AI生育診断アプリで気候変動に強い稲づくり! 感覚の世界をサポートする「Growth eye」の実力

2023年、夏場の高温や水不足によって全国的にお米の品質が低下したことは記憶に新しい。結果として、歩留まりの悪さからお米の流通量が減り、「令和の米騒動」と言われるお米の品薄状態の一因となった。生産者に限らず多くの人たちが気候変動による「地球沸騰時代」を強烈に実感する年だったと言えるだろう。

稲作の環境は毎年変化し、当然ながら稲もその環境に合わせて変化する。作り手がどんなに技術を磨いて経験を重ねても、ひとつひとつの判断が気候や天候に左右されるなど、稲作には不確定要素がつきものだ。

こうした中でも質・量ともにより良いお米を作るためには、適切なタイミングで手入れをする必要がある。その手助けとなり得るのが、株式会社NTTデータCCSが開発したAI水稲生育診断アプリ「Growth eye(グロースアイ)®️」だ。


中干しや追肥のタイミングを逃さない


Growth eyeを開発したNTTデータCCSソリューションビジネス推進室課長の岩澤紀生さん

「後戻りできない大事な時期を逃さない」。これがグロースアイの狙いだと、開発者であるソリューションビジネス推進室課長の岩澤紀生さんは説明する。

「米の品質と収量を高めるためには、初期生育からすべてのプロセスのタイミング管理が重要です。グロースアイは、稲が求める時期に、あるいは人間が求める形質を得るために、適切なタイミングを逃しません」

適期を逃すと品質や収量に影響する工程として岩澤さんが着目したのは「中干し」と「追肥」。このタイミングを知るためにグロースアイが教えてくれるのは、稲の「茎数」と「幼穂の分化開始」だ。

「追肥のタイミングが米の質と量を大きく左右します。その追肥を適期に行うには、適切な茎数コントロールが重要です」と岩澤さん。

従来は、中干しなどの時期を探るために田んぼで分げつしていく稲の茎数を数えたが、分げつが増えてくるにつれ、数えるのに時間がかかる。作付けしている田んぼの枚数が多いほど、その手間は負担になっていく。

また、追肥の時期を探るためにはカッターなどで茎を縦に切り開いて幼穂を調べるのが一般的だが、「正確には、人間の目では2ミリが限界」と岩澤さん。つまり、幼穂が見えたころには生育ステージはすでに幼穂形成期に移り、追肥のタイミングが迫っている。

そこで、グロースアイを活用すれば、茎数を数えなくても、茎を剥かなくても、茎数や目に見えない幼穂の「分化開始」がわかり、中干しと追肥の適期を逃さないというわけだ。


使い方はスマホで稲を撮影するだけ


茎数を知るためには、アプリを開いて稲株の真上からスマホのカメラで撮影するだけ。すると、AIが茎数を判別してくれる。個体差もあるので、5〜10株ほど撮影したら、その平均茎数を参考に中干しの開始時期を決めればいい。

稲株の真上にカメラを構え、中央1株の葉身が点線の丸枠にぴったり収まるように撮影。隣の株が映り込んでも判定に影響はないという
AIが現在の茎数を判別する
幼穂の分化開始を知るためには、アプリを開いて田植え機が走った向きにカメラを構え、画面上の縦横のラインが合うように傾きを調整すると、自動でシャッターが切れる。すると、AIが「分げつ期」「幼穂分化期」「減数分裂期」「登熟期」の中から現在の生育ステージを教えてくれるので、その結果に応じて追肥などの計画を立てることができるというわけだ。

畔に立ち、水面から150cmくらいの高さから田植え機が走った向きにカメラを構え、画面上のタテヨコのガイドラインが重なるように傾きを調整する。両方のラインが合うと、自動でシャッターが切れる
AIが現在の生育ステージを判定する
近年は高温によって生育が早まる傾向にあるため、「気づいたら適期を逃していた」ということになりかねないが、グロースアイを使えば、イレギュラーな気候下でも前もって作業の見通しを立てることができる。

AIに学習させるデータは2017年から集め始め、2024年で7年目。現在は東北から九州まで約30地域の田んぼに計約80台のカメラを設置して、1時間置きに撮影を続け、データを蓄積し続けている。

データ量の増加とともにAIの判別精度は上がってきているそうで、2023年はベテランの稲作農家にとっても異例の高温に見舞われた年だったが、AIは異常気象にも適応して高精度で判別できた。適切なタイミング管理は「高温障害」にも有効だろう。

AIの精度は全国平均で、茎数判別誤差が2本以内、生育ステージ判定誤差が2日以内だったという(2023年度検証結果)。2021年からサービスを開始して、2024年10月現在で全国4000ユーザーが利用している。


地域ブランド米の品質向上にも


地域によって気候や土壌は違い、農家によって品種も違う。しかしながら、なぜ全国各地の多様な品種を判別できるのだろうか。

その答えは「教師データ(画像などのデータと対をなす正解データのセット)の量と質」と「稲の生理的な変化点」を判別しているからだと岩澤さんは説明する。

「公設試験場や農家さんのご協力のもと、現場をつぶさに観察しながらデータ収集を行ってきました。この良質な1次データがAIの精度を支えています。さらにもう一つ重要なのは、稲であれば必ず通過する生理的な現象、すなわち地域や品種に左右されない普遍的な指標を、AIがとらえられるように学習させていることです」

特に、外からは直接見えない「幼穂の分化開始」を簡易な方法でどのように判断するかという問題に対して、AI開発の構想当初から、その時期特有の稲の外形変化に着目してきたという。

岩澤さんによると、幼穂分化のタイミングで稲の「姿勢」が変わる。具体的には、それまでひらひらとしていた葉がピンと立つ。そのタイミングを学習したAIは、稲の生育ステージを見事に判別してくれるというわけだ。

北海道は気候も品種も本州とは異なるため今のところは例外だが、その他の地域では全国どこでも活用できる。汎用性が高い一方で、品種や地域を限定してAIを追加チューニングすることで、自治体やJAがwebアプリ「Growth eye Board™(グロースアイボード)」で地域のグロースアイユーザーの情報を集約・可視化・分析して生育状況に応じた営農指導をすることができるなど、地域ブランド米の栽培管理にも活用されているという。

岩澤さんは大学卒業後、農研機構や茨城県農業総合センターで一貫して稲を研究してきた後、稲作にAIを活用するため現職に就いた。

稲の研究者を志したきっかけは、子どものころに専業農家の母親の実家で、「腰が曲がってるのに僕よりも田植えや稲刈りが早くて、までい(丁寧)でお茶目で元気な明るいおばあさん」(岩澤さん)が、「農家をやっていて何もいいことなかった」とつぶやいたひとこと。

「戦後の食糧難を支えてきた人たちにそんなこと言わせるって、やっぱり何か間違っていると思ったんです。だから、農家に『お米を作っていてよかった』と言ってもらえるものを作りたかった」という岩澤さんの想いがグロースアイの開発に結実した。

年度内には「収穫適期」のステージも導入される予定で、稲刈り適期を見極める参考にできる。猛暑の年には積算温度を少なめに設定しておいて刈り遅れを防ぐなど、使い方次第で稲作の頼もしい右腕になりそうだ。


NTTデータCCS
https://www.nttdata-ccs.co.jp/
アプリ「Growth eye Field」
App Store:https://apps.apple.com/jp/app/growth-eye-field/id6499353910
Google Play:https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.nttdata_ccs.gef&hl=es_CL
水稲画像解析AIソリューション|NTTデータCCS
https://www.nttdata-ccs.co.jp/solution/suitou.html

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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