農家が知っておきたい「特定技能制度」のポイント

農林水産省が発表した「2020年農林業センサス」の調査結果によると、現在の基幹的農業従事者は136万人ほどと5年前の前回調査から約39万人減少。高齢化が大きく影響しているという。この調査結果からもわかるように、日本の農業の人手不足が深刻化し、国内の労働力では賄うことができなくなっているという現状があるため、外国人労働者の雇用が進んでいる。

ただ、外国人が日本で働く場合には就労が認められている「在留資格」を持たなくてはならない。これまで農業分野においての在留資格といえば「技能実習」が主であったが、劣悪な労働環境や外国人の失踪などがたびたび話題になったりと制度的な問題点があるのも事実。

そんな中、人材確保を強化するために2019年4月1日より、新しい在留資格として「特定技能」が施行された。この記事では、これからさらに必要性がましていくであろう、外国人が特定技能労働者として認定されるための要件や、受け入れ機関に必要な環境整備などについてまとめてみた。



農業分野における特定技能制度とは

特定技能が適用される分野は、「特定産業分野」と呼ばれる人手不足が深刻化している14の産業が対象となっていて、認定されるためには試験に合格するなどいくつかの要件を満たす必要がある(2020年12月現在)。

その14の産業は以下の通り。「農業」もこのうちのひとつであり、農水省が管轄している。
  • 介護
  • ビルクリーニング
  • 素形材産業
  • 産業機械製造業
  • 産業機械製造業
  • 建設業
  • 造船・舶用業
  • 自動車整備業
  • 航空業
  • 宿泊業
  • 農業
  • 漁業
  • 飲食料品製造業
  • 外食業

では、外国人が農業分野で特定技能労働者として在留資格を得るために、どんなプロセスを踏んでいるのだろうか。

特定技能人材としての認定要件

特定技能に認定されるためには基本的に、「農業技能測定試験」と「日本語基礎テスト」を受けることが必要だ。そして農業分野の技能測定試験では、「耕種農業」と「畜産農業」の2種類がありどちらかを選択して試験を受けることになる。

農業技能測定試験の詳細:https://asat-nca.jp/
日本語基礎テストの詳細:https://www.jpf.go.jp/jft-basic/

また、技能実習2号(2年目以降の技能実習生)を修了した外国人については、「農業技能測定試験」、「日本語基礎テスト」が免除となり、現在日本に在留している場合は在留資格変更許可申請を技能実習終了後2か月前に行うことで特定技能1号へ移行することができるので、帰国せずに継続して働いてもらうことができる。

技能実習生として受け入れていた人材で現在は母国に帰国しているという状態であれば、雇用契約を締結後、在留資格認定証明書の交付申請が必要。


特定技能で従事可能となる業務

農業分野で特定技能として認定された場合、「耕種農業」の試験に合格した者は耕種農業に関わる作業全般、「畜産農業」の試験を合格した者は畜産農業に関わる作業全般の業務に関わる作業に従事することができる。

例えば、農畜産作物を利用して加工品を作っている事業者の下で働いている外国人であれば、その加工品の製造業務、運搬、販売に携わることも可能となっている。しかしメインの作業は耕種農業であれば栽培管理、畜産農業であれば飼養管理でなくてはならないため、加工品の製造だけを行うなど管理以外の業務のみに従事させることはできないので注意しよう。

また、農村地域の特性や事情を考慮して関連業務の範囲は柔軟に対応できるとあるため、豪雪地帯などで必要であれば雪かきなどの作業に従事することもできるのだ。

「技能実習生」は途上国への技能移転が目的

特定技能と技能実習の明確な違いは、制度における考え方の違いにある。

「技能実習制度」は開発途上国の人が日本の実習で身に付けた技術を母国で広めてもらう「技能移転」を目的としている。一方、「特定技能制度」は人手不足が深刻となっている産業に対して人材を補うことが目的という考え方だ。

