「会津産こしひかり白米」のアメリカ販売がスタート 最初の販路は……?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.31】
2024年2月上旬、2㎏袋に詰めた「会津産コシヒカリ」白米が、東京港から出港するコンテナ船に乗り、2月26日にカリフォルニア州オークランド港に到着しました。
サンフランシスコのダウンタウンから、内陸のサクラメント方面に行くために国道80号線でサンフランシスコ湾を渡ります。この時、ベイブリッジを渡るのですが、右下の大きなコンテナ船などが停泊しているのが、カリフォルニア州の主要港の1つで、2021年の輸入貨物量が同港94年間の歴史上最多を記録した「オークランド港」です。
この港に到着したコンテナに入っている福島県産の白米製品「会津産コシヒカリ」も、無事通関検査が完了してカリフォルニア州内の倉庫に運ばれました。
消費者が商品を手にするまで、卸売業者や小売店などが流通に関わります。前回までで現地の小売店の店頭での調査を行ってきましたが、今回の「会津産コシヒカリ2㎏」の最初の販路は、通販業者に販売を委託し、インターネット上での販売を主たる販売先に決めました。
その通販サイトは、これまで日本から輸入されているコメも販売しています。日本産輸入米の強力な競争相手であるカリフォルニア産米の商品も、アメリカ国内のコメ卸売業者のブランドとして販売している大手サイトです。
さまざまなサイトを比較し検討した結果、このサイトで販売することを決めた理由は「商品の持っている競争力を発揮できれば、競合する類似商品との競争に勝ち、販売量を増やせるのではないか」と考えたからです。
そこで、すでにこのサイトのアカウントを持っている業者にネット上での販売と関連する業務を委託し、販売された商品の発送手続きなどもしてもらいました。
価格競争力は輸入品の宿命だと言えます。産地からの輸送コストや輸出国での販売に至るまでの各種規制をクリアするためのコストがかかります。
通常であれば、現地で作られた日本米商品の価格には敵わないと言われても仕方がない状況です。しかし、私たちの福島県産白米商品は、「ごはんの味は世界一」と誇れる白米です。その点については、自信をもって売り出すことができます。
ただ、ひとつ心配なことがありました。それは、福島県産の産農産物の輸入と販売が、ここしばらくアメリカ政府によって認められていなかったということ。東日本大震災とその直後に発生した原子力発電所の事故によって、世界中で厳しく輸入禁止措置が課されていたからです。
最近の日本食販売店やスーパーには、日本のコメどころで生産され、きれいな袋に詰められて輸出された数多くの「ブランド米」が並んでいます。しかし長い間、我がふるさとの「福島産のコメ」は陳列されていませんでした。
しかし2023年、ついに輸入禁止措置が解除。福島県産米の輸入が認められ、「福島産のコメ」の問題はようやく解決されました。実際に現地で福島県産のコメであるということを伝えても、放射能汚染について心配される声は聞こえてきません。私たち日本人が考えている以上に、アメリカでは大きな影響はなく、国として禁輸措置を解除したということで十分に安心していただけているようです。
もうひとつ考えるべき重要なことは、国土が広いアメリカで、コメのように重量がある商品を販売する際の「運送費」です。
広大な土地を持つアメリカ国内の輸送は、基本的にトラック。今回のコメは、西海岸のサンフランシスコやロサンゼルスの港まで船で運び、カリフォルニアの倉庫に保管しています。東海岸の消費地などに届ける際には、そこから長距離トラックで運搬します。
シエラネバダとロッキー山脈を越えるので、かなり長距離になりますが、アメリカも日本と同様、燃料費の値上がりとトラックドライバーの賃金の高騰で、非常に高価な運送費になっています。
ただ、どの国のコメであってもアメリカ大陸を移動する商品にかかる費用はみな平等。運送費もコメの販売価格に乗せて販売しなければなりません。
今回、私たちの強い味方となってくれたのが「福島県人会」の皆さんです。
美味しい福島県産のコメを、以前お世話になったアメリカに住む福島県人会の皆さんに食べていただきたいという思いもありました。
通信販売は、注文して代金を支払えば自宅まで届けてもらえる利便性があり、コメを販売する私たちから見ると“アメリカ合衆国”という巨大なマーケットがインターネット上に存在しています。さらにアメリカではコメを食べる人口が増加し、「美味しいコメ」がアメリカの消費者に選ばれています。
誰でも簡単に購入してもらえる通信販売を選んだ目的は、
コメ市場としてこれからも成長するであろうアメリカ合衆国。この国に住む多くの人たちが、コメの通信販売サイトにアクセスして購入し、食べてもらうことで、これからの販売方法も変化していくと思います。
アメリカにコメを輸出するときにしておかなければならない手続きがあります。それは、衛生管理と食品に対するテロ対策ができているかの届け出です。
日本産米も含め海外からコメなどの食品をアメリカに輸出するためには、輸入食品や国内生産の食品、そして医薬品の製造・包装・保管・コンテナへの積み込みなど、原料保管から商品がアメリカ合衆国に到着するまで詳細な届け出が必要になります。
