農機も資材も農作業もシェアリングの時代へ【特別対談・菅谷俊二氏×奥原正明氏(2)】

2019年5月に株式会社オプティムのエグゼクティブアドバイザーに就任した奥原正明氏と、株式会社オプティムの菅谷俊二社長との対談企画。

第2回は、スマート農業普及のために奥原氏が推し進めてきた農政改革の骨子とその目的について伺った。

第1回:日本の農業の未来のために、いま私たちが考えるべきこと【特別対談・ 菅谷俊二氏×奥原正明氏(1)】

スマート農業の普及には農地の集積・集約化がカギ

編集部:未来志向のお話になってきましたが、先を見るということで言いますと、奥原さんが農林水産事務次官として挑んだ農政改革というのはまさに、10年前に現在の農政を予測して取り組んでこられたものだと思います。ご自身で関わった改革のなかで、一番印象的だったのはどんなものですか?

奥原:一番大事なのは「農地バンク」、農地の問題なんです。これはスマート農業と直結する話ですから。先端技術を使うといったって、農地がまとまった面積で使えなくては全く意味がないわけです。


最近は大規模な農家がかなり増えてきていて、100ヘクタール規模のところも結構ありますが、圃場の枚数で言ったら100ヘクタールだと数百枚から1000枚くらい、というくらいになってしまっています。しかも、圃場が点在しているから、トラクターを稼働させるとしても毎回道路に引き上げて車で運んでいって、また別のところで下ろす、というようなことをしています。まとまった面積を使えるようにならない限り、生産性は全く上がらないんですね。

だから、農地バンクを活用して、まとまった面積を使えるようにすることが一番大事だと思っているわけです。これが根幹だと思います。

編集部:技術で農業の課題を解決しようとされている菅谷さんの立場からは、この農地の問題はどうお考えですか?

菅谷:もちろん、農地は本当に大きな課題ですね。奥原さんを中心に農政改革を進めていただきましたが、やはり農業というものは合理的にはなかなか解決できないことが多い。普通の産業に比べて、単純にこう改善すれば合理的になると思えるものがコントロールできない、ということが多すぎますよね。

そもそも自然を相手にしていますし、かつ先ほどからお話しされているような人対人という意味でもコントロールできないことがありますし。

編集部:そういう意味では、オプティムが取り組んでいる「ピンポイント農薬散布テクノロジー」というのは、広範囲の中でもそのポイントだけに施せばいいわけですよね。飛び地が点在する今の日本の状態にはマッチするソリューションなのかなとも思いますが……。

菅谷:いえ、飛び地となるとドローンも結局は(飛ばす場所まで)運ばないといけないですからね。圃場がまとまった方がピンポイント散布の効果も発揮できます。

奥原:農地が何カ所かに分かれていても、それぞれの個所がまとまった面積なら、ドローンを使おうという発想になるのだと思います。


AIを用いて土地の集積・集約化を進める

編集部:おふたりとも、農地の問題の解決がスマート農業を進める上でもっとも重要という点は共通しているのですが、この農地の課題に対してテクノロジーができること、というのは考えられるのでしょうか?

奥原
:農地バンクの仕組みそのものを、AIを使ってもっと活性化させることも、私はできると思っています。

農地バンクを作る時、「全国農地ナビ」というシステムも作っていて、パソコンで全国の農地の状態を見られるようになっているんです。これからは、どの農地を誰が利用すれば、地域全体の発展につながる合理的な土地利用になるかを、AIを使って整理して、それをもとに地域で話し合っていくというやり方もあると思います。

出典:全国農地ナビ(https://www.alis-ac.jp/

編集部:確かにそういうAIの使い方も考えられますね。奥原さんは農地集約について、農家さんともいろいろ意見交換されたと思うのですが、農地の集積・集約化が進まない一番の問題は何でしょうか?

