アメリカでEC販売を開始した「会津産こしひかり白米」の反響 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.32】

2024年4月にカリフォルニア州オークランド港に向けて輸出した、“ごはんの味は世界一”と袋に表示した自慢のコメ「会津産こしひかり」(白米)が、その販売に最大限の力を入れる時期になりました。

当初販売のためのツールとして、「Amazon.com USA」での通信販売をメインに計画していました。具体的には、すでにAmazon.comに販売商品のアカウントを持っているカリフォルニアの精米会社に依頼をして、「会津産米こしひかり」(白米)販売のための登録を進めてきました。

今回の登録作業を依頼したアメリカの担当者と日本にいる私が、登録のために必要な書類を作成・提出して審査を待ちました。そして、手続きを始めてから約1カ月(4週間)で、登録完了の知らせを受け取りました。

販売のために一段階上がれたことには達成感がありました。しかし、商品登録しただけですぐに商品が売れるわけではなく、売るための努力も問われます。具体的な対策を考える作業と同時に、考えた対策を実行するために動くことも要求されます。



EC販売のための努力


ネット通販で「会津産米こしひかり」(白米)を購入してもらうためには、商品の味の良さを実感してもらう必要があります。試食はEC上では行えないので、日本で商品を袋詰めする際、試食用として小袋に詰めて運んでおきました。

この試食サンプルを現地の日本食スーパーなどで配布し、試食結果のフィードバックを聞かせていただきながら、ECサイト上では見えないところでも販売促進活動を進めてきました。

しかし、実際に購入していただけた数は多くはありませんでした。購入者・販売数量を増やすためには、商品の認知度を高めるための対策に力を入れることが販売活動の必須条件だと、改めて思い知らされました。

そして、残念ながら現時点(2024年6月時点)で、通販サイトで実際に売れたのはわずかな数量でした。価格設定には問題がありませんが、アメリカでは届け先までの距離に応じて送料が高くなる仕組みなので、2㎏のコメでも高額な送料になってしまうことがわかりました。


食べ物を売る基本は「いいものを作り、美味しいものを売る」


現状は、通販サイトに登録すれば全米どこからでも注文できて、数日後には自宅で商品を受け取ることができます。

実際に商品を購入していただいた方々から「さっそくご飯を炊いて試食をしてみましたが、非常に美味しかった!」といった感想と同時に、「おいしかったから、おにぎりを作って友人に購入をすすめてみました」というコメントもいただきました。

また、同じようにAmazon.comで購入して炊飯した “ごはんの味”に感激し、「すぐに購入するように知り合いの皆に伝えておきました!」というコメントもありました。

ここまでは“ごはんの味は世界一”と袋に書いて販売した、期待どおりの評価をいただきました。このフレーズによって購入行動をしていただいたのもおそらく事実です。また、購入を推薦していただいたお客さまたちの行動には感謝しかありません。

ただ、口コミでの販促だけでは、しっかりとしたリピーターの確保はできません。 販売数を増やし、購入客を大きく増やすためには、さらなる販売努力によってお客さまの確保をしなければならないこともはっきりしました。



半年ぶりに訪れた日本食スーパーでの日本産米


2023年10月末に、サンフランシスコ市郡内および郊外の住宅地域と商業地域の市場調査を兼ねて、ネットで購入できてスーパーでも販売しているコメの販売価格を確認しつつ、日本のサプライヤーとアメリカでの販売業者と小売店での、販売活動についてリサーチしてきたことは、本連載でも報告しました

しかし、半年ぶりに現地を訪れた私の正直な感想は、「変わり映えしないマーケット」という印象でした。

日本から輸出された有名ブランド米は、カリフォルニアのオリエンタル食品・食材小売店で販売されていますが、これらのコメにはひとつの共通したパターンがあります。

それは、生産地の県などにあるイネ育種研究機関で開発された、「新品種」の白米商品がほとんどだったことです。

日本では、県や国のイネ育種試験場で鳴り物入りで開発された「新品種」を生産者が栽培し、玄米として収穫します。日本中ほとんどこのスタイルでコメ作りが行われ、そのほとんどは地域のJAに販売したところで、生産者は役目を終えます

そこから先の販促活動は、国や県の行政からの支援を受けた地域のJAをはじめ、コメ卸業者と小売業者が産地のコメを実需家に販売するというのが、全国で行われている唯一無二とも言える活動です。

国内であればそれもわかります。しかし、アメリカに輸出された日本産米も、日本国内とまったく同じように販売されているのです。「いつまで同じことを繰り返しているのかな?」と、日本でコメ作りをしていた時に感じた、同じ疑問が湧きました。これしかやり方がないのが日本のコメのつくり方であり、売り方なのでしょう……。



EC通販に加えて、顔の見える試食会と店頭販売へ


日本でも報じられているように、アメリカではいま、大きなコメ消費市場がさらに拡大しています。そんな中で、コメを販売するツールとして広大な国中から注文を受け、国内の隅々に商品を送ることができるオンライン上の店に商品を並べることがいい販売手段になると思っていました。

もちろん、ECに商品を並べただけでうまくいくと考えていたわけではありません。ですが、現地で白米を炊飯して食べているお客様からのリクエストもあり、食材を販売している小売店舗での販売を開始することにしました。

その第一歩として、店頭での試食会を実施し、ニーズを持っている方たちには「会津産米こしひかり」(白米)はしっかり売れるという手応えを感じることができました。次回は試食販売によって見えてきたアメリカのコメ販売の意識の変化についてお伝えしたいと思います。


【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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