システマチックに管理するため、対象とする商品製造に関連する施設の詳細情報などを登録しなければなりません。かつては簡単な申請で登録番号が発行されていたのですが、テロなどが起き、時代が変わったということを登録申請書の内容から実感させられました。
アメリカでは外国から輸入する食べ物に対しても、9・11の同時多発テロの発生で多くの人命が失われたことを教訓として、テロのリスクを最小限に留める努力をしています。
今回の福島県産白米も例外ではなく、海外(日本)にある食品加工・保管施設を登録し、監査の要請があればいつでも受け入れないといけません。
さらに、厳しさを感じたのはアメリカの会社もしくはアメリカ国内にいる人を、海外の食品加工や保管、輸送などに関わる施設の代理人として立てなければならず、必要な作業を担ってもらわないといけなかったことです。
もし日本の食品加工処理・保管施設に問題が発生した場合、代理人が連帯責任を取らせらされる可能性があります。国民の食の安全に対するアメリカ政府の責任として、輸入する食品には限りなく厳しく対処しながら、安全なものを国民に提供する責任を果たそうとしている、アメリカ政府の考えも感じました。
この登録作業も含め、久しぶりの輸出対応の商品作り、関連する英語表記の輸出書類作りも久しぶりだったので、辞書や各種情報ソースからの確認をしながら、正確な書類を作る工程は大変でした。書類作りなどの細かい手続きも含め、福島県産のコメの輸出と販売にこぎつけるまでのことを思うと感慨深い作業になりました。
こうした英語での手続きを、初めて日本産米を輸出しようとする企業や団体が行うことは難しいと考えられます。それも日本からの輸出がなかなか進まない一因なのかもしれません。
サンフランシスコのダウンタウンから、内陸のサクラメント方面に行くために国道80号線でサンフランシスコ湾を渡ります。この時、ベイブリッジを渡るのですが、右下の大きなコンテナ船などが停泊しているのが、カリフォルニア州の主要港の1つで、2021年の輸入貨物量が同港94年間の歴史上最多を記録した「オークランド港」です。
この港に到着したコンテナに入っている福島県産の白米製品「会津産コシヒカリ」も、無事通関検査が完了してカリフォルニア州内の倉庫に運ばれました。
まずはインターネット通販から
消費者が商品を手にするまで、卸売業者や小売店などが流通に関わります。前回までで現地の小売店の店頭での調査を行ってきましたが、今回の「会津産コシヒカリ2㎏」の最初の販路は、通販業者に販売を委託し、インターネット上での販売を主たる販売先に決めました。
その通販サイトは、これまで日本から輸入されているコメも販売しています。日本産輸入米の強力な競争相手であるカリフォルニア産米の商品も、アメリカ国内のコメ卸売業者のブランドとして販売している大手サイトです。
さまざまなサイトを比較し検討した結果、このサイトで販売することを決めた理由は「商品の持っている競争力を発揮できれば、競合する類似商品との競争に勝ち、販売量を増やせるのではないか」と考えたからです。
そこで、すでにこのサイトのアカウントを持っている業者にネット上での販売と関連する業務を委託し、販売された商品の発送手続きなどもしてもらいました。
価格競争力は輸入品の宿命だと言えます。産地からの輸送コストや輸出国での販売に至るまでの各種規制をクリアするためのコストがかかります。
通常であれば、現地で作られた日本米商品の価格には敵わないと言われても仕方がない状況です。しかし、私たちの福島県産白米商品は、「ごはんの味は世界一」と誇れる白米です。その点については、自信をもって売り出すことができます。
2023年、福島産農作物の輸入禁止措置が解除。しかし運送費が高騰
ただ、ひとつ心配なことがありました。それは、福島県産の産農産物の輸入と販売が、ここしばらくアメリカ政府によって認められていなかったということ。東日本大震災とその直後に発生した原子力発電所の事故によって、世界中で厳しく輸入禁止措置が課されていたからです。
最近の日本食販売店やスーパーには、日本のコメどころで生産され、きれいな袋に詰められて輸出された数多くの「ブランド米」が並んでいます。しかし長い間、我がふるさとの「福島産のコメ」は陳列されていませんでした。
しかし2023年、ついに輸入禁止措置が解除。福島県産米の輸入が認められ、「福島産のコメ」の問題はようやく解決されました。実際に現地で福島県産のコメであるということを伝えても、放射能汚染について心配される声は聞こえてきません。私たち日本人が考えている以上に、アメリカでは大きな影響はなく、国として禁輸措置を解除したということで十分に安心していただけているようです。
もうひとつ考えるべき重要なことは、国土が広いアメリカで、コメのように重量がある商品を販売する際の「運送費」です。
広大な土地を持つアメリカ国内の輸送は、基本的にトラック。今回のコメは、西海岸のサンフランシスコやロサンゼルスの港まで船で運び、カリフォルニアの倉庫に保管しています。東海岸の消費地などに届ける際には、そこから長距離トラックで運搬します。
