそもそも、収穫後の品質低下が著しい作物として知られています。収穫を計画的に実施して、速やかに出荷したり、加工するのが望ましい作物です。

そこで北海道の加工用スイートコーンでは、収穫適期の予測が課題となっています。現在は圃場に人が入ってサンプリングを実施していますが、この作業が生産者にとって大きな負担となっています。

また、広大な圃場のなかの約10個のサンプルで圃場全体の適期を判断する、というのが技術的に難しい。判断ミスが原因となり、歩留まりが低下してしまう恐れがありました。適期を外れて収穫すると、未熟だと重さが減ってしまいますし、過熟では商品価値が下がってしまいます」

研究責任者の保田浩さんが、もう一つの課題を挙げた。

「現在のサンプリングに頼った収穫適期予測では、計画的な収穫ができない、という課題もありました。サンプリングして収穫日を決めることができるのは、収穫日の数日前になる場合もあり、収穫物を受け入れる加工工場の都合により収穫ができない、という事態すら起こりえました。

こうしたスイートコーンの収穫適期予測に関わる課題を解決するために開発したのが、空撮画像とAIによる収穫適期予測ツールです」


雄穂の色の変化から収穫適期をAIが予測


画像提供:農研機構北海道農業研究センター
開発した技術では、ドローンで撮影した空撮画像をAIに読み込ませて、収穫適期を予測する。言葉にすると簡単だが、開発にあたって一つの壁が存在した。これまでの適期予測のやり方ではAIによる判断が難しかったのだという。再び大澤さんの説明を聞いてみよう。

「スイートコーンの収穫適期は、絹糸で推定できることが知られています。ですから当初は、私たちも空撮画像で絹糸を見ようと試みたのですが、画像に映った絹糸を見つけるのが難しかったのです。

そこで雄穂が生育に応じて色が変わって行くことに着目して、雄穂を見ることにしました。雄穂は物体検出AIで高精度に解析できることから、空撮画像を読み込ませて、雄穂の開花段階をその色調から「未開花」「開花前期」「開花後期」の3段階で検出する①「開花段階推定ステップ」を設けることにしたのです。

画像提供:農研機構北海道農業研究センター
次の②「絹糸抽出日予測ステップ」で、前ステップの結果から絹糸抽出日を予測。次の③「収穫適期予測ステップ」では、圃場の位置情報から農研機構メッシュ農業気象データを取得して収穫適期を算出。この3ステップを経て予測収穫適期を出力する方法を開発しました」

空撮に使ったドローンは、DJI「Mavic Air 2」と「Mavic 2 Pro」という一般的な空撮用。高価なマルチスペクトルカメラを購入する必要なく、ドローン本体に付属するRGBカメラを使用できるところも、この技術の隠れたウリだ。

「今回の実証では1haの圃場を約5分間動画で撮影して、それを画像に切り出しました。フリーソフトの画像切り出し機能を使えば作業は簡単です。こうして切り出した画像は数百枚になり、1つの画像に雄穂が5~30個撮れていました。これだけ雄穂があれば、十分な予測精度が確保できます」

実証に協力してくれた農業生産者からも、「これまでの経験による収穫適期とAI予測に大きなずれはなく、十分な精度で予測できていると感じる」と評価してもらえたという。


将来的には他の品種への対応も


今後の実用化については、スイートコーンの開花期にあたる7月中旬から下旬が秋まき小麦の収穫作業と重なり忙しいことから、農業生産者自身が空撮するのは難しい、と大澤さんは語る。

そこで期待しているのは、スイートコーンの加工会社やJAなどの団体だ。開発した技術は収穫後の工程を効率化することにもつながるから、それは加工会社や生産者団体のメリットに直結する。これは需要がありそうだ。

また、「今回は『恵味スター』(めぐみスター)という品種で実証を行いましたが、今年度は他の品種でも実証を行い、社会実装に向けて開発を進めて行きます」と大澤さんは力を込めた。品種により分析できる雄穂の形や色も異なるため、そのままでの転用は難しいが、同様の方法で品種を拡大できる可能性は高いとのことだ。

興味を持たれた方はぜひ、農研機構北海道農業研究センター 研究推進部 研究推進室(広報チーム)までコンタクトしてほしい。


北海道農業研究センター
https://www.naro.go.jp/laboratory/harc/index.html
参考:農研機構, (研究成果)空撮画像のAI解析技術を活用してスイートコーン収穫適期を予測, https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/harc/162197.html


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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