また、技能実習ではあくまで就労ではなく「実習」目的のため、在留期間中に帰国や転職を行うことはできないが、特定技能は就労資格なので、雇用期間が修了した場合など同一の職種であれば転職もでき、農閑期には一度帰国してまた忙しい時期に来てもらうといったこともできる。柔軟な働き方が可能になったことは、従事したいと望んでいる外国人材にとっても、柔軟なタイミングで手伝ってほしい受け入れ機関にとってもメリットではないだろうか。

受け入れ側に求められる環境整備

特定技能制度を利用して外国人を雇いたいという場合、受け入れ機関である農業事業者は職場や生活環境を整え、仕事はもちろん日常生活も安心して過ごせるよう、さまざまなサポートが必要になってくる。

外国人を受け入れるための基準

  1. 報酬が日本人と同等であるなど外国人との雇用契約が適切であるか
  2. 5年以内に出入国・労働法令違反がないなど受け入れ機関自体が適切であるか
  3. 外国人が理解できる言語で接するなど支援する体制があるか
  4. 生活環境など外国人を支援する計画が適切か

受け入れ機関の義務

  1. 外国人と締結した雇用契約を確実に履行
  2. 外国人への支援を適切に実施
  3. 出入国在留管理庁への届け出

支援計画の作成

受け入れ機関となる農業事業者は、特定技能外国人に対して仕事や日常生活を円滑に行うために省令で定められた10項目の支援実施に関する計画書を作成し、計画に基づいた支援を行わなくてはならない。

  1. 外国人との雇用契約締結後、在留申請を行う前に労働条件や補償金の有無などを説明
  2. 出入国する際の送迎
  3. 住居や携帯電話、ライフラインなどの契約に関わる案内や手続きの補助
  4. 円滑に日本で生活できるようルールやマナー、災害時の対応などの説明
  5. 必要に応じ社会保障や税金などの手続きの補助
  6. 日本語学習の機会の提供
  7. 職場や日常生活で起きた苦情について外国人が理解できる言葉で対応
  8. お祭りや地域行事など地域住民との交流の促進
  9. 受け入れ側の都合で解雇する場合に推薦状の作成や転職に関わる補助
  10. 支援責任者が外国人と定期的に面談し労働基準法違反などがあれば通報

登録支援機関に委託することも可能

支援計画書の作成や諸々の手続き、外国人を受け入れるための環境整備までとなると時間や労力の関係で自分たちで行うのは正直難しいと考える農業事業者もいるのではないだろうか。そういった場合には登録支援機関を利用することで、すべてまたは一部の手続きを委託することができる。

受け入れまでの手続きなど詳しくは農水省のパンフレットで確認することをおすすめする。https://www.maff.go.jp/j/keiei/foreigner/attach/pdf/new-27.pdf

コロナ禍で世界でも農業が人手不足に

特定技能制度で外国人を積極的に採用することは、日本の農業の直近の人手不足を支えるためには有効な手段といえる。しかし、農業分野の人手不足は日本だけでなくあらゆる国で深刻な問題となっていて、労働環境や賃金など働く魅力が感じられなければ他国を選ぶという流れも当然起こり得るだろう。外国人と農業事業者が対等で両者どちらにもメリットを得られる関係性を作れるかが重要になってくる。

近国からの移民に頼っていたフランスやイギリスなどは、新型コロナウイルスの影響による渡航制限のために出稼ぎ労働者を呼ぶことができず、国民に農作業の協力を求めるといったこともあった。当然のことだが、外国人ばかりに頼ってしまうというのは不安も大きい。

その対策として、ITを活用し効率化・省力化を図るなどしてスマート農業の取り組みを進めていくことも人手不足解消に貢献するだろう。

筆者の肌感覚ではあるが、最近は農や食に関心の強い若者が増えてきているとも感じている。特定技能などの制度が外国人にとっても有益なものになるように努めていくことと同時に、これからは農業の魅力と重要性を発信しつつ、国内の消費者も巻き込んでいく必要があるのではないだろうか。


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WRITER LIST

  1. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  2. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  3. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  4. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  5. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。