シエラネバダとロッキー山脈を越えるので、かなり長距離になりますが、アメリカも日本と同様、燃料費の値上がりとトラックドライバーの賃金の高騰で、非常に高価な運送費になっています。
ただ、どの国のコメであってもアメリカ大陸を移動する商品にかかる費用はみな平等。運送費もコメの販売価格に乗せて販売しなければなりません。
現地に住む福島県人会の協力も得て
今回、私たちの強い味方となってくれたのが「福島県人会」の皆さんです。
美味しい福島県産のコメを、以前お世話になったアメリカに住む福島県人会の皆さんに食べていただきたいという思いもありました。
通信販売は、注文して代金を支払えば自宅まで届けてもらえる利便性があり、コメを販売する私たちから見ると“アメリカ合衆国”という巨大なマーケットがインターネット上に存在しています。さらにアメリカではコメを食べる人口が増加し、「美味しいコメ」がアメリカの消費者に選ばれています。
誰でも簡単に購入してもらえる通信販売を選んだ目的は、
- ふるさとが福島県の方に、福島で生産された美味しいコメを届けたい
- 福島県産のコメを気に入ってもらい、常連になってもらいたい
- アメリカで美味しいコメを食べたいと思っている方に購入してもらいたい
- 簡単に購入してもらって、さまざまな食べ方を提供したい
コメ市場としてこれからも成長するであろうアメリカ合衆国。この国に住む多くの人たちが、コメの通信販売サイトにアクセスして購入し、食べてもらうことで、これからの販売方法も変化していくと思います。
アメリカ輸出に不可欠な食品テロ対策
アメリカにコメを輸出するときにしておかなければならない手続きがあります。それは、衛生管理と食品に対するテロ対策ができているかの届け出です。
日本産米も含め海外からコメなどの食品をアメリカに輸出するためには、輸入食品や国内生産の食品、そして医薬品の製造・包装・保管・コンテナへの積み込みなど、原料保管から商品がアメリカ合衆国に到着するまで詳細な届け出が必要になります。
システマチックに管理するため、対象とする商品製造に関連する施設の詳細情報などを登録しなければなりません。かつては簡単な申請で登録番号が発行されていたのですが、テロなどが起き、時代が変わったということを登録申請書の内容から実感させられました。
アメリカでは外国から輸入する食べ物に対しても、9・11の同時多発テロの発生で多くの人命が失われたことを教訓として、テロのリスクを最小限に留める努力をしています。
今回の福島県産白米も例外ではなく、海外(日本)にある食品加工・保管施設を登録し、監査の要請があればいつでも受け入れないといけません。
さらに、厳しさを感じたのはアメリカの会社もしくはアメリカ国内にいる人を、海外の食品加工や保管、輸送などに関わる施設の代理人として立てなければならず、必要な作業を担ってもらわないといけなかったことです。
もし日本の食品加工処理・保管施設に問題が発生した場合、代理人が連帯責任を取らせらされる可能性があります。国民の食の安全に対するアメリカ政府の責任として、輸入する食品には限りなく厳しく対処しながら、安全なものを国民に提供する責任を果たそうとしている、アメリカ政府の考えも感じました。
この登録作業も含め、久しぶりの輸出対応の商品作り、関連する英語表記の輸出書類作りも久しぶりだったので、辞書や各種情報ソースからの確認をしながら、正確な書類を作る工程は大変でした。書類作りなどの細かい手続きも含め、福島県産のコメの輸出と販売にこぎつけるまでのことを思うと感慨深い作業になりました。
こうした英語での手続きを、初めて日本産米を輸出しようとする企業や団体が行うことは難しいと考えられます。それも日本からの輸出がなかなか進まない一因なのかもしれません。
【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
- アメリカでEC販売を開始した「会津産こしひかり白米」の反響 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.32】
- 「会津産こしひかり白米」のアメリカ販売がスタート 最初の販路は……?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.31】
- アメリカで見た日本産米の海外輸出の現状【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.30】
- 日本と異なる輸出商品の決まりごと【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.29】
- いよいよ始まった福島県産白米のアメリカ輸出 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.28】
- 食味の高い日本産米がなぜアメリカでは売れないのか?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.27】
