【話題のニュース】 「農地の2割の所有者が不明」な理由とは? 失われていく日本の農業の課題
国会で話題となった「農地の約2割(約103万ヘクタール)が所有者不明、またはその恐れがある」という問題は、日本の農業の維持に関わる深刻な課題です。
2026年5月の参議院決算委員会で、相続未登記農地や所有者不明農地の問題が取り上げられました。農林水産省が2021年(令和3年)度に実施した「相続未登記農地等の実態調査」によると、全国の農地のうち、登記名義人が死亡していることが確認された相続未登記農地は約52万ヘクタール、相続未登記のおそれのある農地は約50万9000ヘクタール存在し、合計すると全農地面積の約2割に上るとされました。
2024年(令和6年)度の調査結果では、相続未登記農地の面積は、2.3万ヘクタール減少して49万7000ヘクタールとなりましたが、全農地面積の約1割となっています。
なぜこれほど多くの農地で持ち主がわからなくなっているのか。その背景には「負の資産化」と「法制度の不備」という2つの大きな側面があるようです。

最大の原因は「相続登記」が長年放置されてきたことです。
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際、その名義を亡くなった人から相続人に書き換える手続きのことです。これまで登記申請は任意とされてきましたが、不動産登記法の改正により、2024年4月から義務化されました。正当な理由なく、相続を知った日から3年以内に登記をしない場合、10万円以下の過料(ペナルティ)が科される可能性があります。
しかし、実際には多くの農地で登記されていないという現実があります。その理由は以下のとおりです。
かつて土地は貴重な資産でしたが、過疎化や高齢化が進む地方の農地は、今や「売れない・貸せない・維持費(税金や草刈り)だけかかる」という負の資産になりつつあります。そのため、わざわざ数万円〜数十万円かかる登記費用を払ってまで、名義を変更するメリットを感じない人が増えてしまいました。
登記を放置したまま2代、3代と相続が発生すると、法定相続人がどんどん増えていきます。
農地の相続は、通常の売買とは異なり農業委員会の許可は不要ですが、代わりに農業委員会への届出(農地法第3条の3)が義務付けられています。また、遺産分割協議がまとまらないまま放置されると、法律上は相続人全員の「共有状態」となります。
そのため、例えば祖父の名義のまま30年放置した結果、孫の代にはいとこやその子どもなど複数の共有者が発生し、売却や貸し出しの際に関係者全員の確認や調整が必要になるケースがあります。遠方に住んでいたり、連絡先がわからなくなったりして、手続きが事実上進められなくなることも少なくありません。
このような事態を解消するため、近年の法改正では、共有者の一部が不明であっても裁判所の決定等を経て土地を利用可能にする仕組みや、登記手続きを簡略化する「法定相続情報証明制度」の活用などが推奨されています。
農家の子どもとして家を継がずに都市部へ出てサラリーマンになり、親が亡くなった後も農地だけ相続する「土地持ち非農家」が増えました。彼らはしっかり相続はしていますが、農地への愛着や知識が薄く、管理が疎かになりがちです。結果的に誰にも見向きもされなくなった農地が、有効活用されないまま放置されてしまう、ということにもなっているのです。
「誰のものかわからないなら、国なり自治体なりが管理してしまえばいいのでは?」と思われるかもしれませんが、日本の法律ではそう簡単ではありません。どうにもならないまま放置された結果、近隣住民に対してさまざまなトラブルも起きています。
担い手農家に農地を集約したくても、所有者や相続人の確認に時間がかかり、正式な貸借契約を結ぶまでに手間がかかります。近年は、所有者不明の農地でも「農地バンク」経由で貸し出せる制度が整備されていますが、通常の農地に比べて手続きは複雑です。
災害復旧工事や道路整備をしようにも、用地買収の交渉相手がいないという事態にも陥ってしまいます。そのため、たった1区画がわからないだけで作業がストップしてしまうというケースも聞かれます。
管理されない農地が荒れ果てて耕作放棄地になると、害獣の住処になったり雑草が飛散したりしても、苦情を言う相手さえ不明になります。所有者がわからなければ、管理を求める相手を探すこと自体にも時間がかかってしまいます。
こうした状況を受けて、政府は、所有者不明土地や相続未登記農地の増加を防ぐため、ここ数年で以下のような制度改正を次々と行っています。

「農地の2割の所有者が不明」という現状は、日本の地方から土地の価値が失われつつある構造的な問題の現れです。国会では、これ以上不明地を増やさないための「義務化」と、すでに不明になった土地を動かすための「特例措置」の両輪で議論が進められています。