奥原:やっぱり、高齢化しても自分の土地に対する執着が強く、農地を出したくないといった話ですね。

農地バンクを作った時に、市町村に農家に対してアンケート調査をやってもらったんです。「10年後のこの地域の農業はどうなりますか」「担い手はいますか」「耕作放棄地は増えますか」といった話を伺うと、「10年後は担い手がいないから、耕作放棄地が増えます」という答えが多かった。

もう一つ、「では、あなたの経営は10年後どうなりますか」と聞いたんです。そうするとほとんどの人が「自分の経営は今と同じ」という答えだったんです。

つまり、担い手は減って耕作放棄地は増えるけれども、自分自身は同じことをやり続けられるとみんなが思っているわけです。まずは、この自分だけは絶対に変わらないと思っているというところを変えないといけません。

ここの総論と各論をいかに一致させるかということが大事で、毎年市町村と農業委員会が中心になって地域の話し合いをしてほしいとずっと言い続けてきたんです。それをやり続けていると、みんな1年経ったら年を取っていき、だんだん体も動きづらくなっていく。互いにそういう姿を見ていると、真面目に自分の農地をどうするか、考えなければいけなくなる。これがいつブレイクスルーするか、なんですよね。もうすぐそこまで来ているはずなんですけど、これができていないと耕作放棄地だらけになると思います。

編集部:地域によっては、農家の中のリーダーがうまくまとめている成功事例もたくさんありますが……。

奥原:地域の中で走り回るような人がいれば動き始めます。一つの方法として、まずその地域の農地をみんなでいったん農地バンクに預けてしまって、とりあえずいま使っている圃場を農地バンクから転貸を受けて耕作する、という方法もあります。

これなら実態は何も変わりませんが、もし自分の体が動かなくなったら、農地バンクに圃場は貸してある状態なので、農地バンクは別の人に転貸する。こうすれば、耕作放棄地にならない方法がちゃんと確立できるし、農家自身は何も困らない。こういうことを、それぞれの地域で話し合って地道にやるしかないんです。その一助として、AIなどを使ってうまい農地転貸の地域割りが提示できれば、もっと農地バンクの活用も進むかもしれませんよね。

それと、スマート農業に取り組もうとしている企業にも、こういった農地の問題にもっと関心を持っていただきたいんです。そこが進まないと、スマート農業の普及だってうまくいかないんですよ。農業をもっと儲かる産業にしていかないと、ドローンなどの機械を売りたくても農家がその代金を払えないわけですから。だから、農政改革にももっと企業に関心を持っていただいて、後押ししてもらうことが必要です。その相乗効果でスマート農業が発展していくと思うんです。


農機具と農作業はシェアリングの時代になる

編集部:奥原さんのお話を受けて、そんなスマート農業で農業界に参入した企業側である菅谷さんとしては、何か農業分野に活かせるアイデアなどはございますか?

菅谷:現状の環境の中で考えるのであれば、「農作業のサービス化」と「農機具のシェアリング化」ですね。この2つはITがバックボーンになって支えていくものとして、非常に有効じゃないかと思います。

我々も「Drone Connect」などで実践していますが、農薬散布業務を請け負うドローンパイロット側としては、まとまったオーダーを受けられれば“バーチャルに大きな農地”で業務ができるようになり、パイロットとしてもコスト低減が効くようになりますよね。それによって、生産者の方も作業や機材のコストが低減できます。

また、トラクターなどもシェアリングできるようになれば、その分生産者の方の利益は出るようになるはずです。

そういったことを前提として機械を開発する時代にしていかないと。農機具で米作の原価の3割くらいを占めますからね。我々のようなスマート農業に取り組む企業側が、生産者に補助金を活用してもらいながら機械を販売していくだけでは、結局生産者もいつまでも儲からない構造にしかなりません。そういったコストの部分をテクノロジーで最大限効率化していけるように目指していきたいですね。


奥原:これからは世の中たいていのものがシェアリングの方向に向かうんですよね。SDGsの取り組みなども結局は、資源の話と経済成長の話を両立させる社会にしていかなきゃ、という発想ですから。今までは機械を作って、売って、壊れたらゴミになる……という流れでしたが、これからは、メーカーもそのようなやり方では、世の中の批判に耐えられなくなっていきます。下手をすれば、市場から退場させられるかもしれません。

ある会社が自分の商品を海外に輸出しようとしたら、海外のバイヤーが日本に来て調査したというんです。何を聞かれるのかと思ったら、「この製品を作る時の電力の元は何ですか? 原子力ですか? 石油ですか? 自然エネルギーじゃないんですか?」と聞かれた、という話まで出てきているんです。こうなっていくのは時間の問題だと思います。

日本でのSDGsというのは「いいことだからみんな付き合おうね」というような、CSR的な雰囲気ですが、SDGsはヨーロッパからスタートしているので、漁業などは典型的ですが、そのうち規制になりますよ。今から本気で考えなければならないと思います。