- 福島県産米を世界で売るための「ブランド戦略」【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.26】
- 日本産米が世界で売れる余地はあるのか? カリフォルニア現地調査レポート【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.25】
- 日本人の常識は当てはまらない「海外で売れる米商品」とは【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.24】
- “海外で売れる”日本産米輸出の考え方【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.23】
- 日本産米の輸出を阻む「輸送コスト」の解決策【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.22】
- 日本のコメ生産者だけが知らない、海外の日本産米マーケットの現実【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.21】
- 世界のコメ生産における日本の強みを知ろう【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.20】
- コメ生産を諦めないための「低コスト生産」の条件を考える(後編) 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.19】
- コメ生産を諦めないための「低コスト生産」の条件を考える(前編)【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.18】
- カリフォルニアのコメ生産に学ぶ日本の低コスト栽培に必要なこと【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.17】
- カリフォルニアでの大区画水田作業は、実は効率が悪い?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.16】
- ドローン直播栽培が日本産米の輸出競争力を高める切り札になる【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.15】
- ドローンによる直播栽培を日本で成功させるために必要なこと【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.14】
- 発芽種子によるドローン直播実現のための「理想の播種床」とは【「世界と日本のコメ事情」vol.13】
- 日本の環境に適したドローン用播種装置を開発するまで【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.12】
- 日本のコメ生産コスト低減のカギは農作業用ドローンによる直播に【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.11】
- カリフォルニアのコメビジネスの基礎を作ったのは、若い大規模生産者だった【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.10】
- 日本の「おいしいコメ」を世界で売るためのアイデアとは?【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.9】
- なぜ日本の生産者はコメを世界に売ろうとしないのか【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.8】
- 日本の品種が世界で作れないわけ その3【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.7】
- 日本の品種が世界で作れないわけ その2【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.6】
- 日本の品種が世界で作れないわけ その1【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.5】
- オリジナルブランド“田牧米”が世界のブランド米になるまで【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」 vol.4】
- 籾で流通させるアメリカのコメ流通事情【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」 vol.3】
- カリフォルニア州でのコメの生産環境とは【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」 vol.2】
- アメリカで日本のコメ作りに挑戦した理由【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.1】
SHARE