相続したまま放置している農地がある場合、まずは地域の「農地中間管理機構(農地バンク)」に相談し、借り手を探すことを検討してください。また、どうしても管理が難しい場合は、自己のために相続が始まったことを知った時から3カ月以内であれば家庭裁判所での「相続放棄」という手段もあります。ただし、農地だけを選んで放棄することはできず、すべての相続を放棄する必要があるため、慎重な判断が必要です。
先祖代々の土地を守る、地域の農業を絶やさないようにしたい、と考えている方々もたくさんいます。そして、こうした社会の変化は、何年も前から予想されていたことでもあったはずです。米不足や価格高騰といった消費者の目に見える形になる前に、生産者を守り、農業を支える政策が求められています。
担い手の高齢化も社会課題のように捉えられがちですが、高齢の方々が年齢を重ねながらも頑張ってこられたからこそ、日本の農業が守られてきたとも言えます。結果として耕作放棄地にせざるを得なかった方々の思いを、農業に意欲のある方々が引き継ぎやすくなるような制度も含めて、今後はより柔軟な考え方も必要になっていくでしょう。
参考資料
農林水産省「令和3年度 相続未登記農地等の実態調査」
農林水産省「農地の所有者不明化等に関する実態調査」
法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」
農林水産省「農地中間管理機構(農地バンク)について」
法務省「相続土地国庫帰属制度について」
2026年5月の参議院決算委員会で、相続未登記農地や所有者不明農地の問題が取り上げられました。農林水産省が2021年(令和3年)度に実施した「相続未登記農地等の実態調査」によると、全国の農地のうち、登記名義人が死亡していることが確認された相続未登記農地は約52万ヘクタール、相続未登記のおそれのある農地は約50万9000ヘクタール存在し、合計すると全農地面積の約2割に上るとされました。
2024年(令和6年)度の調査結果では、相続未登記農地の面積は、2.3万ヘクタール減少して49万7000ヘクタールとなりましたが、全農地面積の約1割となっています。
なぜこれほど多くの農地で持ち主がわからなくなっているのか。その背景には「負の資産化」と「法制度の不備」という2つの大きな側面があるようです。
なぜ農地が「所有者不明」になるのか?
最大の原因は「相続登記」が長年放置されてきたことです。
相続登記とは
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際、その名義を亡くなった人から相続人に書き換える手続きのことです。これまで登記申請は任意とされてきましたが、不動産登記法の改正により、2024年4月から義務化されました。正当な理由なく、相続を知った日から3年以内に登記をしない場合、10万円以下の過料(ペナルティ)が科される可能性があります。
しかし、実際には多くの農地で登記されていないという現実があります。その理由は以下のとおりです。
(1)農地自体の資産価値の低下(登記するメリットがない)
かつて土地は貴重な資産でしたが、過疎化や高齢化が進む地方の農地は、今や「売れない・貸せない・維持費(税金や草刈り)だけかかる」という負の資産になりつつあります。そのため、わざわざ数万円〜数十万円かかる登記費用を払ってまで、名義を変更するメリットを感じない人が増えてしまいました。
(2)相続手続きの複雑化
登記を放置したまま2代、3代と相続が発生すると、法定相続人がどんどん増えていきます。
農地の相続は、通常の売買とは異なり農業委員会の許可は不要ですが、代わりに農業委員会への届出(農地法第3条の3)が義務付けられています。また、遺産分割協議がまとまらないまま放置されると、法律上は相続人全員の「共有状態」となります。
そのため、例えば祖父の名義のまま30年放置した結果、孫の代にはいとこやその子どもなど複数の共有者が発生し、売却や貸し出しの際に関係者全員の確認や調整が必要になるケースがあります。遠方に住んでいたり、連絡先がわからなくなったりして、手続きが事実上進められなくなることも少なくありません。
このような事態を解消するため、近年の法改正では、共有者の一部が不明であっても裁判所の決定等を経て土地を利用可能にする仕組みや、登記手続きを簡略化する「法定相続情報証明制度」の活用などが推奨されています。
(3)土地持ち非農家の増加
農家の子どもとして家を継がずに都市部へ出てサラリーマンになり、親が亡くなった後も農地だけ相続する「土地持ち非農家」が増えました。彼らはしっかり相続はしていますが、農地への愛着や知識が薄く、管理が疎かになりがちです。結果的に誰にも見向きもされなくなった農地が、有効活用されないまま放置されてしまう、ということにもなっているのです。
所有者不明だと何が困るのか?
