コロナ禍でも日本茶の海外輸出が伸びている理由〜日本茶に学ぶ農産物輸出(前編)

2021年4月1日、農林水産省から今年2月の農林水産物・食品の輸出額の統計データが発表になった。

これによると、2月の農林水産物・食品輸出額は昨年同月比11%増と、過去10年で過去最高の伸び率(40%増)だった1月に引き続き、好調を維持している。1−2月の累計データで見ると、輸出額は前年同期より24%(296億円)増え、1,522億円となっている。


2021年の農林水産物・食品輸出額(1−2月)品目別(農林水産省資料による)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/attach/pdf/zisseki-272.pdf



2021年に入っても好調を維持する農林水産物・食品輸出


内訳としては牛肉が42%増(48.2億円)、牛乳・乳製品が17%増(31.9億円)、豚肉が89%増(3.6億円)、鶏卵も82%増(7.6億円)など、畜産物が軒並み高い伸び率を見せたほか、米が15%増(8.8億円)、緑茶が9%増(26.3億円)と伸びている。

今回はその中の「緑茶」を取り上げ、昨年に引き続いて伸びている要因と、この成功事例から他の農産物・食品の輸出増に向けた展開について考えてみたい。

2021年の農林水産物・食品輸出額(1−2月)品目別(農林水産省資料による)より抜粋

コロナ禍でも輸出額が伸び続ける日本茶。そのワケは?


世界の緑茶の中で日本の「蒸製緑茶」は少数派


飲み物の中で水の次に飲まれているのが「茶」だ。

世界の茶の消費量は年間約589.7万t(2018年)。国別の茶の消費量を多い国順にみると、中国(約205.6万t)、インド(約103.6万t)、ロシアなどCIS諸国(約24.9万t)、トルコ(約24.8万t)、パキスタン(約18.0万t)の順で、日本は約10.4万t、8番目の消費量となる(2016-2018年平均、日本茶業中央会)。

茶はすべて同じ茶葉(品種は異なる)からつくられるが、茶葉の発酵度合いによって、発酵させない「緑茶」、半発酵の「ウーロン茶」、完全発酵させた「紅茶」に大別される。生産量の6割以上はインド、ケニア、スリランカなどで生産される紅茶であり、緑茶の年間生産量は全体の2割強だ。

その緑茶の最大の生産国は中国。次いで日本、ベトナム、インドネシア、インド、ロシアとなる。日本の生産量は世界の緑茶の1割強。日本では茶葉を蒸してから揉んで乾燥する「蒸製緑茶」が主流であるが、中国で生産されている茶葉を釜で炒って乾燥する「釜炒製緑茶」が、世界中で飲まれている緑茶の約9割を輸出している。

中国の緑茶と対抗していくためには、日本の「蒸製緑茶」の味と香りの独自性をしっかりとアピールし、その美味しさを味わってもらう機会を増やしていくことが重要であると思われる。

健康志向、健康ブームが牽引


2020年の日本茶の輸出については、前年比11%増の約162億円と、農産物・食品の輸出全体が1.1%増と微増であった割には健闘した数字となった。

形状としては「粉末状茶」(抹茶含む)が多く、輸出に占める割合(金額比)は61%。平均単価が前年比121%と上がり、輸出額のアップに貢献している。とりわけ、台湾の大きな伸びやヨーロッパ各国で昨年実績がなかった国を中心に輸出され、EU域や中近東域では「粉末状茶」の単価が極めて高く、高品質の抹茶が取引の中心になってきていることを物語る。

全輸出額の半分以上を占め、近年抹茶の人気が高まるアメリカにおいては、大手コーヒーチェーンのメニューの中でコーヒーの次に人気があるのが抹茶ラテだというから驚く。洋菓子やロールケーキ、スイーツを作る際に混ぜて使うほか、最近ではプロテインにプラスして飲むことも流行っているという。

消費の形態を見ると、茶器で淹れて飲む茶葉よりもティーパックが好まれている。アメリカでは、健康志向やオーガニック志向が若者や女性を中心に高まっていることから、無糖の緑茶やフレーバーをつけた緑茶が人気。

シリコンバレーにあるIT企業では、お茶に含まれるカフェインの頭をスッキリさせる効果を期待して、“一歩先を行くワークコンディショニング飲料”として、無料で緑茶を提供する例もあるという。


海外では健康ブームで緑茶・抹茶の需要が高まっている

グリーンティー=日本茶というイメージの確立


日本茶インストラクター協会専務、日本茶輸出促進協議会事務局長を歴任してきた杉本充俊氏は、日本茶輸出の現状について次のように語る。

「日本茶業界としてはリーフ状の煎茶をもっと推進したいが、茶器の問題がある。欧米など紅茶を飲む地域だと、緑茶も紅茶と同じ淹れ方になってしまうため、緑茶本来の香りが出ない。かといって粉末状にしても水に混ぜた場合の水色が悪い。粉末状であれば、単価の高い高品質な抹茶をもっと広めていく必要がある」

最近は地理的表示(GI)保護制度により産地のブランドを押し出して販売を図ろうとする向きもあるが、杉本氏は世界を相手に販売する上ではあまり産地や特定商店にこだわらずに、日本茶として統一したブランドでPRしていく必要性を強調する。

「極端にいえば“富士山茶”というような統一ブランドでもいい。とにかくグリーンティー=日本茶というイメージをつくることが必要。中国産や近年急速に栽培面積が増えているベトナム産などとの品質の違いをアピールしていかねばならない。“SENCHA(煎茶)”や“MATCHA(抹茶)”という日本の言葉をもっと広めるべき」


手が届いていない地域へのアピール


さらに杉本氏は、今後日本茶の輸出に力を入れるべき地域として中近東地域を挙げる。2020年の順位を見ると、アラブ首長国連邦が27位(19年25位)、クウェート33位(同年35位)、サウジアラビア36位(同年47位)、イスラエル38位(同年43位)、モロッコ45位(同年26位)と、まだそれほど開拓が進んでいない。

しかしながら、2021年1月期はアラブ首長国連邦が18位、クウェートが16位と、国によっては輸出が大きく拡大する兆しもある。

特にアラブの首都ドバイでは、1年開催が延期された国際博覧会が2021年10月1日から2022年3月31日まで開催される。日本館では寿司レストランで日本食の魅力をアピールする予定であることから、寿司には欠かせない緑茶の魅力を中近東の国々にアピールするいい機会となりそうだ。

ちなみに2018年、静岡の丸善製茶株式会社は中近東地域のモロッコに現地茶業大手とともに「合弁会社マルゼン・ティー・モロッコ」を立ち上げた。日本から最終加工前の荒茶で輸送し、2019年より現地の製茶工場で仕上げを行って、主に欧米や中東向けに販売している。

モロッコではアラビア文化の影響から、日常的にお茶が楽しまれている

同社では、茶業が盛んな地域に製造拠点を置くことで、日本茶のプラットホームとして世界に日本茶をアピールできるとしている。

今後はこのような現地の工場で生産・製造を行う例も増えてくることが予想されるが、日本茶を広く世界にアピールしていくためにも、こうした現地工場が日本茶業者による共同工場として機能していくことが必要になってくるのではないだろうか。

日本茶輸出促進協議会
http://www.nihon-cha.or.jp/export/

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。