改正種苗法の完全施行で、変わったものと変わらないもの

改正種苗法が、2022年4月1日に完全施行された。

品種登録された登録品種の自家増殖には、育成者権を持つ育成者権者の許諾が必要になった。農研機構や一部の県が育成者権を持つ品種では、許諾の手続きや許諾料が必要になっている。ただし、手続きも許諾料も求めず、従来と対応の変わらない都道府県も多い。

改正種苗法の完全施行の前後では、どのような変化があったのかを具体的に見ていこう。

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農研機構はカテゴリ別に対応


これまで生産者が登録品種の種苗から次の世代を生み出す「自家増殖」は、原則として育種家の知的財産権に当たる育成者権の侵害にはならないとされてきた。

それが4月1日以降、育成者権者の許諾を得た場合にのみ認められるように制度が変わっている。

もともと民間の種苗会社などは自家増殖ができない品種(F1種など)を開発していたり、契約時に自家増殖を禁じたりしていたので、同法の完全施行の影響はあまりない。変化があるのは、農研機構や都道府県といった公的機関の登録品種の扱いだ。

法改正を受けた変化が大きいのは、農研機構が単独で育成した登録品種だ。次のように3つのカテゴリに分けて対応している。

  1. 許諾手続きが不要:イネ、コムギ、オオムギ、ダイズ、サトウキビ、ソバ、ハトムギ、ゴマ、ナタネ、花き、牧草、トウモロコシなど
  2. 許諾手続きが必要だが許諾料は無償:カンショ、イチゴ、バレイショ、茶
  3. 許諾手続きが必要で許諾料が有償:果樹(ブドウ、カンキツ、カキ、ニホンナシ、クリ、リンゴ、モモなど)


海外流出が多い果樹では、許諾を有償に


農業者または生産者団体といったとりまとめ団体は、農研機構のホームページの申請フォームから許諾手続きを行う。許諾料のかかる果樹は、1本あたり農業者個人の場合は100円(税込)、とりまとめ団体の場合は50円(税込)となっている。

果樹で許諾料をとる理由を、農研機構はこう説明している。

「果樹は木本性植物であり、ひとたび海外流出が起これば違法な収穫物が安定的かつ長期的に生産されるリスクがあり、現状でも、違法な種苗の取り締まり対応が発生しているところです。品種のブランド価値を守り、国内の生産者が品種のメリットを最大限享受できるよう、育成者権の適切な管理を行うためのコストの一部として、これまで種苗を購入する際に負担いただいていた許諾料と同等の水準の許諾料を、自家用の栽培向け増殖本数に応じて負担いただくこととしました」

詳しくは、農研機構の「農研機構育成の登録品種の自家用の栽培向け増殖に係る許諾手続きについて(農業者向け)」をご覧いただきたい。


都道府県は基本的に許諾料求めず

都道府県の対応はというと、基本的に自家増殖を無償としている。許諾を求めるかどうかは、同じ品目でも都道府県によって対応が分かれている。いくつかの例をご紹介しよう。

柑橘を例にとると、ミカンの生産量1位の和歌山県は、県の定める遵守事項を守れば、許諾手続きも許諾料も不要とした(和歌山県育成品種について)。

愛媛県は、県内の生産者に対し県の遵守事項を守れば、ごく一部の品種を除いて許諾手続きも許諾料も不要とした(愛媛県が育成した登録品種の自家増殖の方針について)。

原則、許諾を求めるのは静岡県だ。「自家増殖は可、許諾は要、費用は無償とします」としている(静岡県登録品種の利用制限方針を公表します。)。

熊本県も自家増殖に事前の届け出を要する品目(柑橘、カラー)に柑橘を含めている。なお、自家増殖を禁じる品目(イチゴ、水稲、イグサ、ナス、メロン、ニガウリ)も設けた(熊本県登録品種の自家増殖の取扱いを決定しました!)。

多くの都道府県は許諾を不要としており、完全施行に伴う変化は少なそうだ。許諾料を求めない背景には、産地振興のために育種をしている立場上、農家に新たな負担を求めにくいという事情もありそうだ。

完全施行も、変化少なく「もったいない」



都道府県の登録品種について、農家の金銭面での負担が増えないことは、歓迎すべきかもしれない。その一方で、改正法の施行に伴う変化が少ないということは、育成者権を守り、種苗の海外流出を止めるという法改正の目的があまり達成されないということでもある。

農林水産省輸出・国際局知的財産課種苗室長の藤田裕一さんは、都道府県の対応について「守るべき品種をしっかり守るようにするのが非常に大事なんですけれども、法改正をしても、なかなかそこまで行けなかったと感じているところです」と話す。

また、一部の県が許諾制を導入したことを評価しつつ、許諾なしでの直増殖を多くの県が認めたことについては、「許諾を得て増殖している人を把握して初めて、許諾なく増殖している人がわかるわけですから、守るべき品種が守られないという事態は懸念しています。いい品種が実際に海外に流れてしまっているのが現状で、自家増殖の実態を把握する努力をしなければ、この流出は止められません。もったいないなとは思います」とする。

一方で、これまで海外流出の多かった農研機構の登録品種の多くが許諾制に移行したことを歓迎している。

法改正は、育成者権を世間に広く認知させるというプラスの効果も生んだ。登録品種を許諾なく増殖して種苗を勝手に売る行為は、改正前から違法だったが、認識不足でこうした種苗を販売する農家や店舗も少なくなかった。

しかし、今回の法改正をきっかけに違法な種苗の取り扱いを店舗側が取りやめるようになり、「登録品種のカンショの苗を直売所に出荷できなくなった」といった問い合わせが種苗室に寄せられたそうだ。

こうした問い合わせは2021年に多かったものの、完全施行のタイミングではさほど寄せられていないという。改正前後にかなり話題を呼んだ種苗法だったが、完全施行は静かに進んでいる印象である。


種苗法の改正について:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/syubyouhou/
農研機構育成の登録品種の自家用の栽培向け増殖に係る許諾手続きについて (農業者向け) | 農研機構
https://www.naro.go.jp/collab/breed/permission/index.html

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。