「誰のものかわからないなら、国なり自治体なりが管理してしまえばいいのでは?」と思われるかもしれませんが、日本の法律ではそう簡単ではありません。どうにもならないまま放置された結果、近隣住民に対してさまざまなトラブルも起きています。
農地の貸し借りが進みにくい制度上の問題
担い手農家に農地を集約したくても、所有者や相続人の確認に時間がかかり、正式な貸借契約を結ぶまでに手間がかかります。近年は、所有者不明の農地でも「農地バンク」経由で貸し出せる制度が整備されていますが、通常の農地に比べて手続きは複雑です。
公共事業が進まない
災害復旧工事や道路整備をしようにも、用地買収の交渉相手がいないという事態にも陥ってしまいます。そのため、たった1区画がわからないだけで作業がストップしてしまうというケースも聞かれます。
周囲への迷惑
管理されない農地が荒れ果てて耕作放棄地になると、害獣の住処になったり雑草が飛散したりしても、苦情を言う相手さえ不明になります。所有者がわからなければ、管理を求める相手を探すこと自体にも時間がかかってしまいます。
現在進められている主な対策
こうした状況を受けて、政府は、所有者不明土地や相続未登記農地の増加を防ぐため、ここ数年で以下のような制度改正を次々と行っています。
未来の農地を守るためにできること
「農地の2割の所有者が不明」という現状は、日本の地方から土地の価値が失われつつある構造的な問題の現れです。国会では、これ以上不明地を増やさないための「義務化」と、すでに不明になった土地を動かすための「特例措置」の両輪で議論が進められています。
相続したまま放置している農地がある場合、まずは地域の「農地中間管理機構(農地バンク)」に相談し、借り手を探すことを検討してください。また、どうしても管理が難しい場合は、自己のために相続が始まったことを知った時から3カ月以内であれば家庭裁判所での「相続放棄」という手段もあります。ただし、農地だけを選んで放棄することはできず、すべての相続を放棄する必要があるため、慎重な判断が必要です。
先祖代々の土地を守る、地域の農業を絶やさないようにしたい、と考えている方々もたくさんいます。そして、こうした社会の変化は、何年も前から予想されていたことでもあったはずです。米不足や価格高騰といった消費者の目に見える形になる前に、生産者を守り、農業を支える政策が求められています。
担い手の高齢化も社会課題のように捉えられがちですが、高齢の方々が年齢を重ねながらも頑張ってこられたからこそ、日本の農業が守られてきたとも言えます。結果として耕作放棄地にせざるを得なかった方々の思いを、農業に意欲のある方々が引き継ぎやすくなるような制度も含めて、今後はより柔軟な考え方も必要になっていくでしょう。
参考資料
農林水産省「令和3年度 相続未登記農地等の実態調査」
農林水産省「農地の所有者不明化等に関する実態調査」
法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」
農林水産省「農地中間管理機構(農地バンク)について」
法務省「相続土地国庫帰属制度について」
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