アメリカで見た日本産米の海外輸出の現状【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.30】

日本政府は、2023年1〜12月の米の輸出(商業用)に関して、前年比29%増の3万7186tの9411億円、中でもアメリカは前年比54%増の6883万tの1768億円と、大幅に輸出が増えたと発表しています(※1 農林水産省「商業用の米の輸出数量等の推移より)。円安による効果とともに、おにぎり店の海外進出や、日本食ブームが後押ししているとも伝えられていました。

政府の農林水産物・食品の輸出額目標としては、2025年までに2兆円、2030年までに5兆円を目指すとしています。なかでもアメリカでの「コメ・パックご飯・米粉及び米粉製品」について、2019年は7億円の実績でしたが、2025年の目標はなんと30億円です。

その目標を達成するための方法として挙げられているのは、
  • 西海岸・東海岸では輸出事業者が日系小売店需要を開拓
  • 今後は日本食レストラン、おにぎり店等や現地系、EC等の小売需要を開拓
  • 現時点では進出がないが、人口が増加しており、日本食レストランの大幅な増加も期待される中部では、新たな市場として需要開拓を図る
  • パックご飯や米粉は主要な輸出先国となっており、さらなる市場開拓を図る
といったものです。

しかし、アメリカでの日本産米の販売状況を見ると、日本政府の日本産米の海外輸出目標と、その目標達成に向けた対策を講じても、なかなか実現しそうにないと思われます。輸出先のコメの流通や価格決定の仕組みもよく理解できていない状況で、目標の数字だけが大きく、虚しく聞こえます。

今回は、アメリカでの日本産米の扱われ方について、本格的に輸出して現地で売っていこうと考えている私の視点から、あらためてレポートしたいと思います。



日系スーパー以外では見かけない日本産米


数か月前にサンフランシスコ周辺にある店舗を訪問した際、店のオーナーから話を聞くことができました。

その店は、消費者へのコメ販売最前線で東洋系食材を販売しています。日本食材を中心に扱っている店舗の棚は、想像どおりの日本産ブランド米のオンパレード。棚に並べやすくコメを購入したお客さんが負担にならない2㎏入りの袋が圧倒的に多く見られました。ちなみに販売価格もほとんど同じでした。

一方、日系以外のスーパーには、カリフォルニア産の中粒種とわずかな短粒種、そしてアメリカ南部の州で生産されている長粒種、タイなどの東南アジアからの輸入香り米長粒種の売り場面積と販売量が多く、日本産米を棚で見つけることはできませんでした。以前から見せつけられていたアメリカ国内産米の販売力の強さは、今も変わっていません。

アメリカ全体のコメ消費量は大きく、700万t近くにもなっています。これは、日本国内での米消費量とほぼ同じです。国内生産の長粒種商品と中粒種商品、そして東南アジアからの長粒米の輸入は年間50万tを超えて増えています。

しかし、残念ながら2023年の日本からの年間輸出量は6883t。日本全国の美味しいコメ産地のブランド米ですが、日本食材販売スーパーでも「飛ぶように」売れているようには見えませんでした。

特に日本産ブランド米の店頭販売価格は信じられないくらい低く、カリフォルニア産の短粒米商品(コシヒカリやあきたこまち)などのほうが30%も高く販売されています。それでも店頭に並べてあるコメは、カリフォルニア産のコメが多く、回転も良く見えました。


高かったカリフォルニア産日本ブランド米の価格も下落


2023年夏までのカリフォルニア産米のコメ相場は高いところに張り付いていましたが、2023年産米の収穫が始まってから価格が下がってきたことが売れている要因となり、販売量が増加に転じていると思われます。

2024年のカリフォルニア産米の作付けが増えそうだと以前紹介しました。カリフォルニアの農業用水が干ばつのため過去3年間連続して減少し、生産されたモミが高い価格で取引きされ、結果として白米も非常に高い価格で取引されていました。ようやくこの状況が変わろうとしています。

実際にはイネの作付面積は、毎年6月中旬にアメリカ農務省からその年の各作物の作付面積が発表されるため、その時点で確認がとれます。その作付け面積から平年作での反収を想定すると、カリフォルニア州20万haでの生産量が計算できます。

作付面積が大きくなれば、当然相場は弱くなります。2023年産米の価格が下がっていたことから、予測されているように作付面積が大きければ相場はさらに下がり、30%も安価な日本産米の店頭での販売競争力も厳しくなると思われます。



政府が言う「輸出好調」の理由が見えないのはなぜか


一つ気になったのは、輸入された日本産ブランド米を新しいアメリカ市場で販売するための工夫がどのように行われているのかが、よくわからないことです。

日本の有名なブランド米であっても、新しい市場で商品を販売しようとする時には、少なくとも購入してくれそうな人々に商品の名前や特徴(良いところ)などを知ってもらうことで、購入を促す努力をするのが一般的な商品販売の第一歩だと思います。

日本でもどこでも、名前も特徴もわからない商品は、いきなり店の出口のレジに持って行ってお金を支払ってもらえるとは思えません。

名前を知ってもらうために宣伝の「のぼり」を売り場に立てたり、簡単な商品紹介のチラシを作ってお客さんに手渡すなど、商品名を知らせながら紹介する対策をしなければ、購入までにはなかなかつながらないでしょう。


日本産米の味を知ってもらうために有効な「試食」



新しい食品を紹介する際に効果的なのは、店頭で行う「試食」です。炊飯したごはんを実際に食べてもらうことが、最も早い効果的な商品の宣伝になります。手間もかかりますし、英語での説明が求められたり、日本でのそれとは少し様子が異なるでしょう。

参考記事:オリジナルブランド“田牧米”が世界のブランド米になるまで【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」 vol.4】
https://smartagri-jp.com/management/2519


JICAの取り組みとして、おにぎりを現地で振る舞って試食してもらうという取り組みが以前ありました。ただ、食事としてのおにぎりと、自分で炊飯しなければ食べられないパッケージ化されたお米では、購買層も売り方も変わってきます

私がいま取り組んでいるのは後者の方です。日本と同様にお米を主食として食べる文化を、日本食人気の高いアメリカの方々にも体験してもらう必要があります。


お米を売るために必要な宣伝・啓蒙とは


試食というのはあくまでひとつの例ですが、新しいマーケットに新しい商品を運んで、多くの人に食べてもらうためにはそれなりの努力が必要です。手間もかかりますし、宣伝や広告には費用もかかります。このような売るための工夫や努力をしないで、商品を作っても売れるようにはなりません。

そういった努力をせず、日本の食材を販売しているスーパーの棚に置いてもらうことが、そのまま販売につながるとは言い切れません。

海外では、言葉も習慣も日本とは異なります。そのような環境での試食販売や、宣伝広告をどのようにすれば最小の経費で大きな効果を得られるのか、試行錯誤をくりかえしながら販売を増やしていくしか方法はないのかもしれません。


※1 農林水産省「米の輸出をめぐる状況について」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/kome_yusyutu/attach/pdf/kome_yusyutu-253.pdf
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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