ウクライナの穀物の輸出促進に向けて、国際連合食糧農業機関と日本が協力

国際連合食糧農業機関(FAO)は、日本政府からの新たな1700万米ドル(約23億円)の拠出を受け、戦争の影響で貯蔵施設が不足するウクライナの農民に対し、この7〜8月の収穫期に向けて貯蔵庫を確保する。同時に、ウクライナ産の主要農作物を国際市場に輸出できるよう支援を開始します。

ウクライナで実施するFAOの緊急支援計画に対する日本政府からの支援は2度目で、合計2000万米ドルとなります。

世界有数の穀物庫、ウクライナ


ロシアによるウクライナ侵攻が、世界の農業・食料安全保障に大きな影響を及ぼしていることは明白になってきました。

2021年には、食料危機に陥っている世界の55の国のうち36か国が、小麦の輸入の10%以上をウクライナ及びロシアに依存していました。中でもいくつかの国は、小麦の輸入の大部分がウクライナ及びロシアだったと言います。


ウクライナ農業政策・食料省によると、平時は毎月600万トンの穀物を輸出していました。しかしロシア侵攻が始まった2022年3月には32万2000トン、4月には97万トン、5月には120万トン、6月には100万トン強の穀物の輸出にとどまっています。

また、政府統計局によると、2022年1月1日時点で、同国の貯蔵能力は7500万トンでしたが、戦争により直接被害を受けた地域を考慮すると、現在使用可能な貯蔵能力は6090万トンにまで落ち込んでいるとみられています。

2022年の生産現場はさらに深刻です。

6月2日の時点では、昨年比19.4%減の1420万ヘクタールの春作物の植付が終了していますが、生産者の約25%は、作物の病害虫防除に必要な物資が不足。農業生産と輸送に必要な燃料が手に入らない状況にもあり、7〜8月に行われる冬作物の収穫に影響を及ぼす可能性が出てきています。

さらに、種子、病害虫防除材、肥料及び燃料の価格は平均して40%から45%上昇しており、農業投入財の価格は高騰。今後、生産者が、生育中の作物を収穫しても収益が生まれないと判断される可能性もあります。

ウクライナへの支援が食料安全保障につながる


今回の日本からの資金援助により、FAOはウクライナ農業政策・食料省と連携し、穀物の貯蔵能力の向上を図り、収穫から輸出までのサプライチェーンの機能の回復を後押しするとともに、ウクライナの農家が今後も農業を続けられるよう生産力の維持を図るとしています。

日比絵里子FAO駐日連絡事務所長は、「ウクライナにおける戦争により、世界各地で食料安全保障が脅かされる中、この日本の支援は、ウクライナだけでなく、食料輸入に依存する多くの開発途上国のニーズも考慮したグローバルな取り組みです。FAOは、農林水産業や食料の専門機関としての知見や経験、20年にわたるウクライナとの緊密な協力関係を梃子に、ウクライナの農家への支援と、世界の食料不安の解消に向けて尽力していきます」と強調します。

また、レイン・ポールセンFAO本部緊急支援・レジリエンス部長は、「ウクライナの農家は、自分たち自身、地域社会、そして世界中の何百万もの人々に食料を供給しています。ウクライナの農家が食料生産を継続し、安全に貯蔵し、代替市場にアクセスして農産物を販売できるようにすることで、ウクライナの人々が自分たちが必要とする食料を確実に手にするだけでなく、生計を守るとともに、国内の食料安全保障を強化することになります。同時に、ウクライナの農家への支援は、輸入に依存する国々において、穀物を適切な価格で安定して十分に供給するためにも欠かせません」と述べています。

日本がウクライナからの輸出を支援する意義


ウクライナは、年間4500万トンを超える穀物を国際市場に供給する、世界で5本の指に入る穀物の輸出国です。しかし、ウクライナ農業政策・食料省によると、黒海の港の封鎖により、昨年収穫した輸出用の穀物と油糧種子が未だ1800万トンも国内に滞留しています。

かと言って、海上輸送で輸出できない穀物を、鉄道や河川を利用する代替輸送ルートだけで運び出すことは不可能な情勢で、新たな輸送ルートにも課題が残されています。

今季、ウクライナでは最大6000万トンの穀物の収穫が見込まれていますが、輸出が滞っているため、昨年収穫した作物が貯蔵施設の全容量の30%を占めたままとなっています。

ピエール・ヴォティエールFAOウクライナ国別事務所代表は、「日本からの新たな支援により、ウクライナの東部、中部、南部、北部の10の州において、小規模農家にはポリエチレン製の簡易穀物貯蔵庫や穀物用ローダー及びアンローダーを、中規模生産者や組合には各種の組み立て式貯蔵庫を提供し、現在ウクライナが抱える貯蔵能力不足の解消に向け支援していきます」と抱負を述べています。

さらに、今回の支援の一環として、穀物輸出の代替輸送ルートを実用化し、イズマイール検疫所における検査能力を拡大するため、ウクライナ政府への技術協力も実施するとしています。これによりウクライナの農家は、同施設における動植物検疫や食品安全上の検査、証明書の発行等により、輸出に必要な国際基準を満たすことができるようになります。

ウクライナにおけるFAOの支援


ロシアとウクライナという近くて遠い地域での紛争が起きるまで、ほとんどの日本人はその影響力を実感していなかったでしょう。

しかし、いま世界の食料事情は、ひとつの国が食料自給率を上げて自給できればいいというものではなく、地球をひとつの輪として連環しています。その意味で、日本がウクライナの農業と流通に貢献することの意義は非常に大きなものとなっています。

今回の戦争の開始に伴い、FAOは緊急支援計画を策定し、随時更新中。同計画では、2022年12月までに約98万の小規模農家や中規模生産者を支援するため、1億1540万米ドルの資金援助を呼び掛けています。6月29日現在、すでに7万5000人超の人々に対し、小麦や野菜の種、じゃがいもの種芋などを配布し、多目的利用のための現金支給を実施。さらに、今後数週間で4万4000人に対し、野菜、穀物、牛乳、肉、卵の自給に向けた支援を行う予定となっています。

これまでに、FAOの緊急支援計画には、日本をはじめ、オーストラリア、ベルギー、EU、フランス、米国国際開発庁、国連の中央緊急対応基金等から、計3040万米ドルの資金が集まっている。支援額が増えれば、FAOはより多くの人に援助の手を差し伸べ、食料生産を拡大しウクライナの食料安全保障を確保することができるようになるでしょう。

そして、今回のように他国の戦争により世界の食料事情が脅かされることは、今後も起こり得ます。日本が外交面でも自然豊かな農業国として果たすべき役割も、自国の農業行政の改善とともに考えていく必要がありそうです。


原文記事(英語)
https://www.fao.org/newsroom/detail/ukraine-fao-scales-up-efforts-to-save-upcoming-harvest-ensure-export-of-vital-grains/en
FAOインフォメーションノート「ウクライナ及びロシア連邦の世界の農産物市場における位置づけとウクライナでの戦争に伴うリスク」概要
https://www.fao.org/japan/news/detail/jp/c/1539397/

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。