ですから、モノや機械を売るのではなく、一番性能のいいものを作って、これをレンタルしてフィーをもらうサブスクリプション方式に変わっていくと思います。いま製造業のメーカーはどんどんそういう話に移行しているんですよね。この方式のほうが、メンテナンスをメーカーが行って、一番性能のいい状態を維持できるというメリットもありますし、資源をたくさん使わなくて済みます。

農業もレンタル方式でやるという話は、これから普及しそうですよね。個々の生産者がそれぞれいろいろな農機やドローンを所有する、という話にはならないんじゃないかと思います。

菅谷:我々は農業に限らず様々な産業も手がけていますが、すべてがそのような方向に向かっています。20世紀型の大量生産、大量消費強要を前提としたビジネスモデルからの脱却が必要です。恐竜が絶滅したように、製造業に依存してきた日本は非常に危ういと思います。モノを売って売上を出すという構造から逃れられていないので、いかに数を売るかということを考えているんです。

ところが、そもそもそれほどモノの数はいらなくて、サブスクリプションによって利益を大きくして安定した経営ができればいい。なのに、そのビジネスモデルのチェンジがおそらくできない。そのため、圧倒的に後発の新規参入企業が有利です。

株式市場も変わっていかないといけないですが、前年度より売り上げを伸ばしてくれ、ということを考えているので、もう農機具メーカーにしてもどこにしても、売上を伸ばすには数を売るしかない。だから、農水省には補助金を出してもらい、なんとか販売するというモデルにしかならないんです。利益は非常に薄利でリスクも大きいにもかかわらず、そのモデルから逃れられない。

また、SDGsのお話は全くおっしゃるとおりです。SDGsに対する取り組みを実施する、という発想ではなく、企業そのものがSDGsを前提とした経営、ビジネスモデルを持たないといけないと考えています。すなわち、必要な時に、必要なモノを、必要なだけ、利用できる環境を整えることです。

我々がシェアリングサービスでマーケットに入っていこうとしているのは、それが大きな理由です。

奥原:それは極めて正しいと思います。特に農業みたいに経営主体が多い産業では、全員が機械を買っていたらトータルのコストがすごいことになりますよね。これが、農業者がもっとまとまって大きな法人になれば機械も少なくて済みますが、そうでなければ、シェアリングが有力な選択肢になると思います。

編集部:確かに、個人的に農家の友達から、親が借金をしてトラクターを買い、その借金を返すために20年くらい働いた、というようなことを聞いたことがあり、子供心にそういうものなのかと思っていました。

奥原:農家で1億円、2億円という借金がある方もいますからね。もっと巨額の設備投資をしている例もあります。だから、いい経営をしていても、息子さんがこんな借金を負いたくないから後を継がない、ということもあるんです。そこの負担も軽減してあげないといけませんよね。

機械や施設を所有するのでなく、料金を払って利用する方式に変えれば、農業経営者の負担はものすごく軽くなります。

編集部:著書の中で奥原さんは、農業者の経営者としての側面を重視されているように思いますが、まだまだ個人経営の農家さんもたくさんおられます。

奥原:今までの日本の農業者というのは、経営者でかつ作業員でもあるというモデルなんです。でもそうである必要は全然ないんですよ。経営能力の高い経営者がいれば、その人のもとで農作業をする人がたくさんいる、という形態でも問題ないわけですね。

むしろ、販売のノウハウなんて持っていないけど、栽培技術はものすごく高いという方には、職員として携わってもらった方がその人の能力が活かせて楽しく仕事ができるかもしれない。これまでも、販売までやれと言われても無理だから、農協に頼んで売ってもらっていたという人が多いと思います。農協に高く販売する力がなければ、経営能力のある農業経営者と組むことを考えるのは当然です。

だから、経営と農作業とを切り分けて考えるのが、未来の農業の1つのポイントだと思います。


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WRITER LIST

  1. かくやさゆり
    サンマルツァーノトマトに出会い家庭菜園を始めた半農半ライター。農業、食、アウトドアを中心にライターとして活動中。主に固定種の野菜を育てています。
  2. 川島礼二郎
    川島礼二郎(かわしまれいじろう)。1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  3. 蒼井ネコ
    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
  4. 杉山直生
    すぎやまなおき。1988年生まれ。愛知県で有機農業を本業として営む。「伝えられる農家」を目指して執筆業を勉強中。目標は、ひとりでも多くの人に「畑にあそびに行く」という選択肢を持ってもらうこと。「とるたべる」という屋号で、日々畑と奮闘中。
  5. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。